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アマゾン救済 4

Amazon Rejects ただの読書 書評

堅実な科学技術評価に基づく悲観的な人類の未来。だが翻訳は残念。, 2008/9/30

未来の私たち―21世紀の科学技術が人の思考と感覚に及ぼす影響

未来の私たち―21世紀の科学技術が人の思考と感覚に及ぼす影響

  • 作者: スーザングリーンフィールド,Susan Greenfield,伊藤泰男
  • 出版社/メーカー: NPO科学技術社会研究所
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 単行本
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 科学技術の進歩と人類の将来について、いろいろな視点から分析してみせた本。人間性はある前提となる環境の中でこそきちんと発達して望ましい形になるが、バーチャル技術やロボット技術やバイオ技術はその環境そのものをいくらでも変えられるようにしてしまう。すると刹那的な扇情に基づく流行、テロ、自閉だけが伸び、いまの個人性といったものは消え、すべては集団性の中に飲み込まれるのではないか、という悲観的な結論。だがこの見方は、スタニスワフ・レムやルロワ=グーランとも共通するものであり、やはりそうか、という気がするが、各方面での科学技術の発達をきちんと把握した上での議論展開は堅実であり、刺激に富む。

 ただし翻訳は、あまりよい評価をあげられない。「ブリトニー・スペアース」「スタンレィ・ルブリックの映画『2001年宇宙の旅』」(ルブリックってだれ?)「Who博士を追うDaleks」「人形劇Thunderbirds」と、ポピュラー文化はほぼ全滅。J.B.S.Haldaneは、ふつうはホールデンと表記されると思うし、イカロスの父ダエダラスって、ダイダロスかせめてディーダラスでしょ。オーウェル1984年』の「偉大なる兄弟」って、編集者がせめてつっこんであげてはどうでしょうか? またそれ以外にも各種表記や表現の異様な古くささや、直訳丸出しの翻訳は読みにくいことおびただしい。もう少し気軽な読みやすい啓蒙書のはずが台無し。もったいない。意味をとりちがえているところがあまり見られないのはせめてもの救い。

支離滅裂。, 2008/9/10

貨幣の経済学―インフレ、デフレ、そして貨幣の未来

貨幣の経済学―インフレ、デフレ、そして貨幣の未来

支離滅裂でまったく理屈の通っていない変な本。デフレのときにインフレターゲットを設けると、かえってデフレが促進されてしまうという変な理屈をこねてインフレターゲットを否定しつつ(ついでに、デフレの時にはデフレターゲットとかいうわけのわからない話を検討しているのも、この人ホントにわかってるのかいな、という感じ)、最後にはゲゼルの提唱したマイナス金利つき貨幣をほめそやしてみせる。デフレ下でインフレターゲットを設けるのは実質金利をマイナスにするための手法でもあるので、片方をほめて片方を否定するのはカナーリ理屈がおかしいんですけど。

経済を貨幣の本質とは何かという問題までさかのぼって根源的に考えたというんだが、本質にさかのぼったからといって理解が深まるわけではないという見本。

温暖化の経済学の権威による、バランスのとれた温暖化対策のすすめ。, 2008/8/9

A Question of Balance: Weighing the Options on Global Warming Policies

A Question of Balance: Weighing the Options on Global Warming Policies

温暖化の経済モデルでは右に出る人のいないノードハウスによる、地球温暖化の経済シミュレーション。結果はタイトル通り、あまり無茶な排出削減してもしょうがないから、バランスのとれた政策しようぜ、というもの。ロンボルグを読んだ人なら、ほぼ同じ結論です、というよりロンボルグがノードハウスの結果を参照しているので、こちらが本家です。

温暖化は起きているし、それは世界に各種の被害をもたらすかもしれないけれど、でも排出削減のものすごい費用をかけるほどではないから、炭素税くらいを考えるべき、という話。

温暖化の経済モデルについて知りたい人には格好の入門書(ついでにモデルそのものはノードハウスのウェブから入手可能)。ロンボルグの本よりちょっと専門的だけれど、素人でも十分読める範囲。こうしたモデルの考え方や限界についても詳しいし、でも限界はあっても、その中で現実的に可能な選択肢の検討は十分に意味がある、ということもわかる。あと、肩書きに弱い人(ロンボルグは専門家じゃないから信用できないとかいう人が多い)も、ノードハウスの言うことなら一目おいてくれるでしょう。手短だし、ちょっと地味だけれどいい本です。

