NASAの土星探査機カッシーニが、土星の環のすき間に潜む小さな「空飛ぶ円盤」を撮影した。
空飛ぶ円盤の正体は「パン」と呼ばれる直径35kmほどの小さな衛星で、3月7日に撮影された一連の写真には、その特徴的な形が詳細にとらえられている。
カッシーニが送ってきたパンの画像を最初に見たとき、科学者のキャロリン・ポルコ氏は、画家が描いた想像図ではないかと思ったという。
彼女はその後、「これは本物です!科学は想像を超えています」とコメントした。(参考記事:「まるで地球、衛星タイタンの驚くべき写真」)
パンという名前は、下半身がヤギであるギリシャ神話の牧神にちなんでつけられた。パンはその重力の影響で環の形状を支える「羊飼い衛星」で、土星のA環の中の細い空隙を公転している。土星の環は氷の粒子からできているが、パンは、土星の周りを公転しながら、空隙に入り込んできた氷の粒子をその重力で吸い込んだりはじき飛ばしたりして、環を維持している。(参考記事:「土星の環を守る羊飼い衛星」)
実際、科学者たちが1980年代中頃という早い時期からパンの存在を予想することができたのは、空隙がきれいに保たれていたからだった。NASAの探査機ボイジャー2号が1981年に撮影した画像を詳しく調べたマーク・ショーウォルター氏の研究チームがA環の空隙にある小さな衛星を発見したのは、1990年のことだ。
今回、すぐ近くからパンを撮影できたのは、2004年から土星を観測している探査機カッシーニが、ミッションの最終段階として土星のすぐ近くを周回する軌道に入ったからだ。最初の頃の画像でパンがクルミのような形をしていることが明らかになると、ポルコ氏らは、土星の環の破片が降り積もってこのような形になったのだろうと考えた。(参考記事:「土星探査機カッシーニ、最終ミッションを開始」)
より最近の詳細な画像では、土星の環の粒子からなる薄く滑らかな層がパンの胴回りにぐるりと付着した赤道降着円盤が見てとれる。
現在は米SETI研究所に所属しているショーウォルター氏は、「1990年に私がボイジャー2号の画像から探し出した、なんの特徴もない『点』とは大違いです!ついにパンのクローズアップを見られたことを、とてもうれしく思います」と言う。
ポルコ氏は、2007年に科学誌『サイエンス』に発表した論文で、パンの円盤は空隙の物質が完全に除去される前に形成されたと主張している。
ショーウォルター氏は、「ほかの研究者も指摘しているように、パンがこのような形になったのは、土星の環の細かい粒子を常に引きつけているからなのでしょう」と言う。「パンの大きさに比べて土星の環は非常に薄いので、粒子は赤道付近に集まるのです」
木星の異形の衛星はパンだけではない。アトラスという小さな衛星も、同様の理由から似たような形をしている。(参考記事:「土星のF環と羊飼い衛星パンドラ」)