朝比奈御大はかつてこう言った。
「一流のバレエダンサーは音楽通りやる。一流のオペラ歌手も音楽通りやる。音楽はもちろん楽譜通りやる。面倒なこと言うヤツはガツン!とやればいいんです」
僕も昔は相当ヤンチャで、各話演出なのにコンテもシナリオもごっそり変えてしまうようなことを平気でやったが、今はできるだけ素直にやろうと心がけている。
まぁオリジナル作品が増えたので、自分の自由にできるっていうのもあるんですがね。
功成り名遂げるというか、多くの演出家の中で名前を憶えてもらうためには、時には変なこともしなければならない。
変なこと、というのは語弊があるか、正しいと思ったことは一心にしなければならない。それが表現の絶対的な規則だ。
そしてそれは必ず通用する。通用しなければ辞めるしかない。
それは我儘ではない。
自分を捨てたところにある、捨て身の戦いだ。
それが今できる人間が、業界に何人いるのだろう?
まぁそれはさておき、そういう時期を過ぎると、人はどんどん素直になっていく。
我を出さなくても既に認められているという状況もあるのだろうが、そんなことよりももっと純粋な表現を模索することになる。
僕もそろそろ、その辺に来たのだろうか?
因みにこんなこと言ってる朝比奈御大だって、若かりし頃はショスタコ5番のフィナーレのコーダで楽譜無視の銅鑼を使ったり、ブルックナー5番の第二楽章で異様なルバートをかけたり、結構なヤンチャぶりだった。
そういう人達が「自分」を超えてたどり着く境地が、つまり「音楽通り、楽譜通り」なのだと思う。
そこに行き着くまでには、相当な試行錯誤が必要なのだ。