田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
評論家とは何か? それは専門的な知と世間知の間を巧みに橋渡しすることで、私たちに現実を見る目を提供する人たちであろう。さらに言えば、時には荒れ狂う大河に橋をわたすというリスクを担うことでもある。最新作『経済で読み解く織田信長』(ベストセラーズ)は、著者である上念司氏が評論というリスクを背負い、世の中に投じたスリリングな剛速球である。
上念氏の『経済で読み解く』シリーズは、「大東亜戦争」「明治維新」に続く三作目であり、ますます著者独特の歴史眼に磨きがかかってきた。しかも前二作が現代に近いこともあり、資料や研究蓄積が豊富であった。対して今回は経済史的には資料が乏しい室町・戦国時代にかけての話題である。それだけに著者の挑むハードルは格段に上がり、またそのリスクを伴うだけに読書の楽しみもより増してくる。
見つかった4万枚の銅銭。唐の「開元通宝」や宋銭、明の
「永楽通宝」など約50種類あり、当時の価値で計400万円
相当だったとみられるという=京都市
特に上念史観のポイントは「リフレ史観」であることだ。リフレとは、リフレーションの略語である。デフレーション(デフレ)は持続的に物価が下落することであり、しばしば経済に悪影響をもたらす。経済全体の疲弊、失業、倒産、自殺者数の増加など社会的な害悪の原因ともいえる。このデフレを解消して、低いインフレーション(インフレ:物価の持続的上昇)にもっていくことで経済を活性化させることを「リフレーション」といっている。上念史観はこのリフレーションの背後にある経済思想、つまり貨幣量の変化と実体経済との関係に注目することで、異なる時代を共通する視座からみるという実に合理的で総合的な見方を提示している。
通常の経済学では、長期において貨幣量の変化は物価水準の変化だけをもたらして、実体経済(実質GDPの大きさ、消費、投資、雇用など)に影響を与えないとされている。簡単にいうと貨幣は「経済の着物」であり、中身は見かけによって影響はされないと考えている。
しかし「長期」とはそもそも具体的に何年、何十年という年数で考えるものではない。経済をそこそこまともに回すだけの貨幣量が不足する事態が、人為的に何年も続く場合が実体経済を狂わしてしまうケースも実に頻発しているのだ。これを「デフレ不況」と呼ぶ。
しかし「長期」とはそもそも具体的に何年、何十年という年数で考えるものではない。経済をそこそこまともに回すだけの貨幣量が不足する事態が、人為的に何年も続く場合が実体経済を狂わしてしまうケースも実に頻発しているのだ。これを「デフレ不況」と呼ぶ。