【起こせミラクル】バルセロナ対パリ・サンジェルマン【トランジションの迷宮で】
ファーストレグを4-0で落としたチームが、セカンド・レグでこの差を引っくり返したことは、チャンピオンズ・リーグの歴史においてないらしい。バルセロナの合言葉は、起こせミラクル。リーグ戦で3バックを導入し、意欲満々でセカンド・レグに臨む。世界的に3-1-4-2の流行を感じるが、バルセロナもそのシステムを取り入れるとは予想していなかった。メッシをトップ下と解釈すれば、3-4-3の菱型になるけれども。ネイマールとラフィーニャのウイングバックは、なかなかの衝撃だった。マンチェスター・シティもサネのウイングバックとかやっていたけど。
ファースト・レグで、世界に衝撃を与えたパリ・サンジェルマン。バルセロナへの復讐を果たしたウナイ・エメリ。でも、試合はまだ半分残っている。それでも、歴史を振り返ってみれば、勝ち抜けはほとんど決まったようなものと言って良いのだろう。チアゴ・シウバがスタメンに復活し、ディ・マリア→ルーカス・モウラでセカンド・レグに臨んだ。
ウナイ・エメリの策は間違っていたのか??
4-0のリードがあったこともあって、バルセロナにボールを渡したパリ・サンジェルマンは、4-5-1で撤退が基本プランとなった。ファースト・レグよりもさらに全体が撤退していた。引きすぎではないか?という指摘はまっとうだろう。一方で、バルセロナの3バックにはしっかりと対応できていた。バルセロナの両脇のセンターバックへはサイドハーフ(ルーカス、ドラクスラー)がでる。バルセロナの横幅隊(ネイマール、スアレス)には、サイドバックが縦スライドで対応。カバーニはブスケツを見ながら、ピケがボールを運び始めたら前に出ていき、ラビオにマークを受け渡していた。
よって、バルセロナの3バックでのボール循環に対して、パリ・サンジェルマンは混乱なく対応できていたと思う。バルセロナ側からすると、ピケへのプレッシングが緩かったこともあって、ピケの運ぶドリブルでバルセロナの前進&パリ・サンジェルマンの撤退が進行していく展開となった。
パリ・サンジェルマンが中央圧縮で守っていることから、バルセロナは両脇のセンターバック、横幅隊を中心に攻撃を組み立てていった。特に目立ったのが、ネイマールとラフィーニャの横幅隊。利き足と逆サイドに配置された横幅隊は、カット・インからのチャンスメイク&サイドチェンジで相手の守備網を動かすことに尽力していた。地味に目立っていたのが、マスチェラーノとウムティティ。ブスケツの横でビルドアップとトランジションのサポートをこなしていた。まるで、アラバロールのような役割で、バルセロナのボール保持を攻守に安定させる役割を行っていた。
2分にバルセロナが先制。ラフィーニャのカット・イン→クロスからのこぼれ球を、スアレスがバックヘッドで押し込む。あと3点。パリ・サンジェルマンからすれば、事故のような失点だった。まだ得点差もあること&時間もほとんど経過していないことから、失点後の変化はすぐには起きなかった。
ファースト・レグと最も異なった噛み合わせ
ファースト・レグを思い出すと、パリ・サンジェルマンがボールを保持する場面が目立っていた。バルセロナの4-4-2のプレッシングを華麗に回避していたことを覚えている。しかし、この試合ではパリ・サンジェルマンがボールを保持しようとする場面はあったが、バルセロナのプレッシングに捕まってしまう場面が目立った。その理由はバルセロナのモチベーションにもあるだろうし、システム変更にもある。
ボルシア・メンヒェングラッドバッハが示したように、相手のビルドアップを本気で破壊しようとするならば、同数によるプレッシングの効果的だ。そのためには、前線に同数の枚数を揃えるために、後方の枚数を減らす必要がある。バルセロナは3バックだったこともあって、同数によるプレッシングが可能な状態となっていた。かつての代名詞であった相手陣地からのプレッシング、ボールを失ったあとの攻守の切り替えがスムーズに機能したバルセロナ。パリ・サンジェルマンは、バルセロナの猛烈なプレッシングを受けて、ボールを保持することができなかった。よって、ファースト・レグとは違い、パリ・サンジェルマンがボールを保持することなく、バルセロナが延々とボール保持攻撃を繰り返す展開となっていった。
バルセロナのチェーン破壊の仕組みとパリ・サンジェルマンの変化
バルセロナの狙いとしては、ネイマール&ラフィーニャのドリブル力から優位性を作りたい。そのためには、相手のカバーリングをひきつける必要がある。両脇のセンターバックは、相手のサイドハーフ(ルーカスとドラクスラー)を担当し、インサイドハーフ(イニエスタとラキティッチ)は相手のインサイドハーフをひきつけることで、ネイマールたちが相手のサイドバックとの対決に集中できるような環境を作ることに苦心していた。センターバックは運ぶドリブル、インサイドハーフはポジションチェンジとフリーランニングをメインに行なっていた。ときどき、メッシが現れることもバルセロナの計算には入っていたのだろう。
