ネットを中心に脅威の盛り上がりを見せ、『ニコニコ動画』で無料配信されている第1話が270万回再生を突破したアニメ『けものフレンズ』。ついにはNHKの報道番組も「動物園の来場者が増加していることがSNSから読み取れる」と報じ、ある種の社会現象となっています。
『Twitter』のハッシュタグ「#けものフレンズ考察班」ではキャラクターやストーリーに関する様々な議論が過熱。特に各キャラクターのもとになった動物の生態を知ると、ビジュアルや性格の描写にうまく反映されていることが分かります。
そこで今回は、“動物に詳しいフレンズ”こと動物行動学者の新宅広二先生を直撃。人気キャラクターのひとり、サーバルちゃんのモチーフとなっている“サーバルキャット”について詳しく話を聞いてみました。
サーバル、本当はこんな性格
(※撮影:新宅広二/ケニア・マサイマラ国立保護区の野生のサーバル。特殊な耳を使って隠れているネズミを見つけて忍び寄っている瞬間)
サーバルは中型のネコ科動物で、体重は大きくても15kg前後。生息地はアフリカのサバンナ(草原)で、普段は背丈が隠れるくらいの草原に潜んでいます。本種はネコ属(ヤマネコの仲間)のため、ライオンやトラなどのヒョウ属とは習性や性格が大きく異なるそう。
新宅:「狩りの戦術はヒョウ属ほど知的ではない印象ですが、それをカバーするに余る驚異的な運動能力を備えた“超体育会系ネコ”です。何よりヤマネコ特有の気性の荒さが際立った種で、動物園の飼育係は大型ネコ科と同等かそれ以上に注意を払っています。動物園のバックヤードでは、檻の間から長い手を急に出して、人間を引きずり込もうとするので、作業中は檻があっても歩く位置などを常に注意しなくてはならないほどの猛獣です。ペット化が難しいため、ボブ・サップがペットにしていたというのはいろんな意味で興味深いですね」
なるほど、かばんちゃんが「た、食べないでくださぁぁい!」と反射的に言ってしまったのも頷ける生態です。
新宅:「野生では主にネズミ類を獲っていますが、お腹がすいていなくても目の前を素早く横切るものを無視できない性格です。4m近いジャンプ力を活かして、飛んでいる鳥にも攻撃します。その光景は、まるで藪からミサイルが発射されたみたいです。夜行性にもかかわらず、“ほっとけない性格”から日中でもよく鳥の狩りを楽しんでいます」
一方、子育てにオスが関与しないシングルマザー流のサーバルキャットは、教育ママの一面も持ち合わせているとのこと。
新宅:「放任主義で空き家になったツチブタの巣穴などに子供を放置して、エサを探しに行きます。成長すると狩りの仕方を母親が教えて、自分で捕らえて弱らせた獲物を与えて狩りの練習させるんです」
サーバル、動物園ではココを見ろ!
新宅:「動物園でのエサは肉類のほか、人間用の養鶏肉で食品として破棄する部位の鶏頭を安価で入手し、サーバルの成長に欠かせないカルシウム源としています。ジャンプ力を来園者に見せるために、高所から吊して餌を与えることもあります」
では、他の来園者と差をつけるためには、どんなポイントに注目して観察すれば良いのでしょうか。サーバル上級者としての心得を聞いてみました。
新宅:「観察ポイントは、頭骨が小さく耳が極端に大きいところです。顔の比率ではネコ科で最も耳が長いのが特徴です。真正面の集音能力が高く、土の中に潜むネズミの距離までも正確に把握できます。野生のネコ科動物に共通するデザインとして、虎耳状斑(こじじょうはん)が耳の裏側にあります。ネコ科は耳の動きで感情を表してコミュニケーションを図ります。耳の先端が黒くふちどられ、中央に白い斑があるのは、耳の動きを誇張するデザインに進化したものなんです。ネコ耳カチューシャでコスプレする際には、耳の裏側のデザインに凝るのがフレンズとしては通でしょうね」
新宅広二/プロフィール
動物行動学者、監修業。
大学院修了後、多摩動物公園、上野動物園勤務経験のほか、大学・専門学校で20年以上教鞭をとる。哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫など400種類以上の野生動物の飼育技術や生態を修得。狩猟免許も持ち国内外でのフィールドワークもこなす。監修業では英国BBC作品ほかネイチャードキュメンタリーの監修や日本語制作を数多く手がけている。
『Twitter』@Koji_Shintaku
3月9日(木)、『ニコニコ生放送』のトーク番組『WOWOWぷらすと』にゲスト出演し、「草食動物」をテーマに解説する。
新宅さんに聞け!草食動物のすべて!/WOWOWぷらすと<木曜日>MC:サンキュータツオ
最新の著書『しくじり動物大集合』(永岡書店)が3月15日(水)発売。動物の欠点をイラストで説明した読み物。『けものフレンズ』に登場する動物の知られざる生態も多数登場。