恋する石巻

中瀬のやきいものおじさん

 

古民家カフェが完成した後、田代島に海洋学習ヴィレッジを作った時に島に置くボートを見に、石巻の中瀬に行った。

 

 

夕暮れ、中州の写真を撮っていると、遠くで誰かが私を呼ぶ・・・

 

 

いつも、この中州で焼きいもを売っているおじさんだった。
「もう帰るから、残っている焼きいもを買っていかないか。安くするから」

 

おじさんは、多分そんな事を言っていた。
(私は宮城の方言を、完全には聞き取れない)
おじさんの笑顔を見ていたら、私は焼きいもを買っていく気になった。

 

「普通の焼きいもの7倍は美味しいから」と、

おじさんは、いものたくさん入った紙袋を手渡してくれた。

 

 

おじさん写真を撮らせてよとお願いすると、動きを止めておじさんは言った。

「ああ、写真なんか一つもなくなっちまった」

そう言って、トラックの運転席から賞状を出して、私に見せてくれた。

 

 

長年消防団で働いた事への感謝状だった。

この感謝状が、震災後に唯一残った、おじさんの思い出の品だった。

 

 

すべてを流されて、いま毎日、人もまばらな中州で焼きいもを売る。

おじさんは、どんな気持ちで石巻を生きているのだろう。