科学者の自己陶酔した自伝がうざったく、タイムマシンもかなりの大風呂敷。, 2008/8/8

The Time Traveller: One Man's Mission To Make Time Travel A Reality

The Time Traveller: One Man's Mission To Make Time Travel A Reality

時間と空間を四次元でまとめて扱うといろいろすっきり記述できるけれど、時間だけ一方向に行き来できないのはなぜかというのは昔からの物理学の問題で、著者はそれをあれやこれやでうまく記述して、レーザーでループを作ると空間が歪んで時間が止まるんだ、という理論を編み出し、それを実際に稼働させるあたりまできたとかこないとか(特許は取ったらしい)

でもこの「タイムマシン」は、そのループの中で時間を止めるだけで、別に好きな時代にいけるわけじゃないんだって。スイッチ押した時点で止まるだけですね。しかも、その中では時間は止まっているので、まあウラシマ効果ブラックホールに落ちたときの時間の延びを使った瞬間冷凍みたいなもんですな。別に死んだお父さんと再会できたりはしませんし、過去に戻ってやりなおすこともできない。その中に(レーザーを突破して)入っても、主観的には何も起きないようで、外から見るとその場で動かなくなるだけらしい。あんまりうれしくないタイムマシン。

そして、全編とにかくこの科学者の自分語りの伝記仕立て! 生い立ち、幼くして父をなくしたけどがんばって、就職したけど学問のために大学に戻り結婚して云々。全編とにかく自己陶酔したオレ様話で、しかも別に有名人でもないし大した事件があるわけではないので、退屈でうっとうしいこと限りない。その中にたまーに自分の科学的な発見の話が入るんだが、ローレンツ収縮のあたりはいざ知らず、後のホウになるとだんだん説明があいまいになって要領を得ない。

スパイク・リーが映画化権を買ったそうだけれど、それはこの科学者が黒人だから。黒人科学者の成功物語にするつもりなんでしょう。でもこれでおもしろくなるのかどうか。タイムマシンも、「今世紀中に実現」なんて大風呂敷だし、それもみんなの思ってる意味でのタイムマシンとはかけ離れた代物。ちょっと看板に偽りありと言わざるを得ない。

起業家というとかっこいいが実態はそこらの「自営業」さんです。, 2008/8/8

The Illusions of Entrepreneurship: The Costly Myths That Entrepreneurs, Investors, and Policy Makers Live By

The Illusions of Entrepreneurship: The Costly Myths That Entrepreneurs, Investors, and Policy Makers Live By

起業家、というとビルゲイツやジョブスやベゾスのような大ベンチャーの雄を思い浮かべるけれど、実際の起業を見ると、ほとんどは工務店を開いたとかカフェや美容室を作ったとかお店を持ったとかそんなのばかり、というのが本書の指摘。要は「自営業」ってやつですな。

起業家はだいたい中年でしばらく勤めてから「これならオレもできる」と同じ業種で開業するのが通例、別に新しいビジネスアイデアや競争優位があるわけでもなく、特に成長の見通しもなくて、実際成長もしないどころかつぶれるところ多数。

 しかも起業家は犯罪歴が多く、定職につけずに職場を転々としているような不適応者が、人に使われるのはいやだ、自分一人が食えればいいというだけの理由で会社を興す場合が多い。頭がよくて豊かな人たちは、そんなリスクを冒したがらない——うーん。だから社会的に、起業家精神はすばらしいとあおって政策的に優遇したりするのは、少し考えたほうがいいよ、という本。

起業家が英雄視されている、という前提に共感できれば、なるほどという感じ。一方で、上の記述を読んで「あたりまえじゃないの?」と思った人は、あまり新しい発見はない。そして、何でも起業がいいわけではなく経済に貢献する起業家を選んで応援しようというのは……できるんだろうか? 起業にもピンキリあるだろうが、キリなしにピンだけ選べるのか、となると疑問。変なビジネススクール談義に冷や水を浴びせるにはいいだろうし、現状を知る上でおもしろくはあるんだけど、目から鱗というほどではない。

