2017年3月10日05時00分
稲田防衛相に閣僚としての資質があるのか。重大な疑義を抱かざるを得ない発言である。
稲田氏は8日の参院予算委員会で、戦前の教育勅語について次のように語った。
「日本が道義国家を目指すというその精神は今も取り戻すべきだと考えている」
「教育勅語の精神である道義国家を目指すべきであること、そして親孝行だとか友達を大切にするとか、そういう核の部分は今も大切なものとして維持をしているところだ」
天皇を頂点とする国家をめざし、軍国主義教育の根拠となったのが教育勅語だ。明治天皇直々の言葉として発布され、国民は「臣民」とされた。
親孝行をし、夫婦仲良く。そんな徳目が並ぶが、その核心は「万一危急の大事が起こったならば、大儀に基づいて勇気をふるい一身を捧げて皇室国家の為(ため)につくせ」(戦前の文部省訳)という点にある。
いざという時には天皇に命を捧げよ――。それこそが教育勅語の「核」にほかならない。
稲田氏のいう「道義国家」が何なのかは分からない。ただ、教育勅語を「全体として」(稲田氏)肯定する発言は、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という憲法の理念と相いれない。
教育勅語は終戦後の1948年、衆院で排除の、参院で失効確認の決議がされた。衆院決議は勅語の理念は「明らかに基本的人権を損ない、且(か)つ国際信義に対して疑点を残す」とした。
当時から、「いいことも書いてある」などとする擁護論もあった。これに対し、決議案の趣旨説明に立った議員は「勅語という枠の中にある以上、勅語そのものがもつ根本原理を、我々は認めることができない」と言い切っている。
当時の文相も「教育勅語は明治憲法を思想的背景としており、その基調において新憲法の精神に合致しないのは明らか」と本会議で答弁した。
こうした議論を踏まえることなく、勅語を称揚する姿勢は閣僚にふさわしいとは思えない。
まして稲田氏は自衛隊を指揮監督する立場の防衛相である。軍国主義の肯定につながる発言は国内外に疑念を招く。
安倍政権では、教育勅語を擁護する発言が続く。2014年に当時の下村博文・文科相は、勅語が示す徳目について「至極まっとう。今でも十分通用する」などと語った。
こうした主張は政権全体のものなのか。安倍首相は明確な説明をすべきだ。
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