「和製漢語」を中国へ導入した「マルチ人間」の実像を解明!日本在住14年の軌跡を追う=李海著『日本亡命期の梁啓超』
Record China / 2017年3月13日 1時20分
梁啓超(1873〜1929)は清朝末期から中華民国初期にかけての中国激動期を革命家、文人、政治家として生き抜いた風雲児である。本書は亡命期間の活動にスポットを当て、解明されていなかった文人・梁啓超の軌跡をたどり、思想や行動をあぶり出した。
梁啓超(1873〜1929)は清朝末期から中華民国初期にかけての中国激動期を革命家、文人、政治家として生き抜いた風雲児である。
歴史に最初に登場するのは、戊戌の年(1898)を頂点に行われた改良主義的変革運動「戊戌変法」を主導したこと。この運動は農民蜂起と資本主義列強の侵略によって、大きく動揺した体制を立て直そうとする試みで、日清戦争(1894〜95)敗北後に急速に高まった。若い光緒帝を擁立し、その下で立憲制、議会制を採用し、日本の明治維新を模範として、近代的国家の樹立を目指したが、西太后など保守勢力に阻止されあえなく失敗。やむなく98年秋に日本に亡命した。
梁啓超は辛亥革命後の1912年に帰国し中華民国の政治家、歴史家として活躍した。14年に及ぶ日本亡命期間に日本語で書かれた西洋の思想を懸命に吸収し、祖国での啓蒙活動を精力的に展開した。本書はこの亡命期間の梁啓超の活動にスポットを当て、解明されていなかった文人・梁啓超の軌跡を丹念にたどり、文筆活動を中心とした思想や行動をあぶり出した。
梁啓超は日本でも多才ぶりを発揮するが、第一に和製漢語の中国への導入の最大の功労者としての姿である。亡命後、梁啓超はまず言葉の問題に直面。いかに効率よく日本語の特徴を把握するかは、外国人にとって必須課題。短期間で日本語を漢語に翻訳する『和文漢読法』を編纂した。この著作は中国人が日本語を学ぶ人門書の一つとして編纂後100年以上も使用され、日本語を習得し、日本語で書かれた西洋書の智識を吸収する方策に利用されてきた。
第二に「バイロン詩」などの中国訳を手掛けた詩人としての顔である。注目されてこなかった梁啓超の訳詩と日本詩壇の関連や、梁啓超の音楽教育思想と明治期の日本唱歌の関係を考察。「梁啓超は豊かな感性を生かして詩の再構成を行い、翻訳とは原著者の意図の伝達が第一義である」と本書は記述。彼の訳詩は「詩の芸術性を捨象し、精神性を重視したところにある」と強調する。
「音楽教育の面でもこの傾向が見られ、彼が作詞した学校唱歌には日本の旋律が取り入れられ、歌詞には中国人に欠けていた愛国心や尚武の精神を付与し、音楽教育における徳性の涵養を重視している点が特徴的である」との分析も新鮮だ。
従来の梁啓超と日本をめぐる研究について、(1)実態からかい離し、日本の役割を強調しすぎる傾向が見られる、(2)梁啓超自身のことや、中国文学から彼が受けた影響は十分に考慮されていないように思われる―などと疑問を投げかける。本書は彼を取り巻く社会環境と個人の主観的能動性に注目、その日本語教育観、訳詩、音楽(作詞)など多方面に論考の範囲を広げ、マルチ人間としての梁啓超像を築きあげようと試みたもの。日本側の役割は素材、題材の提供を中心に役割を果たしたことにとどまったと指摘。「梁啓超自身は受容した西洋の思想を、中国の現状を十分に考慮した上で、彼の考える中国の近代化に適合するような思想に再構成した」と結論づけている。
筆者は19歳で日本に留学し、学部時代に法律を学んだ。その過程で、中国の法律用語の多くが日本語に由来することを知り、関連する事柄を調べるうちに、和製漢語の中国への導入の最大の功労者である梁啓超に注日。日本の大学の修士・博士課程で学び、梁啓超の研究に没頭した。香港のテレビ局東京特派員の肩書も持つ筆者が心血を注いだ本書は、梁啓超のジャーナリストとしての活動にも広く言及、文学書、歴史書としても有用である。(評・八牧浩行)
<李海著『日本亡命期の梁啓超』(桜美林大学北東アジア総合研究所刊、3000円税別)>
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