 コメントでのご指摘を受けての加筆。確かに本書の内容から、成功しそうな起業家を選別することはできなくはない。それは白人、男性、高学歴、高所得の起業家による、高成長分野の会社で、すでに投資家が行列しているようなところを選べ、ということになる(女や黒人、低学歴や貧困者は企業家として全然ダメという結果が出ている)。が……まずこれを公共政策としてできるかというと、つらい。これはどう見ても差別的だと言ってたたかれる。そしてそんな条件のいいところをわざわざ公共的に支援すべきだといえるかどうか? その意味でこれがどこまで活用できるのかというと、うーん。考えてしまうところ。

コンパクトなのに重要ポイントを網羅したよい本。, 2008/7/29

 文字通り、コンパクトなマクロ経済学の本。なんだかんだ言って、まずはIS-LMをきちんと押さえなきゃだめよ、ということでIS-LM, 45度線分析、AD-ASモデルを明確に(でも無用にこびてレベルを落とすことなく)説明し、そこからマクロ経済学の近年の進展を実に簡潔にまとめていてお見事。IS-LMの変形版、金融政策の説明もしっかりおさえ、最後はそれまでの概念を使った日本経済分析と、理論の実地応用も欠かしていない。

 コンパクトな解説書は、くだらないたとえ話を乱用してわかったような気分になれるけれどまったく使い物にならないものや、逆に簡潔にしすぎてすでに知っている人しか理解できなくなってしまっているものが多いけれど、そのどちらの罠にも陥らず、素人の本当の入門にも使える一方で半可通のアンチョコにも使える一冊となっている。近年のマクロ教科書ではやりの成長理論などはカットしているけれど、このレベルではよい判断でしょう。試験前の一夜漬けや、いまさら聞けない事項の復習にも最適。場所もとらないし、手元にあって絶対損にならない、よい参考書。

まだまだ仮説の域を出ないのにずいぶん自信たっぷり。, 2008/7/24

老化を止める7つの科学―エンド・エイジング宣言

老化を止める7つの科学―エンド・エイジング宣言

生物がなぜ老いるのかはよくわかっていない。テロメアが云々といった説はあるけれど、それがどう作用しているのかも不明だ。本書は、老化というのは細胞がだんだんダメージを受けて再生産できなくなるために生じるんだから、そうした各種のダメージやゴミを取り除けば老化は止められる、という議論を展開している。

で、著者はだれも自分の説を明確に否定できていないという理由で、だから自分の理屈は正しい、という論法をとるんだが……老いるという現象がよくわかっていないんだから、definitiveに著者の説が否定されないのは当然の話。まあそういう考え方もあるかも、という程度の可能性は必ず残る。でもそれは著者のように老化が止められると断言できることにはならないと思う。その意味で訳者あとがきのように「本書は世界ではじめての、きわめて具体的で実現可能な<不老不死>の計画を示した本」などと述べるのは、かなり悪質な大風呂敷だろう。が、本書はかなりその手の悪質な大風呂敷で、仮説でしかないものを「これしかない!」という調子で示してみせる。

著者の自分語りをたっぷり交えた記述はいささかうっとうしく、自分の説とそれが見つかった状況と従来の理論への批判がまぜこぜに出てきてわかりにくい部分が多々ある。そして本書の最後部分は、自分たちの研究に金をよこせという話が延々続く。そういう利害関係を露骨に見せられると、かれの仮説自体もどこまで信用できるかよくわからなくなる。そして記述のレベルも、科学的記述はあまりに詳細で専門的で一般書の水準をかなり超えている一方で予算よこせマニフェストがごっちゃになってしまって、読み進むのに苦労する。もっと第三者的なライターがまとめて客観的に書いてくれたほうがよかった。著者の根拠レスな暑苦しい自信とは裏腹に、これだけ超えるべきハードルが多くては、当分老化阻止なんてのは実現できないな、という印象のほうが強く残った。仮説でよければ、読むのを止めはしないが、さりとて積極的にもおすすめしかねる感じ。

あ、それと本書は、いまあなたにできる老化防止みたいな実用書ではございませんのでそのつもりで。本書に書かれたことのいずれも、いまの読者の存命中には実現しません。

人生のリスクとリターン!, 2008/7/22

こわがりやのクリス だっしゅつだいさくせん

こわがりやのクリス だっしゅつだいさくせん

 人生において、安全を重視してひたすら内にこもるおくびょうリスが、毎回一歩踏み出しては予想外の事態にあい、慌てては予想外の結果に落ち着くという、リスクと安全、不完全情報とリターンの関係を描いた名作シリーズの第一作。あるファンドマネージャの薦めで知りましたが、深くも浅くも読めるたのしい絵本です。

