- 作者: 河野裕
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2017/02/27
- メディア: 文庫
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街で起こる事件を能力者たちの力をパズル的に組み合わせて解決する『サクラダリセット』をはじめて読んだときはヒットしそうにないものの、地味な良作能力物の作品を書ける人が出てきたな〜という感じで、『いなくなれ、群青』から始まるシリーズがヒットしたりアニメに実写にとなるとは思いもしなかったなあ。ふとブログを検索したら七年前の記事が出てきたのでどうぞ(昔の文章は恥ずかしい)。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
で、本書『最良の嘘の最後のひと言』だけれども、これまた能力者ものであるけれども、その方向性は『サクラダリセット』とは大きく異なっている。こちらは限定された空間で行われる能力者同士の"騙し合い"がメインとなり、集まってきた奴らの目的は?、本当に能力を持っているヤツは誰だ?という情報ゲームが繰り広げられる。
序盤こそメインの登場人物7人の思惑が錯綜し、どいつもこいつも嘘つきだらけなので把握に手間がとられるが、状況が整理され嘘が次々と暴かれていく後半からは一気読み、最後は爽快に騙されて──と大満足の一冊。さすがの構成力ですわ。
ゲーム・ルールの説明
世界的な成功をおさめるIT企業ハルウィンのジョーク企画として、年収8000万で超能力者を一人採用するという告知が出される。2万を超える書類の中から7人の人物が選出され、街中で行われる"採用通知"を奪い合う最終試験に臨むことになる。
ルールを詳しく説明しておくと、最終試験の期間は3月31日18日から24時まで。7人には便利な能力ほど若い番号が割り振られている。ナンバー1の人間には最初に採用通知が郵送され、他のメンバーは時間内でその採用通知を奪い合い、採用通知書を試験の終了一時間前に告知される係員に提出したものが晴れて採用になる。採用通知書は規定の圏内から持ち出してはならず、他、法的に違反することは禁止だ。
能力者物といえばジョジョを筆頭に"バトル"するのが当然のようになっているが今回はルールで禁止されているため本書では"いかにして採用通知を手に入れるのか"、"いかに仲間を集めるのか"という頭脳戦、知略戦がメインとなる(多少の暴力沙汰は発生するけれども)。そのため誰もが状況を自分に都合よくコントロールするために嘘をつきまくるのだが、果たして最後に勝ち残る"最良の嘘"を放つのは誰なのか──。
嘘つきだらけ
さあ、それにしてもこの最終試験(採用自体)はあまりに奇妙だ。そもそも超能力者が当たり前に存在する世界ではないから、いるかもわからないものを8000万もの年収で募集する意味がわからない(ジョーク企画とはいえ)。本当に超能力者を集めたいとして、最終試験にこんな大掛かりなことをするのも不可解である。
さらには、最終試験に集まった人々は書類選考と面接を通っただけの人々であるから、何らかの方法で能力者であると誤認させているだけの可能性もありえる。参加者は与えられたアプリケーションによってある程度お互いの位置がわかるし、基本的に組んだほうが有利なので、頻繁に交渉が行われるが"自分は無能力者である"とか自分の能力の発動条件を白状するやつはいない。それ故、まず"こいつは自称する通りの能力者なのか"を探り合うのは一周回って戻ってきた能力バトル物みたいでおもしろい(HXHとかの相手の能力の発動条件とか効果を推定する感じに似ている)
いちおう作中で初期の方で明かされる各人の自称能力をあげておくと、1.未来予知能力、2.物質の入れ替え、3.フェイク(物質のコピーをつくる)、4.資格情報に特化したイメージを対象に送る、5.遠方にある物質を取り寄せる、6.危険を事前に察知できる、一名は不明。『サクラダリセット』のように時間を巻き戻すような反則級の能力者はいないが、採用通知を奪う/相手を騙くらかすには有用な能力者が揃っている。
そもそも参加者の真の目的すらもわからない(本当に能力者だったら年収8000万は志望するに値する金額なのだろうか)上に、採用通知を奪うため、あるいは本来の目的にために自分の能力や他者の能力を使ってありとあらゆる方法を使って騙くらかそうとしてくる。その能力の組み合わせ方がまたうまくて──とその巧みなロジックを明かすと一気にネタバレになってしまうのでこの辺でやめておこう。
おわりに
終盤の畳み掛けるような能力ロジックの披露には「これこれこういうのが読みたかった!」と喜んだが、これ穴がないように構築するのは相当大変だっただろうな……。能力者同士の騙し合い(肉体的なバトルなし)というとすぐにはぱっと他の例が思いつかないぐらい珍しいし、構築カロリーは異常に高そうだし、河野さんにとってもそうそう何作も書けるもんではないと思うので気になる方はご一読をオススメする。