骰子の眼

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東京都 新宿区

2017-03-10 12:45


國村隼の怪演を『哭声/コクソン』監督が絶賛「混乱もたらす聖書のイエスのような"よそ者"」 

のどかな韓国の村で起きた連続猟奇殺人事件、じわじわとスリルを高めていくサスペンス
國村隼の怪演を『哭声/コクソン』監督が絶賛「混乱もたらす聖書のイエスのような"よそ者"」
映画『哭声/コクソン』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

『チェイサー』『哀しき獣』のナ・ホンジン監督の新作『哭声/コクソン』が3月11日(土)より公開。webDICEではナ・ホンジン監督のインタビューを掲載する。

一見平和そうに見える韓国の小さな村。そこに得体の知れない日本人の“よそ者”がやって来たのをきっかけに、自身の家族を殺害するという猟奇殺人が多発するようになる。映画は、捜査に乗り出したものの次第に娘や家族もその不穏な空気に巻き込まれている警察官ジョングの運命をサスペンスフルに描いている。前2作の演出力で高い評価を得たナ・ホンジン監督は今作で、のどかな田舎の風景に忍びよる恐怖を、暴力描写を極力抑え、事件を見たという女や事件の解明に協力する祈祷師といった謎多き人物たちとジョングのやりとりを通して緊迫感を生み出している。“よそ者”を演じる國村隼の狂気に満ちた演技にも注目してほしい。

“よそ者”を日本人の設定にしたことについて、ひとつは新約聖書の影響を大きく受けています。イエスがエルサレムに向かっていく時にユダヤ人がどのように受け止めたのかというフィーリングを活かしたいと思いました。この映画は混沌や混乱、疑惑について描いていますが、イエスは歴史上最も混乱を与え、疑惑を持たれた人物の中の一人ですよね。そういう意味で、見た目は似ているけれど、全く違うという異邦人が必要でした。(ナ・ホンジン監督)


いつの間にか暗くなっている、
今までとは違うスリル

──監督のこれまでの作品『チェイサー』『哀しき獣』とくらべて、観客にスリルを味あわせる手法にはどのような違いがありますか?

暴力描写で観客にスリルを与えるこれまでのやり方は避けたかったんです。そうではなく、どうやったら観客にスリルを与えられるだろうか……というのが『哭声/コクソン』を作る時に最優先させたことです。これまでの緊張感と今の緊張感は違う。この緊張感は明らかに違う緊張感だ、その違う緊張感を表現しなくてはと思いました。

映画『哭声』ナ・ホンジン監督
映画『哭声/コクソン』ナ・ホンジン監督

いつの間にか映画は一層ダークになっていて、いつの間にかさらに暗くなっている。そんなふうに、ずっと、ゆっくりと前に進み続けながらスリル感を高めていくようなスタイルの映画を作りたかった。今までとは違うスリル、違う緊張感をお見せしたかったんです。

──脚本のアイデアの出発点を教えてください。そして、國村隼さんが演じた“よそ者”をなぜ日本人にしたのですか?

私は韓国に住んでいる韓国人ですが、そんな自分が見た社会的な雰囲気を映画に込めてみたいと思っています。影響を受けた部分ですが、家族の中でひとり亡くなった人がいて、その死ということに多くのことを考えさせられこの脚本を書くに至りました。『チェイサー』と『哀しき獣』を振り返ってみると、加害者への好奇心のようなものがあり、犯罪の現場とか死というものを、それを作った人や導き出した人に焦点を当てて描きました。でも、その2作品には被害を受けた人々がなぜ被害を受けるに至ったのかについて、彼らの悩みや想いへの描写が不足していたのではないでしょうか。

どうしても事件に集中してしまうので、被害者に余り目を向けていなかったのではないかと思いました。今回は、被害者がどんな原因によってなぜそのような事件に巻き込まれることになったのかについて書いてみたいと思ったのです。彼らがなぜそんな悲惨な経験をしなければならないのかについて、色々と考えさせられる映画を作りたかった。社会全般の決してよくない雰囲気を包括的にこめた映画を作りたい。そう思って脚本を作り始めました。

映画『哭声』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
映画『哭声/コクソン』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

“よそ者”を日本人にしたことについて、ひとつは新約聖書の影響を大きく受けています。イエスがエルサレムに向かっていく時にユダヤ人がどのように受け止めたのかというフィーリングを活かしたいと思いました。この映画は混沌や混乱、疑惑について描いていますが、イエスは歴史上最も混乱を与え、疑惑を持たれた人物の中の一人ですよね。そういう意味で、見た目は似ているけれど、全く違うという異邦人が必要でした。見分けるのが本当に難しいものが自分の内部に入ってきた時、敵なのか味方なのか分からなくて混乱します。映画が持っている<混同>というテーマを表現するのには、そんな人物が理想的じゃないか。そんな外国人を演じることができるのは、韓国に近い中国か日本の俳優ですが、その中でも日頃から尊敬している日本の方と一緒に仕事をしてみたかった。そういうキャラクターを演じるのに適した人は日本の俳優ではないかと思ったんです。