 ただ……上の見本ページにもありますが、訳が愚直すぎるのではないかと思います。上でアフリカミツバチとなっているのは、原文は killer bee. 確かに正確にはアフリカミツバチですが、これが非常に怖いミツバチだというのは知らないと理解できず、killer bee というときの怖さがつたわりません。この先のシリーズでは、もう少し柔軟な対応をしてくれるといいのですが。

愚痴ばかり, 2008/7/22

日本人は世界一間抜けな美術品コレクター (光文社ペーパーバックス)

日本人は世界一間抜けな美術品コレクター (光文社ペーパーバックス)

日本のアーティストが一部で高い評価を得る一方で日本の美術市場はバブル期に比べて規模縮小。それは日本美術界に価値観がないからだ、というのを発端にアレコレ言うんだが……

美術市場が縮小しているのは、日本経済が停滞して日本人に金がないからじゃないの? そんだけの話でしょう。

そうした基本認識がおまぬけなので、後の話も画廊オヤジの物欲しげな愚痴でしかない。また他人の価値観の不在を云々する著者の認識の浅はかさは、pp.206-15あたりの日本文化についての俗説ナショナリズムのだらしない開陳に如実にあらわれている。日本美術や文化の一部がかなり高い評価を得ていることを書きつつ、一方で「日本の文化はだれにも相手にされない」(p.189) と書いてしまえる 支離滅裂さ。この光文社のシリーズはすべて低級な書き手の書き殴り思いつきばかりだが、本書も例外ではない。買う価値はおろか、手に取る価値すらありません。

創発や創造性こそ聖なるものだ、というただの言い換え, 2008/7/4

Reinventing the Sacred: A New View of Science, Reason, and Religion

Reinventing the Sacred: A New View of Science, Reason, and Religion

ドーキンスとかデネットとか、神を否定するような立場の本が目立つ中で、聖なるもの擁護とは、と思って読み始めたが、期待はずれ。

還元主義では説明のつかないことがある、複雑系創発現象は還元主義ではわからん、とカウフマン。それは人間の創造性とかにもつながるものである。そうした創造性や創発性を聖なるものと呼ぼう! だって神様って、創造するのが仕事じゃん。やった! これで聖なるものが復活した! これでみんな仲良く共存だ!

いや、そんな言い換えを真顔で言われたら、読んでるほうはどうすりゃいいんですかい。もうあとは、宇宙は深遠なる網の目で人々が共感して地球とエコロジーでやさしい新しい意識が云々の、だらしないオカルト妄想垂れ流しオンパレード。宗教側であれこれ言う人も、科学側で論陣張る人も、こんな小手先の話でだまされるほどバカじゃないと思う。こういう話なら、瀬名秀明「ブレインバレー」のほうがまだきちんと考えられていた。カウフマン、何やってんだー。

善意の滅私奉公&全体主義賞賛, 2004/8/8

公益とは何か

公益とは何か

この人は、公益を追求するのが自分の利益を追求することとは相反するものなのだ、という前提を(何の根拠もなく)設定して、そこから話を進めます。公益のための活動とは、自分を殺して社会に奉仕・貢献するのだ、という考え方です。そして、発展や成長に対して、調和と公平を重視するのが公益、なんだそうです。

調和とか公平というとよさげに聞こえますが、この議論は要するに、滅私奉公です。成長しなくてもいいから公平、というのはかつての社会主義ですね。でもそれについては何ら考察なし。そして20世紀はなんだかんだいいつつ、すさまじい経済成長が実現されたおかげで多くの人が貧困から抜け出して自己実現とかいう贅沢な悩みにひたれるだけの余裕ができたんだ、ということを、著者は考えもしません。著者が善意に満ちた人なのは、読んでいて痛いほどわかるのですが、了見の狭さと知識不足はいかんともしがたく、まったく読むにあたいしません。そして話の落としどころは結局 NPO はとにかくすばらしいから支援しろ、というだけ。

