※注 ロキノン(ジャパンじゃない方)
完全に周回遅れですが、今さらながら「楽器を持たないパンクバンド」BiSHを絶賛したいと思いますので、以下。
記事の想定読者層は、フランツ・フェルディナンド以前のオルタナロック好き、ライブハウスでダイブしてた方。夏は、毎年フジとサマソニで燃え尽きていた方など。
※以下、文中に登場するバンド名など固有名詞は説明を省略します
【目次】
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オルタナ系ギターロック
楽曲面から解説を。
バンドよりアイドルがおもしろいのは、何でもありだからで、たとえばバンドがそれまでギターロックやってたのに突然エレクトロ入れたら「え?路線変更?」「コレジャナイ」とかいろいろ言われてしまう。
形式に縛られないはずのロックがなぜか型にハマってしまうのはよくある話。
しかしアイドルの場合、どんな音源をやろうが、それは流れるトラックのひとつでしかない。
だからこそひとつのステージでどんなスタイルでも多様性のある楽曲をやれる。
南波 90年代のオルタナというテーマでこだわったところは?
渡辺 僕がこだわったのは、音が汚い感じだけですね。ギザギザしているというか、まとまってない感じにはしたくて。単純に僕が好きなアルバムっていうのは、言い方が正しいのかわからないんですけど、音が汚いんですよね。ニルヴァーナで言えば、「Nevermind」じゃなくて「In Utero」。スティーヴ・アルビニがエンジニアで、みたいな。
南波 ガリガリした音で。
渡辺 痛いんですよね。「Nevermind」のほうが売れてるし、キレイだと思うんですけど、僕としてはUSインディーみたいなものにしたかった。やっぱりそっちのほうが感情が込もると思っているんですよ。感情を揺さぶりたいというのがある。アレンジもガラッと変えてもらった曲もありますね。BiSHの「サラバかな」とかはギターエモロックみたいになってますけど、最初のデモはビーイングみたいな感じでしたもん。
渡辺淳之介インタビュー「BILLIE IDLE®は“BiSの次”、BiSHは“BiSをもう1回”」|南波一海のルッキン・フォー・ザ・パーフェクト・ソング 第1回
Pの渡辺淳之介が語ってるようにBiSHのトラックはオルタナど真ん中。
パンクを名乗りつつも荒削りで勢いのあるブリーチより、燃え尽きかけのイン・ユーテロをイメージしてるのも面白い。
エモいエモい。
そんな元々バンドマンだった渡辺淳之介(JxSxK)と松隈ケンタだけにギターロックとしてのクオリティが高いトラックが目立つ。
「DEADMAN」は思いっきりハードコアパンク。
個人的には、懐かしい(昔、こんなんばっかり聴いてた)。
「beautifulさ」は青春を感じさせるメロコア風。
ガットのソロから始まる「Stairway to me」はまんまでツェッペリン。後半は歌なしのインストが延々続くなんて、ローゼスの「I Am The Resurrection」思い出させる、というかアイドルのフォーマットでこれをやるか、と。
90年代オルタナ、パンク、ハードコア、ハードロック、エモ、ガレージ。
さまざまなギターロックの要素を盛り込んだトラックは、イマドキのロックにハマれない若者にもハマるし、若い頃ギターロックにハマったおっさんもハマる。
しかも作り手(P)の趣味とセンスが出る。
たとえば「デパーチャーズ」を聴くと完全にガレージロックのそれを連想させる。
※PVがなかったのでSGで弾きまくってる動画を
TMGE「世界の終わり」とかアベを連想させるリフ。
「GT400」もちょこちょこ顔を覗かせてる。
余談だが、アイドルは案外、こういう「っぽい」トラックが多い。
私立恵比寿中学も「参枚目のタフガキ」でUNDERWORLD「BORN SLIPPY」まんまやってたっけ(アレはCMJKの仕事ですが)。
閑話休題。
アイナ・ジ・エンド
アイドルは、あまり歌が上手くないグループが多い。
ダンスもあるために、歌いながら踊ると余計に安定しない。
そこでユニゾンなど複数の声をかぶせることでフォローする。AKBとか乃木坂の曲がほとんど合唱曲なのはそれ。
中には、露骨に音痴なメンバーもいる。
ところがその下手さを逆手に取ったのがももクロで、彼女らはダンスにリソースを裂いて歌が乱れる分の補填にした。
歌のクオリティが下がっても、それは懸命にパフォーマンスする、その証明になる。
ももクロは、ソロパートとユニゾンを混合にした。
大阪☆春夏秋冬は一人ソロシンガーを立てて他は完全に踊りという分業制。
いわゆる安室奈美恵withスーパーモンキーズ方式とも言う。
全体的なパフォー-マンスのクオリティをキープするなら多分このやり方が一番合理的に思える。
で、BiSHはそういう中でどうしたか?というとアイナ・ジ・エンドという元ソロシンガーの、圧倒的な歌唱力を中心に据えて、他のメンバーがソロパートを歌い繋ぐ構成にした。
インタビューなんかを読むと、どうも最初はBiSと同じような歌割りを想定していたように思える。