映画『哭声』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
映画『哭声/コクソン』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

キャスティング中に起きた「偶然の出来事」

──村で起きる不審死を操作する警官役に、クァク・ドウォンをキャスティングした理由を教えてください。

『哀しき獣』を撮っている時に、クァク・ドウォンは最も印象的な俳優でした。最初のテイクで僕はものすごく気に入ったんです。すごく印象的で……翌日、主演俳優たちがみんな来た時、彼が演技するのを見せながら「こんな俳優がいたんだよ」「この俳優は驚くべき俳優だ」「この俳優は……」「ただ者ではなさそうだ」、そんな話をしたのを思い出します。それ以降、彼にずっと注目していました。

シノプシスができた時、彼を訪ねていきました。「先輩(クァク・ドウォン)と一緒にやりたい」「こういうシノプシスだ、やろう」と伝えると、彼もオーケーしてくれました。

映画『哭声』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
映画『哭声/コクソン』警官役のクァク・ドウォン(右) ©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

──それでは、祈祷師役のファン・ジョンミンのキャスティングの理由は?

祈祷師役を誰に演じてもらうか、なかなか決まらず、様々な問題があってのびのびになってしまっていたんです。この役柄をどうしようかと悩み、シナリオの手直しをしようと江原道(カンウォンド)にある束草(ソクチョ)という海辺の町に行きました。

その場所には山を越えていかねばならず、そこに向かっていたんです。その時すごい強風が吹いていて、車が揺れていて、周りの車も非常灯を付けて停まっているような状況でした。その中を私はゆっくり運転しながらひとりでドライブをして山の中を進んでいたんですが、その山中でイノシシに出逢いました。イノシシが道端をふさいでいて私の方を睨み付けているんです。10分ぐらいその状況が続き、なぜこのイノシシはここにいて道をふさいでいるんだろうと不思議に思っていたんですが、結局イノシシは道を空けてくれました。

それで私はまた車を進め始めると、風は既に収まっていて、静かになっていました。季節は冬でした。右の方には田んぼがあったのですが、また強風が吹き始め、田んぼのところに倉庫のようなものがあり、それが強風に煽られて車に向かって飛んできたんです。それがあたかも刀のように車に向かってきて、なんとかそれを避けて通ることができました。大きな事故になりそうになったんですが、私は急ブレーキを踏んでなんとかしのぐことができました。

そうしたふたつの出来事を経験して宿に着き、気を引き締めようとTVを付けると、ちょうどファン・ジョンミンが出演している『新しき世界』をやっていました。私はその映画を観に行ったんですが、途中で中座して出てきてしまったんです。偶然にも、TVを付けたところがちょうど自分の観ていなかったシーンから始まったんです。映画を最後まで観ることができて、彼の演技も素晴らしかった。その時彼は『ベテラン』の撮影をしている最中だったので、監督であるリュ・スンワンさんに電話をして「なんとかキャスティングをしたいので仲裁してください」とお願いしました。当時、私は祈祷について取材をしていたせいなのか、そういった「偶然の出来事」を重要視していて、そういう不思議な経験の影響もあったと思います。

映画『哭声』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
映画『哭声/コクソン』祈祷師役のファン・ジョンミン ©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

ファン・ジョンミンさんは主人公を演じている時と、助演として演技をする時では、すごく大きな違いを見せる俳優ではないかと思っていました。うまく説明できませんが、主演を演じている時は作品全体について集中しなければいけないせいなのか、助演の時の方がキャラクターにより集中することができ、よりクリエイティブな演技ができる人ではないかと。祈祷師イルグァンを演じるのはそういう人がいいと思っていたんです。映画には祈祷をするシーンがあり、体を使わなければならないので、彼にはバレエや舞踊の経験もあるので、すごく役立つのではないかと思いました。

出来上がった映画を観て、やはり彼は助演を演じている時は本当に自由に、なんのプレッシャーもなくキャラクターに集中して、素晴らしい演技ができる方だと改めて実感しました。いい経験をしましたし、本当に彼は素晴らしい俳優です。

