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義手の「欠損アイドル」として、私が積極的に活動する理由

ダイヤモンド・オンライン 3/14(火) 6:00配信

 昨年、3月には乙武洋匡氏の不倫騒動があった。夏には『24時間テレビ 愛は地球を救う』(日本テレビ系)の裏番組『バリバラ~障害者情報バラエティー~』(NHK Eテレ)で、障害者当事者たちが「24時間」の障害者の取り上げ方について「“感動ポルノ”だ」と言及。これまでの“障害者というカテゴリー”に対する、イメージという名の“偏見”が徐々に剥がれはじめている中、自らの“欠損”を武器に、アイドル活動をする女性がいる。そのアイドルは、琴音さん。彼女が語る、彼女の“日常”からは、一体何が見えるのだろう。(取材・写真・文/フリーライター 有山千春)

● 右側からワゴン車が突っ込み 高校1年生のときに右腕を失った

 琴音さんが右腕を失ったのは15歳、高校1年生のときだった。

 「当時の記憶は曖昧で、覚えているのは、夜、バイトの帰り道に、右側からワゴン車に突っ込まれた、ということくらいです。目撃者によると、事故直後に私、『痛い!痛い!誰か助けてー!痛いよ!』と叫んでいたそうなんですが、記憶にないんですよね」

 1~2週間もの間、意識は混濁し、ようやく目を覚ましたときに初めて、自分の右腕がないことに気づいた。

 「寝たきりだったから、自分がどういう状態かわからなかったんですよね。ただ、触れないけど全身が痛くて。痛みがあるから、『私、生きてるんだ』と実感しました。そんなとき、お母さんが、なんとも言えない顔で言ったんです。『ないんだよ、右腕』って。何を言っているんだろう、と思って見ると、『あ!本当だ!ない!』」

 「お母さんの方が辛かったのでは」と、琴音さんは慮る。その後、義手を適合させるために、切断専門の病院に転院。手の型を取って装飾義手を作ったり、能動義手(残された身体機能の動きを利用する義手)で細かい作業をしたりと、2年間をその病院で過ごすことになる。

 「入院患者はもちろん手や足がない方ばかりで、ネガティブな人が多かった印象です。『みんな、なぜそんなに悲観的になるんだろう』『そう思うんだったら、もっとこうすればいいのに』と、反面教師的にポジティブな発想になりました」

 困ったことと言えば、「髪の毛が結べないことくらい」で、意外にも不便は少なかった。

 「最初は、『これ、どうやってやろう』なんて悩むこともありましたが、やれば意外とできるものでして。私、料理が趣味なんですけど、当初は『どうやって鍋を持てばいいのか』『どうやって切った野菜を押さえようか』と考えたけど、やればできましたしね」

● 趣味のコスプレを再開 その時の「悩み」とは

 入院中は友人も見舞いに来たが、事故前後で、付き合い方にまったく変化はなかった。琴音さんのやることに手を貸すことはせず、「手伝ってほしい」とお願いして初めて、友人たちは手を貸した。彼女らとは今でも、心地良い友人関係が続いているという。

 晴れて退院したのは17歳。高校には戻らなかった。

 一方、事故前からの趣味であった、コスプレを再開しようと思ったはいいが、ここで初めて“悩み”が生じたという。それは、「人に見られることへの躊躇だろうか」との筆者の問いに、琴音さんの答えは、実に「あっけらん」としたものだった。

 「コスプレって、キャラクターになりきるためにするものじゃないですか。私が好きなキャラは、手があるんですよね。でも、私はない。『どうしよう、手がなくても、手があるキャラのコスプレをしていいのかな?』と悩んだんです。それをコスプレサイトの掲示板に投稿すると、『個性的でいいんじゃない?』とレスがつき、安心しました」

 “悩み”が解消されると、義手をつけ、コスプレイベントに参加したり、コスプレサイトに写真をアップするなど、趣味を謳歌した。誰も琴音さんが義手だとは気づかなかった。

 本音は、「手がないキャラのコスプレをできたら一番いい」とは思うものの、「そのキャラを私が好きになって、コスプレしたいと思うかは別なので。そんなに都合のいい話はないですよね。だって『コブラ』※とかやりたくないですもん」と、琴音さんは笑う。

 ※左腕が特殊な銃となっている、宇宙海賊として活躍する寺沢武一原作のSFアニメの主人公

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最終更新:3/14(火) 11:10

ダイヤモンド・オンライン

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