繋げないパリ・サンジェルマンはロングボールが増える。ドラクスラーたちが前線にいると仮定すれば、前線が同数となる。なら、ロングボールでいいだろうと。このロングボールの優位性でバルセロナが勝ると、トランジション発生で、スペースのある状態での攻撃が許されるようになる。パリ・サンジェルマンからすれば、サイドハーフは守備で自陣に押し込まれている。ボールを奪ったときの的は少ない。だからといって、ロングボールを蹴ってカバーニが負けてしまうと、バルセロナにスペースを与えることになるという悪循環だった。
17分にネイマールのスーペルなミドル。27分にはイニエスタのミドル。というように、パリ・サンジェルマンのがっつり撤退守備に対して、バルセロナはエリア内からのシュート、枠内シュートまではほとんど届いていなかった。ボールを完璧に保持しているという状態は作れていたけど、前半は我慢が続きそうな予感だった。18分くらいから、早めにピケに寄せるカバーニ。ゆえに、パリ・サンジェルマンは全体のラインを押し上げる意図を見せ始める。点差があるのだから、バルセロナにスペースを与えることをどれくらいのリスクと考えるか。このあたりの計算は非常に悩ましいものがある。
徐々にバルセロナのドリブルをファウルで止める場面が非常に目立つパリ・サンジェルマン。徐々にカバーリングというメカニズムを破壊され、1対1の状況が作られる。質的優位で迫られると、どうしてもファウルが多くなってしまう。だからといって、前からバルセロナのボール保持を破壊しようとすると、30分のバルセロナのカウンターがいい例となっているように、シュートチャンスを与えてしまう。パリ・サンジェルマンは前からボールを奪いに行くことで、プレッシング回避をされてしまうことが辛い。34分のスアレスのシュートもその例だった。つまり、トランジションや相手にスペースを与えてしまうと、中央のライン間を使われてしまうし、エリア内からのシュートまでたどり着かれてしまう。守備の整理ができた状態だったら、何とかなる。そんな悩ましい状況のパリ・サンジェルマンだった。
39分。ネイマールの根性の縦パスをイニエスタとスアレスがスルー&ワンツーでゴール前に侵入。イニエスタの粘りからクルザワのオウンゴールに繋がる。2人をものともしないネイマールが立派だった。あと2点。ようするに、撤退守備でもこじ開けられるかもしれないという恐怖は、間違いなくパリ・サンジェルマンにもあった。しっかりと守れているといえば守れているのだけど。このパリ・サンジェルマンの失点もオウンゴールという意味も含めて、不運だったと思う。
ハーフタイムを挟んだパリ・サンジェルマンの変化
後半の開始早々から、パリ・サンジェルマンのビルドアップからチャンスが生まれる。。バルセロナは3バックで3トップを止める設計になっているので、3トップにボールが届きさえすれば、パリ・サンジェルマンはアウェイゴールのチャンスを得られそうな雰囲気の立ち上がり。相手陣地からのプレッシングも再開する。特にゴールキックなどのプレーの再開では、ファースト・レグのような守備を見せ始める。
47分にウムティティがルーカスをひきつける。イニエスタとネイマールが同数になる。2対2でネイマールが裏を取ると、ムニルが倒してしまい、PKを与える。メッシが決めて、あと1点!!このPK判定も何とも言えないものだった。ただし、同数での勝負という対決は、バルセロナが延々と繰り返していた形なので、それが実ったとも言える。
51分にはムニルがネイマールをシャペウでやりかえし、カバーニのポスト直撃弾を導く。あと1点といっても、まだリードしているパリ・サンジェルマン。よって、点差がつまったことで、撤退守備を本格的にやめるようになっていく。
54分にルーカス→ディ・マリア。マテュイディが前に移動するプレッシングを、パリ・サンジェルマンは行なうようになる。よって、バルセロナにスペースが与えられる。もちろん、バルセロナがビルドアップに失敗したらジ・エンドな勝負になっていく。まだリードしているパリ・サンジェルマンからすれば、勇気が必要だが、論理的な采配と言えるだろう。いわゆる、試合は正面衝突タイムとなっていく。
61分にパリ・サンジェルマンが貴重なアウェイゴールを決める。セットプレーからクルザワの落としをカバーニがズドン。クルザワにラキティッチが競り負けたが、そもそもラキティッチの担当するエリアだったかは謎だ。ラフィーニャでも競り負けた可能性が高いけど。あと3点。正面衝突タイムで結果を出したパリ・サンジェルマンの勝ち抜けがほぼ決まった瞬間だった。
63分にはパリ・サンジェルマンのカウンターが炸裂。ネイマールからボールを奪って、カバーニとシュテーゲンの一対一をつくるが、シュテーゲンが止める。パリ・サンジェルマンが試合を決め残った瞬間だった。バルセロナはスクランブルアタックになっていたので、その後もパリ・サンジェルマンに決定機を与えてしまう。
