筆者は根がマニアであるので、たとえば2種類の元素だけでどういう化合物が作られているか調べたりするのが好きです。で、以前に東京化成さんのサイトの「化学よもやま話」にて、このへんを書いたことがあります。硫黄と炭素から成る化合物は結構な数があり、とりあえず思いつく一硫化炭素、二硫化炭素、亜硫化炭素(S=C=C=C=S)の他、いくつかの環状化合物が作られています。

CS
環状の硫化炭素類の例

 そして2006年には、「サルフラワー」と名づけられた新顔の硫化炭素(C16S8)が登場しました(論文)。チオフェンが8つ環を作ったような構造で、名称は「sulfur」(硫黄)+「flower」(花)から来ています。

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サルフラワー

 合成はどうやっているかというと、環状のチオフェン4量体に塩基を作用させ、生じたアニオンに硫黄を付加させます。これを真空下熱分解させてサルフラワーとしています。

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サルフラワーの合成(Wikipediaより)

 そして最近、「新世代のサルフラワー」と銘打った論文が登場しました。K. Muellen及びX. Fengらによるもので、コロネン骨格を硫黄が取り囲んだようなC24S12構造の化合物です。

Sulflower2

 初代サルフラワーに負けず劣らずの美しい分子です。まあ実のところ、サルフラワーとは構造的関連性は低いので、「Sulsnow」とかにしておいてもよかったんではという気はしますが。大きなお世話ですね、はい。

 合成法はどうしているかというと、まずコロネンを全力で塩素化してペルクロロコロネンとし、ここにベンジルメルカプタンと水素化ナトリウムを作用させて置換します。リチウムと液体アンモニアによるBirch還元でベンジル基をまとめて切り飛ばし、最後に過酸化水素でジスルフィドへと酸化して目的の化合物を得ています。書いてしまえば簡単そうですが、12箇所全部をきっちり反応させる条件など、いろいろと苦労があったのではと思われます。

 筆者のような物好きが眺めている分には「おー、かっこいいなあ」でよいわけですが、今の御時世「面白いもんができました」だけでは通りませんので、きっちり物性も調べられ、電池の電極への応用もなされています。合成法は応用がききそうですので、今後他の多環式芳香族炭化水素にも適用されていくのではと思います。

 一方の本家サルフラワーの方は、合成から11年が過ぎたものの、新たな類縁体はなかなか出てきていないようです。理論計算によれば、チオフェン単位が9個の時に一番安定になり、7個以下では平面から外れて王冠状になると見られています。単純に考えれば下のような合成ルートが浮かびますが、まあこれでできるなら誰も苦労はしてないんでしょうね。

[6]sulflower

[9]sulflower

 チオフェン環が互い違いにつながった下のような化合物も面白そうですが、これはさらに合成難易度が高そうです。実現はいつになるかわかりませんが、ちょっと誰かチャレンジしてくれないかなー(チラッチラッ)とか思う次第であります。

thiacyclacene