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中国が実力行使を示唆!THAAD配備で韓国がアジアの火薬庫になる
朝鮮半島は米中激突の「最前線」
近藤 大介 プロフィール

何が飛び出してもおかしくない

さて、「第二の廬武鉉」文在寅候補の「対抗馬」として急浮上しているのが、「穏健左派」の安熙正・忠清南道知事(51歳)である。

1965年5月に忠清南道に生まれた安氏は、中学生の時からロシア革命史などの左翼思想に染まり、高校1年から大学生に混じって学生運動に加わった。高麗大学哲学科に入学し、大学卒業後は金泳三氏率いる統一民主党に入った。

しかし金泳三氏が盧泰愚大統領の後継者となるため与党に寝返ったことに反発して脱党。以後、同時期に脱党した19歳年上の廬武鉉氏に付き従う。2002年の大統領選で、廬武鉉陣営の政務代表となるが、当選後、選挙法違反で起訴され、獄中生活を送った。

その後、2010年に忠清南道知事選に当選し、現在2期目を務めている。知事としての評価は非常に高く、伝統的対立がある慶尚道と全羅道の緩衝材の役割を果たしている忠清道の票は、安氏に行くと言われている。

また、若いイケメン候補ということで、多くの女性票が安氏に流れると見込まれている。姜尚中教授に雰囲気がよく似たタイプだ。

安熙正氏(wikipediaより)

思想的には左派だが、政治手法としては実用主義、中道と言える。私が感心したのは、何かのインタビューで、「白米のような大統領になりたい」と述べていたことだ。「派手な料理ではないが、なくてはならない白米のような存在が理想像」だというのだ。「オレが、オレが」の韓国政界にあって、珍しいタイプと言える。

安氏は、「積極的沈黙」ということも言っている。例えば慰安婦問題やTHAADの配備問題など、国論を二分するような外交問題に対しては、「あえて沈黙するという選択も取る」というのだ。要は、何か発言すればロクなことにはならないから、あえて黙っているというわけだ。「沈黙する」と発言するところも、自己主張の激しい韓国政界の中では、稀有な存在である。

今後、「共に民主党」は、急ぎ「競選」と呼ばれる党の統一候補者選びを行うことになる。そこでは、すでに党内票を固めている文在寅候補が圧勝することは見えている。その時、安熙定知事が出馬を見送って文氏の支持に回るか、それとも脱党して「第2の左派候補」として出馬するかが、今後の最大のポイントとなるだろう。

 

つまり、51歳の若い安氏が譲歩することで「共に民主党」主流派に「貸し」を作れば、そこで次期大統領は文在寅氏に決まり。安氏が党を割ってでも出馬すれば、今度は右派の候補と合わせて三つ巴の激戦となる。

右派は、昨年秋以降、「大統領代行」として安定感を示した黄教安首相を担ごうとしているが、黄氏は3月13日現在、出馬表明さえしていない。この先、たとえ出馬したとしても、解任された朴槿恵大統領の政権のナンバー2だったわけだから、左派候補からそのことを糾弾されて、勝てる見込みは少ないだろう。

黄氏が勝つとしたら、文在寅と安熙正の両左派候補同士が泥沼の非難合戦を繰り広げ、その間に北朝鮮有事が起こるといった場合だ。

黄首相は、出馬を見送る可能性も少なからずある。そうなると、右派としての選択肢は、事実上3つとなる。第一に、別の候補者を立てる。その場合、候補になりそうな人物は、洪準杓慶尚南道知事くらいのものだ。実際、洪知事はこのところ、自らの出馬に意欲満々である。

2番目の選択肢は、「国民の党」前共同代表で、すでに出馬を目指している安哲秀氏を右派が担ぐというものだ。

安哲秀氏(wikipediaより)

ソウル大学医学部出身の安氏は、2011年のソウル市長選で出馬を期待されたが、朴元淳候補をサポートして勝利に貢献。2012年の大統領選では、朴槿恵、文在寅、安哲秀と候補者が三つ巴になったことで、出馬を辞退して文在寅支持に回り、文候補の善戦に貢献した。だが、もともと富裕層出身で、中道的志向を持つだけに、安哲秀氏が右派の候補になっても不思議ではない。

3つ目は、ウルトラCだが、あえて独自候補を立てずに安熙定候補に乗っかるという選択だ。こちらは可能性としては低いが、今回の大統領選は、わずか2ヵ月後には決着がついている超短期決戦だけに、何が飛び出してもおかしくはない。