國村隼さんは、本当に予想できない演技をする方

──それでは、“よそ者”の日本人を演じた國村隼さんのキャスティングの理由は?過去の出演作を見て決めたと聞きました。

國村隼さんの作品で僕が入手できる作品はすべて観ました。具体的な作品についての言及は控えますが、彼の演技を見て感じたのは、瞬間瞬間、ワンカットごとに表情がくるくる変わるんです。本当に予想できない演技をする方です。出演のお願いをするために彼と実際に会って話をしたんですが、とても若い考え方を持っていて、私よりも若い、クリエイティブな考え方を持っていて、いろんなものへの欲求を持っているんだなと感じました。それで苦労して彼を迎えて一緒に仕事をすることになりました。

映画『哭声』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
映画『哭声/コクソン』謎の日本人を演じた國村隼(左) ©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

一緒に撮影してからのフィーリングですが、技術面において本当に生まれて初めて見るような演技で驚きました。本当に準備をきめ細かくしっかりしてきてくれてくれるんです。そして、監督との長い対話を通して正確に作品について理解しようとしてくれます。そういう正確な理解を通して、映画の撮影に適したベテランらしい演技、姿を見せてくれました。私達スタッフは彼との撮影初日に、そんな姿を見て本当に驚いた記憶があります。このキャラクターを演じるのは、年齢的にも肉体的に苦痛な部分もあったと思います。なんとかお願いして厳しい撮影を行ったんですが、本当に変瞼(中国の古典劇に伝わる一瞬で面を変える演技)のようにワンカットワンカット撮影するたびに素晴らしい演技を見せてくれました。

撮影現場の雰囲気は、いい時もあればよくない時もありましたが、一度カメラが回ると本当に素晴らしい演技を見せてくれました。彼がこの役柄を演じてくれなければ映画自体が大きく違うものになっていたかもしれません。この映画ができたのは、國村さんがいた結果ではないかと思っています。心から尊敬しています。

映画『哭声』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
映画『哭声/コクソン』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

──人によって見方が変わるラストになっていますが、監督としてはラストがどのように届けばいいと思っていますか?

私が今回の脚本を書いたのは、被害者の立場に立ってみたいと思ったからです。私が望んでいることは、被害者が出るということは、それを送り出す遺族がいます。遺族はそのことをどう思うだろうか……と。そして私達は遺族に対して慰めの言葉をかけますよね。だから、<慰め>ということがエンディングになることを望んでいました。

もちろん苦しみや悲しみや痛みなどを他の人が感じることはできませんが、私たちは<あなたが、家族のために家長として、父親としてどのような努力をしてきたのか、最善の努力をしてきたことを見守ってきました。失敗はしてしまったけれど、その努力する姿を見守ってきました。あなたは立派な父親でありベストを尽くしました。だから、余り苦しまないでください。辛く思わないでください。あなたは最高の父親ですよ>と慰めになるような映画になることを望みました。エンディングはジョングの顔のアップで終わりますが、それで終わることによって共感を一緒にしてくれたら、と思いました。そういう風に観てもらえることが、この映画の存在価値ではないかと思っています。

(オフィシャル・インタビューより)



ナ・ホンジン(Na Hong-jin) プロフィール

2008年の長編デビュー作『チェイサー』で、大韓民国映画大賞、大鐘賞映画祭など韓国内の映画祭はもちろんのこと、シッチェス・カタロニア国際映画祭、ドーヴィル・アジア映画祭など世界有数の映画祭でも賞を次々と受賞。その演出力を認められた。その後、2作目の『哀しき獣』では、圧倒的な緊張感と追い込むようなスピード感で新鮮な衝撃を与えた。そのナ・ホンジン監督が、3作目となる監督作『哭声/コクソン』では、新たなスタイルの緊張感とスリル、そして一層独創的で強烈な展開を見せる。




映画『哭声/コクソン』
2017年3月11日(土)、シネマート新宿他にて公開

映画『哭声』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
映画『哭声/コクソン』©2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

平和な田舎の村に、得体の知れないよそ者がやってくる。彼がいつ、そしてなぜこの村に来たのかを誰も知らない。この男についての謎めいた噂が広がるにつれて、村人が自身の家族を残虐に殺す事件が多発していく。そして必ず殺人を犯した村人は、濁った眼に湿疹で爛れた肌をして、言葉を発することもできない状態で現場にいるのだ。事件を担当する村の警官ジョングは、ある日自分の娘に、殺人犯たちと同じ湿疹があることに気付く。ジョングが娘を救うためによそ者を追い詰めていくが、そのことで村は混乱の渦となっていき、誰も想像てきない結末へと走り出す―。

監督:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ
2016年/韓国/シネマスコープ/DCP5.1ch/156分
配給:クロックワークス

公式サイト


▼映画『哭声/コクソン』予告編

キーワード:

ナ・ホンジン / 國村隼


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