65分にイニエスタ→アルダ。65分にはパリ・サンジェルマンからボールを奪い取ってショートカウンターからのアルダのシュートは、マルキーニョスにクリアーされる。このように、パリ・サンジェルマンはボールを繋ぐのか蹴っ飛ばすのかの判断が怪しかった。特にラビオは何度もボールを失っていた。ファースト・レグのバルセロナのプレッシングだったら、回避できたのかもしれない。この高い位置からのプレッシングを復活させたことがバルセロナにとっては最も大きな変化だった。
試合は膠着状態へ。スアレスのダイブが目立ち始める。そんな膠着状態を嫌ってか、72分には、会場にイノムの大合唱。73分にはラビオがボールを失って、エリア内からメッシのシュート。ラビオの混乱は続いていた。ボール保持からの攻撃ではやっぱりどうしようもなさそうなバルセロナ。そういう意味では、トランジションのチャンスを与えてしまうパリ・サンジェルマンの姿勢は良いものとはいえなかった。
74分にドラクスラー→オーリエ。ディ・マリアが左。ムニエが右サイドハーフ、オーリエが右サイドバックになった。バルセロナの左サイド攻撃を止める采配だった。バルセロナの攻撃はやっぱりネイマールサイドから始まる。だからこそ、ネイマールサイドに守備職人を並べる。そして、逆サイドのディ・マリアでカウンターを仕掛ける絵をウナイ・エメリは描いていたのだろう。
75分にラフィーニャ→セルジ・ロベルト。アルダがサイドへ。あと3点。前半よりは撤退しないパリ・サンジェルマン。ムニエが下がるので、ディ・マリアは前に残ることもあった。だからこそのアルダでの強襲なのだけど、あまり効果的でなかった。
83分ラキティッチ→アンドレ・ゴメス。気がつけば、ピケが最前線にいる。ピケの位置にブスケツになったので、ブスケツの位置には誰もいない。トランジションでディ・マリアにとどめをさされそうになるが、マスチェラーノのタックルはなぜかファウルにならなかった。ウナイ・エメリの書いた絵が完成しそうで完成しなかった場面。それを邪魔したのはマスチェラーノか、審判か。
86分にネイマールがフリーキックを得る。そして、直接決める。スーペルなシュートであった。あと2点!仕掛け続けファウルをもらい続けたネイマールの姿勢がゴールに結びついた瞬間だった。パリ・サンジェルマンも前からのプレッシングを続ける。
89分にメッシの放り込みからスアレスが飛び出す。これをマルキーニョスが止めるが、ファウルの判定をされてしまう。そして、PKをネイマールが決める。メッシが蹴らなかったのが意外。再びの、あと1点。この判定も物議を醸し出しそうだった。
そして始まるパワープレー。最後にはシュテーゲンも上がる。そんなシュテーゲンの切り替えから得たフリーキック。一度は跳ね返されるが、ネイマールの冷静な切り返しからのクロスをセルジ・ロベルトが合わせて、奇跡が起こった。チャンピオンズ・リーグの歴史を作ったバルセロナがパリ・サンジェルマンを下した。
再びのウナイ・エメリは間違っていたのか?
最初にバルセロナのゴールを分類してみる。
1点目はボール保持攻撃と言えば、ボール保持攻撃。ただし、こぼれ球を挟んでいるので、トランジションといえば、トランジション。
2点目はイニエスタとスアレスの関係性からゴール前に侵入は素晴らしかったが、クリアーミスのオウンゴール。
3点目は切ない判定によるPK。
4点目はネイマールのスーペルなフリーキック。
5点目は切ない判定によるPK。
6点目はセットプレーからのトランジション。たぶん、セットプレー分類でいいだろう。
3点目からは全部セットプレーと言える。流れのなかからは崩されたようで崩されてはいない。恐らく、バルセロナの枠内シュートやエリア内からのシュートのほとんどがボールを奪ってからの攻撃だったと記憶している。よって、撤退守備は良くもなかったが、悪くもなかった。もちろん、バルセロナのプレッシングが修正されたことが大きいのだが、バルセロナのプレッシングをどのように回避するかという準備で後手を踏んだところは、間違ったと指摘されてもしょうがないかと。また、ファウルをしないでネイマールを止めるというタスクをこなせそうな選手がいなかったことも切ない。恐らく数的優位で止めようとすると、他の部分から崩されるためできなかったのだろう。
後半のパリ・サンジェルマンは3度の決定機を外す。カバーニのポスト、カバーニとシュテーゲンの一対一、ディ・マリアの抜け出しをマスチェラーノ。どれかを決めていれば、バルセロナの勝ち抜けはなかった。決定機をつくるまでが監督の仕事だとすると、ウナイ・エメリはやることはやった感がある。しかし、残り9分間のバルセロナの決定力は説明できるものではなく、それこそ同仕様もなかったのではないかと思う。というわけで、ウナイ・エメリの今後に期待。