実際歌ってみるとアイナが頭一つ抜けて、上手く歌割りがサビ中心になったようにも思える。
※注1 ①赤がメインボーカル②③青黄がメンバーの歌割り、横軸が歌
※注2 この構成はすべての曲でではなく、多くの曲で使われている
「完全分業で独りで歌ってれば?」と思わなくもないが、セントチヒロ・チッチ始め他のメンバーが歌い繋ぐからこそ変化が出るからおもしろい。
それに全編歌うとなると喉への負担も結構なもの。
曲がなにせエモく声を張らなきゃならないので、あれを全編歌い続けるのはかなりきつい。
負担を減らす意味でもソロを繋いでいくやり方はいい*1。折角の才能なので長く歌い続けて欲しいもの。
それに他のメンバーもキチンと上手い。
だからそれぞれのソロも成立している。
特に新曲「プロミス・ザ・スター」は疾走感のあるトラック(ピアノがいい味になってる)にエモーショナルに響く伸びのあるアイナのボーカルが素晴らしい。
アニメのオープニングみたいに、わかりやすく格好いい曲(FLOWの代わりにBiSHで)。
ヒャダインが「あの声は唯一無二」と言っただけのことはある*2。
ルックスは、ちょっとビリケンっぽいがアイナ・ジ・エンドの声の魅力は稀有な才能。
だれがビリケンやぁーーー *\(^o^)/* pic.twitter.com/Bu6EDKJa8s
— アイナ・ジ・エンド (@aina_BiSH) 2015年7月23日
※幸運の足裏撫で会開い(ry
ただBiSは、アイナだけでは成立しない。
いろんなメンバーの声質があって、甘く辛くコロコロと楽曲の色彩が変わるからこそ魅力が増す。
特に安定感のあるセントチヒロ・チッチと少し甘いアユニ・Dのボーカルは変化が出て曲全体のバランスがいい。
一本調子にならない。
そしてサビに差し掛かってハスキーなアイナのボーカルでカタルシスを迎える。
ここで来てほしい、というポイントに配置されてる。
ハスキーな声は少し切なく、伸びがある。
ハードな曲でも、切ない曲でも。
やはり肝心な部分はアイナ・ジ・エンド。
しかし中心にアユニ・Dを据えてパンキッシュな仕上がりの「本当/本気」は各メンバーのボーカルの魅力が綺麗にハマっていて、こういう変化球な作り方もあるのかと感心する。
楽曲も見事に青春パンクな曲で、SOFTBALLなんかを連想させる幅の広さ。
アユニ・Dだけだったら王道アイドルなんだが(NEWORDERの「CRYSTAL」っぽいとこで歌ってる)。
スローな「生きててよかったというのなら」は、シンプルなトラックに歌唱力がモロに出るのでユニゾンを使ってるが。
是非聴いていただきたい一曲
興味を持った方には、やはりアンセムになりつつある「オーケストラ」を是非一度。
冒頭、スマパンの「TONIGHT TONIGHT」を思わせるストリングス混じりのメロディから始まり、90年代オルタナロックの王道展開を見せる。
アイナのハスキーな声は、ビリー・コーガンを連想させなくもない。
歌詞は、別れたあとの寂しさ。
半径数メートルの関係性を歌い「君」「手と手」などの身近なスケールを感じさせるワードが並ぶ。
そして近しい関係性を歌ってから一気に
今では繋がりなんてこの空だけ
壮大な「空」にスケールを拡大することで歌詞世界が一気に広がる巧さ。
そもそもストリングスをギターロック(オルタナ)に混ぜることは、トゲトゲしさより雄大さが出す効果がある。
そしてこの切ない世界観にアイナの表現力がうなりまくり。
完全に売れに来てるアンセムソング。
BiSH
少し気になったのが、このライブでもそうなんだが、ボーカル入りのトラックを流してユニゾンにしてる。
音源のパフォーマンスのほうが歌として上手いのは当然。
それはそれとしてライブでは乱れても歌詞が飛んでも勢いのある生歌だけでいいんじゃないかなーと思ったりするが。
パンクなんだから上手い必要はない。
ギターの弦が切れて残り一本でも最後までやるのがロック(ギターウルフ セイジ)。
ここまで見事にロキノンど真ん中な音を鳴らして来られるとハマらざるをえない。
「パンク、オルタナ、ギターロックで気持ちよくエモい楽曲にクオリティの高いセクシーめのボーカルを合わせる」
という、ある種王道なやり方。
まぁ、つまり椎名林檎なんですけど。
これもアイナというボーカリストを中心にバランスよくメンバーが揃って初めて成立する方式だから、他では真似も難しい。
全員、一定以上のクオリティのパフォーマンスをキチンとこなせるメンツを揃えたなーと感心する。
メンバー脱退とか加入とかあったわけですが、結果として現在のバランスはとてもよくなった。
アイドル戦国時代も今は昔。
多くのアイドルが次々と解散・休止する中、こうやって勢いのあるグループが伸びてくると、シーンはまだ死んでないと思える。
今年はBiSHを推していきたい。
どうあれ、このまま売れそうだけど。
旧BiSの時はハマらんかったけどなぁ……新生BiSも曲はかなりエモい。
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