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 このコラムにおいて、「免疫の低下している人は……」という表現を何回か使ってきましたが、そもそも「免疫」とは何なのでしょうか?

 この質問に正確に答えられる人はそれほど多くないと思います。

 免疫とは、「特定の異物に対する防御反応が強くなること」を意味します。私たちは、同じ異物(抗原)がくりかえし体内に入るとその抗原に対する防御反応が強くなる性質を持っています。この性質をわかりやすく言うと、「一度○○という病気にかかったら、○○にはかかりにくい」ということです。そのことを、「○○に対する免疫がある」と表現します。

 免疫を利用した医療の代表が「ワクチン」です。ワクチンは、わざと異物(抗原)を注射することによって、その異物に対する防御反応を強くしておく、免疫を利用した予防法です。

 みなさんも、結核に対するワクチンであるBCG接種のほか、麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)、インフルエンザなどのワクチンの接種を受けたことがあるでしょう。ワクチンは、細菌やウイルスの病原性をほとんど無くしたうえで、私たちの体内で免疫反応が生じるように作られているのです。

 しかし、この世のすべての異物に対して体の免疫反応は強い方がよいかと言うと、そうではありません。すべての病気について「免疫を高める」ことが「病気にならない」ことにつながると勘違いしている人が少なくないと思いますが、異常に強い免疫反応によって生じる病気が数えきれないほどあるのです。

 確かに、感染症として悪さをする細菌やウイルスに対しては免疫が強い方がよいでしょう。その一方で、体にとっての異物の中には「たいして悪さをしない」ものや、「放っておいてもよい」ものがいくらでもあるのです。例えば、花粉やほこりなどです。

 これらの異物に対しては、たとえ体内に入っても免疫の仕組みが働かない方がよいのです。ところが、こうした異物に対して異常に強い免疫反応を起こしてしまう人がいます。この「異常に強い免疫反応」が「アレルギー」です。花粉症は、花粉に対する異常な(過剰な)免疫反応が原因なのです。

 ですから、何でもかんでも免疫が強い方がいいというのは間違いです。当たり前のことですが、「それぞれの異物(抗原)に対して、それぞれにちょうどいい免疫反応」が備わっていることが健康な状態と言えます。

 一部の健康食品や、あやしげな医療本に「免疫力アップ!」という表現がよく使われていますが、「どんな抗原に対する免疫がアップ」するのか、明確でないことが少なくありません。もし、すべての抗原に対して免疫力がむやみにアップしたら、それは大変なことです。さまざまなアレルギーや免疫疾患になってしまいます。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座准教授 齋藤紀先)