世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年3月8日

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 シリア情勢、ISISについての世界の報道を見ていると混乱してきます。ほぼすべてのマスコミが事実の一面しか報道しない上に、対抗する諸勢力間の中傷合戦の道具となって、嘘をつくからです。例えば、イランやロシアの報道では、ISISは少なくとも過去のいずれかの局面で米国、サウジ、トルコ、カタール等の支援を受けていたことになっています。おそらく、そのような局面はあったでしょう。各国諜報機関とテロ組織の関係はそのようなものであり、テロ組織はある時は利用され、次の局面では捨てられ、掃討され、報復に出てくる例が多いのです。ISISについても、ものごとは一筋縄では片付かないことに意を用いつつ、現在の主要トレンドに依拠して我が国の対応を考えていくしかありません。

 この論説が指摘する「ISISの退潮・分解」は事実でしょう。ただし、イラクでのISISは、シーア派政府に対して自衛している地元スンニ派と合体しているので、ISISという看板は下ろすかもしれませんが、自治体としては残るでしょう。その場合、次のようなことが起きると思われます。

最後の花火

 分解の過程で、世界各地で休眠しているISIS分子が、「最後の花火」をあげる可能性があります。可能性が高いのは欧州、トルコ(既に起きている)、ロシアであり、新疆ウイグル、あるいは東南アジアのイスラム地域も要注意でしょう。なお、アフガニスタンではこれまでISISの伸長が見られましたが、「金の切れ目が縁の切れ目」で、老舗のタリバンが再び前面に出てきています。

 また、中央アジア、ロシアのチェチェン等から出稼ぎ・傭兵の感覚でシリアのISISに加わった青年達は行き場を失うことになります。

 トランプ政権の安全保障関係の主要人物たちは、ISIS掃討を最優先課題として挙げていますが、ISISが分解のトレンドにあるのなら、オバマ大統領が始めた「有志連合」も縮小の方向に向かうでしょう。そして、シリアのISISが退潮し、アサド政権容認で米ロが手を握るのであれば、シリア・イラク等中東での勢力範囲を過度に拡大した感のあるイランへの対処が、米国にとっての最優先課題として浮上してくるでしょう。

 いずれにしても、日本ではISISを宗教、あるいは思想の面から論ずる傾向が強いですが、テロには必ず、資金、兵器を誰が供与しているのか、という問題が絡みます。テロは政治現象なのであり、宗教・思想は運動を正当化するために用いられる錦の御旗であるに過ぎません。

  
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