前田正子『大卒無業女性の憂鬱』
前田正子さんの『大卒無業女性の憂鬱 彼女たちの働かない・働けない理由』(新泉社)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.shinsensha.com/detail_html/04shakai/1612-2.html
これまで「家事手伝い」「結婚すれば問題ない」と見過ごされてきた大卒未婚無業女性。大卒無業女性の問題は、貧困問題に直結し、抜き差しならない段階まで来ている。
そもそも高等教育を受けた恵まれた立場であるはずの大卒の女性たちが、なぜ働かないのだろうか。
働く女性の6割近くが非正規職という厳しい現状もふまえ、女性を取り巻く労働環境の実態を明らかにし、大卒無業女性への支援やケアを提言する。
オビで山田昌弘さんが「女性活躍後進国ニッポン」とか言っているので、そういう本だと思われるかも知れませんが、いや確かにそういうことなんですが、読んで一番強烈に印象づけられたのは、関西という地域の持つ強烈に女性活躍制限的なカルチャーなんですね。
前田さんは、ご存じの方も多いと思いますが2003年から2007年まで横浜市の副市長をやり、2010年から出身地の関西に戻り、甲南大学の教授として教えているのですが、そこで出会ったカルチャーショックが序章に書かれていて、これこそが本書の最大のテーマなんではないかとおもったものです。
・・・ところが、関西の大学で教えだしてすぐに、女子学生のなかに「女の子はがんばる必要がないと親にいわれている」とか「どうせ結婚したら仕事を辞めるのだから、勉強する意味がわからない」と、女子であることを言い訳にして、自分の能力を伸ばそうとしない、職探しにも熱が入らない学生が一定数いることに気付いた。
実際、「満員電車に乗って、職場に行くようなしんどいことは娘にさせたくない」と母親からはっきり言われたとこもある。同じ日本でもこんなに考え方が違うのか、とおどろくばかりだった。
さらに、就職が決まったボーイフレンドから「若い間は給料が安いから、一緒に働いて頑張ろう」と言われただけで、「女に働け、というような甲斐性のない男とはつきあうな」と親から口出しされて別れたという女子学生までいる。
まあ、前田さんが住んでいたのは阪神間の山の手地区で、高級住宅街というのもあったのでしょうが、学童保育が採算がとれずに進出できない、というくらい、そういう地区なんでしょう。
序 章 1億総活躍のかげで――無業の女性たち
第1章 1億総活躍時代の女性の状況
第2章 未婚無業の女性
第3章 大卒未婚無業の女性たちのそれぞれ
第4章 女子大生の夢と現実
第5章 既婚子持ち女性の再就職への壁
第6章 大卒無業女性と社会の未来
おわりに
タイトルになっている大卒無業の女性たちへのインタビューが第3章に載っていて、これがなんというか、前田さんからすると信じられないくらい職業意識が欠如した人たちなんですね。これはやはり、「女性活躍後進国ニッポン」というよりも、関西のそれも高級住宅地の特性が露骨に出ているというべきなのでしょう。
逆に、日本の中で女性の就業率の最も高い北陸出身の女性がそういう地区にやってくると、
・・・ある北陸出身の母親は、「北陸では、子供を産んでもみんなが働き続けるので、義理の両親も子育てを手伝うのが当たり前という文化がある」という。北陸にいる両親に相談したら、「義理の両親に頼ってもいいのでは?」とアドバイスを受け、・・・頼んだところ、義母に激怒されたそうだ。さらに、・・・義父からも電話があり「子育てという母親の義務を果たさないのは許さん。二度と子供を預けることなど頼むな」と厳命された。・・・
いやこれはやはりカルチャー衝突でしょう。同じ日本だから同じカルチャーではないのですね。
| 固定リンク
|
コメント
母親が乳幼児(幼稚園前)をベビーカーに載せて散歩していると、高齢の女性から「(子供を預けて)働かないの?」と声をかけられる、それが北陸地方。持ち家率、3世代同居率が高いのも、同じ文脈でしょう。
投稿: ちょ | 2017年3月11日 (土) 19時09分