鳳 恵弥(女優・モデル・キャスター)
おおとり・えみ 2002準ミスインターナショナル日本代表。ドラマ、CM等で活躍後、つかこうへい劇団に入団し本格的に女優活動を開始。女優業と並行して指導業務も行い、2009年より2012年までミスインターナショナル・ミスワールドの日本代表最終候補生の指導を担当、2012年は日本代表が初の世界一となった。 出演作は映画【振り子】(2月28日より全国公開予定)、「だんな様はFBI」(NHKBSプレミアム) 他多数。 現在は連続ドラマ「まっしろ」にレギュラー出演中、2月11日より舞台「軋み」出演。日経ウーマンオンラインで連載した「見た目美人の作り方」は週刊アクセスで毎週No.1を獲得。
山本 今回対談をお願いしたのは、私自身が今月20歳を迎えたことと、1月には成人式があったので、「成人」をテーマに扱いたいと思ったのがきっかけです。鳳恵弥さんとはご縁があって普段も一緒に過ごさせていただくことがよくあるのですが、芯がしっかりしているという印象がとても強くて私の中で憧れの女性でもあります。ぜひ鳳さんから新成人を迎えた女性へのメッセージをいただきたいと思っています。
鳳 はい、なんだか恐縮ですね(笑)
二十歳で準ミスインターナショナル受賞
山本 まず最初に、鳳さんが成人されたときのエピソードについてお聞かせ願えますか。
鳳 そうですね。思い起こすと、ちょうど私が成人を迎える前の月、12月に初舞台を終えたばかりで。
山本 20歳のときが初舞台だったのですか?
鳳 正確には19歳ですね。初舞台でご一緒したのが大映画などに出られていた大御所の方々で、稽古が終わると毎晩のように食事会に連れて行っていただき、体重が10キロほど増量していました(笑)。
山本 10キロもですか(笑)。
鳳 その半年後に準ミスインターナショナルで受賞するのですが、その時は私も含めて周りの誰もこの子がミスを獲るとは思っていなかったと思います。
山本 20歳で受賞されたのですよね。出場しようと思ったきっかけは何だったのですか?
鳳 高校のときから読者モデルやエキストラをやらせていただいて、大学に上がるとき、「モデルを目指したいので専門学校に通いたい」と親に話したら、一喝され猛反対されました。私ごときがモデルを目指すだなんて、現役のモデルの方々に失礼だって(笑)また、「役者なんかほんと食えないからやめたほうがいい」とおっしゃる先輩もいましたが、逆に自分の気持ちに火がついて、なんとか役者を続けるための術をもたなければいけない、と。そう考えて周りにいろいろ相談していた最中に、知人がすすめてくれたのがミス・インターナショナルでした。
山本 鳳さんがミスを受賞されたのって、それこそ今の私の年齢だったのですね。
鳳 そうですね。ちょうどその年にアメリカでのテロ事件、いわゆる9.11が起きたんです。その直後にミス・インターナショナルの決勝大会が厳戒態勢の中で行われたんです。当時は世界大会と日本大会を一緒にやるという形式をとっていて、最終選考に残った方たちのスピーチが重々しく、世界の平和を熱く語っていたのが印象的でした。
山本 9.11は衝撃的でした。私はあのとき小学1年生だったのですけど忘れていません。テレビで流れていた映像とか、あれは今も脳裏に焼き付いています。たまたまニューヨークに住んでいる親戚と電話をしているときで、母が隣ですごく騒いでいたのを記憶しています。
ところで、私はいま大学生なのですが、大学と学外でいろいろ関わる人も違うし、演じる自分も違うと感じたりするのですが、大学時代の鳳さんはどんな感じでしたか。
鳳 同級生が子供に見えていたのかもしれません。大竹しのぶさんが高村智恵子さんを演じた一人芝居を観て深い感銘を受け、同時に憧れもしました。その憧れの方がいる、夢を追う仕事の中で出会う先輩方と過ごす時間がたまらなく貴重な時間だと感じていました。
山本 私は逆に大学生活の中で、尊敬できる友人たちに恵まれていて、むしろ友達から学び取ることがすごく多いのですよ。そういう意味では本当にいい環境だと思っています。ただ、もうお気づきかもしれませんが、実は私は集団行動とか集団の中で生活するのがすごく苦手なんです(笑)。
鳳 えー、意外ですね(笑)。
山本 そんな性格のせいかもしれませんが、実は友人も少ない方なのです。サークルの活動にもなかなか行きませんし…。鳳さんは大学時代にサークル活動はされていたのですか?
鳳 大学時代は茶道部で、表千家の東京都支部の先生に教えて頂いたり、かなり本格的に活動していました。茶道部の仲間に支えられながら、部長までやらせてもらったのですが、合宿先で事務所から電話が入ったりして「明日、オーデションだから」と突然言われて、トンボ帰りしたことも多々ありましたね。
山本 それはすごい経験ですね(笑)。そういえば先程、「大学時代には周りの学生が子供っぽくみえた」とおっしゃっていたのですが、ここで一つお聞きしたいのは、鳳さんにとって大人になるって、どういう意味なのかということです。20歳になれば選挙権とか飲酒とか法律の上でも、これまでとは変化がある年齢だと思います。とはいえ、いざ自分が二十歳になっても、実感がわかないというか、大人になるってどういうことか分からなくて、不安になるときもあります。
社会に対し一定の責任を認識すること
鳳 日本は子供や若者に甘い国です。もちろん、明らかに弱者というか、弱い立場である子供を思いやり優しくするのは素晴らしいことです。でもその反面、その優しさや思いやりが実は自分を相手に良く見せたい虚栄心というか、見せかけのものであってもダメだと思う。大人になるということは、社会に対して一定の責任を負うことで、だからこそ人生の後輩でもある子供たちの見本となり、時には厳しく指導する責任があるということを認識できることだと思います。
山本 なるほど。世の中には色々な大人の方がいると思うのですけど、私は今まさにそれを経験している時期なのだと思います。でも、ふと何をお手本にして生きていけばいいのだろうって思うことがたまにあります。鳳さんご自身は20歳のころ、何をお手本にしていらっしゃったのですか?
