オタクがつくった「スタートレック記念館」が、本家を動かし来訪者に共感を生んでいる
熱狂的な「スタートレック」シリーズのファンだったジェームズ・カウリーは、撮影セットそっくりの空間をつくり上げてしまった。一見スタートレックファンに向けられた懐古主義的な施設のようで、その実、スタートレックがもつメッセージを多くの人に伝える新たなスペースとしても機能している。
TEXT BY CHARLEY LOCKE
WIRED(US)
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1/18操縦室。キャプテン・カークのイスは1950年代のオフィスチェアを再利用してつくられている。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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2/18トランスポーター・プラットフォーム。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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3/18トランスポータールームの制御装置。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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4/18操縦室に施されたエンタープライズのプレートとジェームズ・T・カークのパネル。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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5/18「CONDITION RED ALART」と光っている制御装置。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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6/18垂直に続く「ジェフリーズ・チューブ」PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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7/18「原始的な医療器具」が飾られているレナード・H・“ボーンズ”・マッコイの診察室。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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8/18診察室に置かれた植物。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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9/18中継局のディテール。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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10/18メインとなるエンジン室。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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11/18診察室の棚。これらのアイテムのほとんどは手づくりかeBayのようなサイトで見つけられたもの。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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12/18ベッドルームに置かれたキャプテン・カークのユニフォーム。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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13/18ターボリフトへ続くドア。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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14/18スポックの3次元チェスのセット。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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15/18観測ラウンジのビュースクリーン。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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16/18操縦室の操舵装置とナヴィゲーションステーション。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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17/18シーンに応じてキャプテン・カークやスポック、ウフラの寝室の棚は変わった。 乗組員の異なる人格を表すために装飾が交換されている。 これはカークの虚栄心を表している。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
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18/18ニューヨーク州タイコンデロガにある「スタートレック・オリジナルシリーズ・セット・ツアー」の外。この場所はかつて1ドルショップとして使用されていた。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON FOR WIRED
2260年が来るまでは、「U.S.S.エンタープライズ」は地球上に1カ所にしか存在しない。それはセティ・アルファ5号星でもなければ、ハリウッドでもない。ニューヨーク州タイコンデロガの、かつてスーパーマーケットだった場所だ。モントカーム通り112番地にあるその場所で、自称・勇敢な司令官ジェームズ・カウリーは、「スタートレック」シリーズ最初の作品で使われたオリジナルの宇宙船セットの精密なレプリカをつくった。
「エンタープライズは、カークやスポックと同じくらい重要です」とカウリーは話す。だから彼の友人でもあったオリジナルシリーズのコスチュームデザイナーのウィリアム・ウェア・サイスが遺言としてこの計画の青写真を残したとき、カウリーはそれを再現するために「ワープ係数9」もの速さで動き出したのだ。
“病室”に佇むオーナーのジェームズ・カウリー。PHOTOGRAPH BY MAGGIE SHANNON/WIRED
エルヴィスのモノマネをしていた50歳のカウリーは、「エルヴィスとキャプテン・カークはどちらもカリスマ的な“モテ男”です」と言う。
彼は1996年に工事を開始し、祖父の納屋を改造した仕事場でセットの部品をつくり上げた。過去20年にわたり、カウリーは苦心してエンタープライズを再現するべく、いわく「天文学的な」金額を費やした。スコッティのレンチやクリンゴンの衣装といった、いくつかのアイテムは番組で利用されたオリジナルのものだ。キャプテン・カークの椅子など、その他のアイテムはカウリーが一からつくり上げている。
2003年、カウリーと彼の友人は、自らの“オリジナルシリーズ”をローンチし、ウェブ上でノーカットのエピソードを公開した(カウリーは当初、カークとして出演していた)。ほどなくそこにジョージ・タケイやウォルター・ケーニッヒといったプロの俳優陣が加わる。11のエピソードを製作した段階で、権利者であるCBSがこのようなファンフィルムを禁止する新しいガイドラインを制定した。しかし、CBSはカウリーに自身のセットを公開する許可を与えたのだ。
カウリーは3年前に13,000平方フィート(約1,200平方メートル)の元食料品店とダラーストアだった場所を借り、8月から積極的に観光客を受け入れている。
「なぜこれを会員制の秘密クラブにしなきゃいけないんだと思ったんです。どうしてすべてのスタートレックファンと共有しちゃいけないんだって」と、カウリーは話す。1時間のスタートレックオリジナルシリーズ・セットツアーでは、エンタープライズにいるかのような気持ちにはなるというよりは、むしろオリジナル番組が撮影されたデシル・スタジオへのバックステージパスをもらったような気持ちになる。来訪者はキャプテン・ルークのイスに座ったり、ウィリアム・シャトナーが60年前にしたようにボタンに穴を開けたり、もしくはスポックのスキャナーを眺め生命の兆しを探したりできる。誰もが、ある時点で決定を下さなければいけない。
このアトラクションはクリスマスまでの毎週末公開されている。カウリーいわく、これまでに推定4,000人以上もの人が彼のエンタープライズの廊下を歩いたそうだ。
カウリーはスタートレック・ファンに思い出に浸る場所を提供できたことを嬉しく思っているが、同時にエンタープライズが若いファンにとってスタートレックという魔法を発見できるスペース(そう、「スペース」だ)であればいいとも願っている。
冷戦およびヴェトナム戦争時に子ども時代を過ごしたカウリーは、スタートレックから「差異こそがわれわれを強くしてくれる」ということを学んだ。「成長して、スタートレックは誰かが変わっているという理由で嫌ってはいけないと教えてくれていたんだと気づきました」と彼は話す。
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「スタートレックには『このナンセンスを乗り越えるぞ、明日はもっとよくなる』というセリフがあります」。彼と彼の幼馴染はいまでもこの言葉に敬意を表している。
「子どものころ、フェイザーを持って近所を走り回ったものでした」とカウリーは言う。「いまでもスタートレックごっこをしますが、いまの方がいいおもちゃをもっています」。そして彼の思い出や、彼がつくり上げた記念館が「最後の開拓地(final frontier)」になる必要はないのだ。


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