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朴大統領罷免  国政混乱の責任は重い

 国家を代表する現職の大統領が断罪され、失職に追い込まれるとは、驚くばかりである。
 韓国憲法裁判所は、12月に国会で弾劾訴追されて職務停止中だった朴槿恵(パククネ)大統領の罷免を裁判官8人の全員一致で決定し、朴氏は即日失職した。韓国で前例のない不名誉な事態である。
 朴氏は今後、検察による捜査を受ける。これまで記者会見などでは疑惑を否定し、弁明に終始してきたが、真実を明らかにする義務がある。
 憲法裁の決定は韓国民の怒りの代弁とも言えよう。昨年10月、朴氏が友人の崔順実(チェスンシル)被告に政府の機密資料を渡していた疑惑が報じられて以来、崔氏や大統領府高官、韓国を代表する大手企業サムスン電子の副会長らが逮捕され、政治不信は頂点に達していた。
 憲法裁は人事案や閣議の資料、外遊予定など大統領の公務上の機密が、秘書官を通じて崔被告に渡っていたと指摘。崔被告がその内容を修正したり朴氏の日程を調整するなど「職務活動に関与した」と介入を認定した。そして、朴氏は「崔被告の私益のために地位と権限を乱用した」「大統領の違憲・違法行為は国民の信頼を裏切った」と厳しく断じた。
 「国民幸福・希望の新時代」を掲げ、初の女性大統領という期待を集めてスタートした朴政権だったが、大きな政治的混乱を残して4年余りで終わりを迎えた。その間、国内ではセウォル号沈没という惨事があった。外交では当初、中国に急接近した。しかし、対北朝鮮で強硬路線に転換し、在韓米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備を決めたことで対中関係は冷却化。日本とは慰安婦問題をめぐる合意にこぎつけた。
 日本にとって気になるのは、今後60日以内に行われる大統領選の行方である。釜山での慰安婦像設置に抗議し、日本は駐韓大使を一時帰国させたままで、両国関係は暗礁に乗り上げている。
 日本に批判的な世論の歓心を買う狙いもあって、立候補予定者はこぞって対日強硬論を打ち出している。しかし、国際的な約束である日韓合意を一方的に破るなら、韓国は国際的信用を失うばかりだ。韓国の政治家も国民も、いま一度冷静さを取り戻してほしい。
 核開発を進め、弾道ミサイルの発射実験を繰り返す北朝鮮をにらめば、韓国は重要なパートナーである。朴氏失職のタイミングをとらえ、日韓関係の再構築へ踏み出すためにも大使の帰任を検討すべきときではないか。

[京都新聞 2017年03月11日掲載]

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