鳳 私は祖父母に育てられた時間が長かったので、祖母のことはすごく尊敬していて、学ぶことが今でもあります。もうすぐ94歳になるんですけど、女性としてあるべき姿はこうだっていう美意識がすごくあって。子供の時、お手本になるのはやはり家族だと思います。私は祖父母や両親にとても感謝していますし、尊敬しています。社会に出れば常に多くの方に出会うことになるのですが、人それぞれに人生があるように、お手本となる方もそれぞれ千差万別です。それにお手本というか、師や目標、憧れの方がいることはその人生の幅を大きく広げ、彩り豊かなものにすることは間違いありません。ですから、出会う方すべて年齢や立場の差異なく、自分にとっての「師」であると心に決め、他者の悪いところを見つけるようなことをせず、自分にない経験や考えに耳を傾ける、そんな習慣を身につけられたらいいなと思っています。
山本 そうですよね。女性の生き方としてのバイブル本って、いま本屋に行けばいくらでもあると思うんですよ。でも実際に出会う方たちから学ぶことの大きさは一味違いますよね。鳳さんにとっての理想の女性でもある、お祖母さまは日本人らしい奥ゆかしさをお持ちだと思います。その奥ゆかしさを持った日本人らしさって、実は今失われているような気がするのですが、鳳さんはどう感じていらっしゃいますか?
鳳 私の祖母は最近老いてきたこともあって、箸の運びがすごくゆっくりで慎重なんですよ。何秒かかってるんだろうって思うぐらいゆっくり箸を動かすんです。見るに見かねて「スプーンで食べる?」って聞いても、「大丈夫、大丈夫」と言って、自分でやる姿勢を頑なに崩さない。でも、それって素敵なことだなって今は思っています。
女性にとって、周りから見られているという意識を持つことは、緊張感というか、女性らしさを忘れていない証しでもあると思うんです。日常生活を上手に利用しながら、女性らしさを磨く活力にもなるような気がします。
山本 いま国の政策でも女性の活躍が大きな注目を集めています。ジェンダーフリーについてもここ数十年、わが国でも活発に議論されていると思いますが、男女平等という考え方について、鳳さんご自身はどう思っていらっしゃいますか。
鳳 男女平等という言葉や、男らしく女らしくという言葉が出ると活発な議論になりがちですが、私はそもそもの論点の多くが間違っているように感じています。男女や年齢で差異があることは当たり前で、様々な役割が分担されることは本来否定されることではないと思います。しかし、その差異が何かしら理屈に合わない言い訳に乱用されている時は、誇りを持って闘うべきだと思います。ただし、私にとって、その刃は他者に向けるものではなく、「女性だから差別をされた」とか、「女性だから成し遂げられなかった」と思い込もうとする自分の弱さに先ずは向けるべきであり、自らを省みてまた新たな目標に向かって突き進む活力に変えるべきなのではと思っています。
向き合い吸収していく姿勢が女性を磨く
山本 有難う御座います。とても勉強になります。では続いて、この場を借りて鳳さんにはぜひ今の若い女性へのアドバイスをいただきたいと思うのですが、女性として生きていく上で、鳳さんが日頃から気をつけていることってありますか。
鳳 女性らしくあることに誇りを持つことだと思います。人は水のように、楽をすれば低きに流れ、そこに留まれば濁りよどむものです。簡単なアドバイスと言えば、姿勢を良くする、笑顔を忘れないなど、周りから常に見られているということを意識する緊張感。その緊張感を持つことが女性として生きる上では重要なポイントです。身だしなみもTPOを使い分けて、周りの人を不快にさせない服装を心掛けつつ、若いうちに思いっきり楽しめるように毎日、目いっぱいお洒落すればと良いと思います。いろんなものと向き合って吸収していく姿勢が女性を磨いていくのかなとも思います。
山本 常に吸収するという姿勢ですね。ではさらに内面の美しさを磨くにはどうすればいいのでしょうか。
鳳 一言で言えば自分を持つことだと思います。これは傲慢になれという訳では決してなく、自分という「個」を確立していくために自らを客観視することを忘れず、常日頃から教養と知識を高めていくということです。物事を知れば知るほどに、自らの至らなさは浮き彫りになりますし、それを行動や学びで埋めていくことが楽しくなる。実はそれが女性としての内面を磨くことになっていくのではないかと思います。
山本 私はすごく飽きっぽい性格なのですが、唯一続けていることが華道なんです。続けることから学んだ経験があるとすれば、私の中では華道です。日本の文化ということもあり、華道を通して日本人らしさというか、日本らしい価値観の多くを学ぶことができました。
鳳 私は2歳のときから20歳まで詩吟やらせてもらって、最初は褒められるのがうれしく稽古場に行ったものです。最終的には師範までいただいて、とても大きなものを得た達成感もありましたね。
山本 鳳さんにとって、続けることの原点は詩吟であり、初めに知った日本人らしさを感じる理想の女性像がお祖母さまだったということですね。では最後に将来を担う新成人に期待することをお聞かせください。
鳳 私は日本が世界で一番素晴らしい国であり、またその素質を秘めていると信じています。日本人であることを誇り、それ以上の責任感を持って世界のリーダーシップをとれる人間を目指してほしいです。
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