ロングテールとモンスターヘッド
『ブロックバスター戦略』の中では、デジタル音楽市場の分析によって「ロングテール」の実態が解き明かされている。
事実、かつてに比べてリリースされる作品の量は格段に増えた。制作費が安くなったこと、誰もがネットを通して作品を発表できるようになったことで、とても広大なニッチ市場が成立するようになった。ロングテールは確かに長くなった。
しかし、その先端は極端に細くなり、ロングテールの先っぽは、儲けを生み出すにはほど遠い小規模の売り上げのものが占めるようになった。
その一方で、SNSが普及したことで「みんなが話題にしている」という状況がもたらす波及力がさらに増した。人々は、周りの人と同じ音楽を聴きたがり、同じ映画を観たがるようになった。エンタテインメント産業における勝者の影響力がより強くなった。
結果、圧倒的なスケールで成功をおさめるトップスター、いわば「ロングテール」と対極の「モンスターヘッド」の存在感が増した。
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同書の中では、かつて「ロングテール」理論の信奉者だったというグーグル会長のエリック・シュミットの発言が引用されている。
「インターネットはむしろ、これまで以上に大がかりなブロックバスターやブランドの集中化を招くことになるだろう。……人がたくさん集まれば、やはりスーパースターが欲しくなるものだ。今の時代、スーパースターはアメリカにとどまらず、世界のスーパースターになる。つまり、世界的なブランド、世界的な企業、世界的なスポーツ選手、世界的な有名人ということだ」 (アニータ・エルバース『ブロックバスター戦略』東洋経済新報社)
10年代、グローバルな規模でビジネスを行うIT企業とメディア・コングロマリットは、エンタテインメント産業を一つの方向に向かわせようとしている。それは、いわば「ロングテール」と「モンスターヘッド」が二極化した世界だ。
リリースされる楽曲、市場に投下される作品の数は指数関数的に増え続ける。その一方で、ごく限られたトップスターが名声を独り占めし、「圧倒的勝者」として君臨する。そんな時代が、この先に訪れようとしている。
サブカルチャーとしての日本音楽
こうしたグローバルな音楽市場の中で、日本発のポップ・ミュージックはどういう位置を占めているのだろうか。
第五章ではBABYMETALや Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅなどの海外進出の成功について書いた。
ただし、これらの日本のアーティストも決してメインストリームでの成功を収めているわけではない。その知名度はアデルやビヨンセやジャスティン・ビーバーのような世界規模のトップスターにはほど遠い。むしろ、各国の文化的なマイノリティ層が愛するサブカルチャーとして広まっている現実がある。
最も海外で成功を収めた日本のロックバンドの一つであるL’Arc~en~Ciel 、そしてやはり世界中で大きな支持を広げるボーカリストHYDEのユニットVAMPSのマネジメントを行うマーヴェリック・ディー・シー・グループのトップである大石征裕も、そのことを指摘している。
今後、アーティストも英語、現地語でのパフォーマンスや、コミュニケーション能力が求められると思います。インタビューに英語や現地語で対応できなかったら、ニッチなサブカルチャーで終わってしまうんです。L’Arc~en~Ciel も正直、今はまだメインカルチャーの域には至っていない。現在、海外展開をしている多くの日本のアーティストも残念ながらそれは同じです。
(中略)アニソンを起点に、〝日本のロックバンド〟のL’Arc~en~Ciel は、1回は通用し、エンタテインメントとしては成功しました。でも、2回目は、メインカルチャーで正面からいかない限り、成功はないと思ってます。 (『『J-MELO』が教えてくれた世界でウケる「日本音楽」』ぴあ)
こうした試みは今も繰り返されている。ただ、日本のポップ・ミュージックがメインカルチャーの領域での成功を収めるかどうかは、いまだ未知数だ。
次回につづく!