映画をそっくりそのまま写真集にした希有な例, 2004/7/31

La Jetée: ciné-roman

La Jetée: ciné-roman

映画「ラ・ジュテ」(「12モンキーズ」の元ネタ)をそのまま写真集にした一冊。 あの映画を見た人ならわかる通り、映画がそのまま本になった希有な一例。もっとも クリス・マルケルの映画はもともと小説に近いので、この手の処理 になじみやすいというのもある。「サン・ソレイユ」でこれをやってほしい。

比較文学なんてスピヴァックが思ってるはるか以前に死んでるのに。, 2004/6/20

ある学問の死 惑星的思考と新しい比較文学

ある学問の死 惑星的思考と新しい比較文学

文学という制度自体が西欧文化の産物で、比較文学というのは学問としていわばグローバリズムの進行の手先(または寄生虫)的存在だったという認識を下に、今後はそういう形での比較文学が死んで、ポストコロニアリズムだのジェンダーだのみたいな話をすることで社会問題とからんだ形での、地域を結ぶような比較文学ができるといいな、という話。

しょせん小説なんて、社会的に何の役も果たせないんですけど。社会問題にコミットしたいなら、社会問題にコミットすればいい。でも比較文学なんてものがなんでそれに奉仕する必要があるのか、あるいはそれがそもそも有効なのか? 文学という制度自体、特に先進国ではジリ貧だ。文学というのは(村上龍も言ってるけど)資本主義のあるステージにおいてしか意味がないものじゃないんだろうか。その中で、自分の学問の存在意義がゆらいできて焦っているのはわかるけど、それですでに解決のついてる社会問題に色目を使うのは卑しいだけ。つまらに本です。

整理としてはまあまあだけれど、根本のところが……, 2004/6/13

心脳問題―「脳の世紀」を生き抜く

心脳問題―「脳の世紀」を生き抜く

「心脳問題」というときの「心」ってなにを指しているの? 本書はそれに対して、おばあちゃんが死んで悲しい、という話をして、実際にぼくたちが感じる悲しさと、それに伴う脳内の現象との落差、というのが心脳問題だというんだけれど、そこでの「悲しさ」って何? 特にそれがクスリで抑えられたりするとなると、そもそもの問題自体が変じゃない?

これまでは「心」というものをきちんと扱う方法がなかったから、なんかあいまいな話でお茶が濁せたけれど、脳科学が「心」のすべてを解明できるかはさておき、これまで不明確だったかなりの部分を明らかにするだろうことは自明だと思う。本書は要するに、それがすべてを解明できないかもしれないと騒ぎ立てるんだけなんだけど、それで?

そして最終的には、脳科学を通じた管理社会批判。結局はこれまでのラッダイト科学批判とまったく同じ。気持ちのいいほうに、楽なほうに、と脳のめいじるままに動くと、生々しい生命とのふれあいを失うからみんなもんと苦労したり痛い思いをしよう、とかいうヨタ話。本当の苦労や痛い思いをしたことのない哲学者のアームチェア談義。脳科学、とかいう意匠をまとっているから目新しく思えるけれど、でもその意味で本書は、実は冒頭で批判されている、電車の中での化粧は脳のせいとかいう駄本の手口と寸分変わりない。いま出ている論点の整理としては、まあおもしろいけれど、それ以上のものじゃない。

感想文のつまらない言い換え。, 2004/4/17

空間 建築 身体

空間 建築 身体

 多くの建築評論と同じく、感想文をむずかしく言い直した以上のものにはなっていない。また論理性もほとんどない。p.297 には、「空間」への関心が薄れた時期とフランク・ロイド・ライトの建築への関心が薄れた時期があるという話が出ているんだけれど、その両者の関係みたいなものがまったく説明なしに、それが相互に傍証となるかのような変な書き方。他にも読んでて理屈のつながっていないところ多数。「身体感覚」「仮想境界面」等々の物言いも、目新しさがないし、思いつきの域を出ずに一般性を持たない。 コメント コメント | ブックマーク

時代錯誤、無用な煽りにピントはずれなコメントのよせ集め。, 2004/4/17

2003年10月に行われたシンポジウムの記録に、その参加者が雑文をつけたもの。経済危機だなんだとあおるんだが、たぶんシンポジウムの時点でもすでに為替介入を通じたお金の供給増とインフレ期待の上昇で、景気は回復しつつあったし、それ以前に「経済危機」という認識自体がそもそも誇大な煽りだろう。「この危機を前に経済学は新しいパラダイムを誕生させることができずに立ちつくしている」と神野は言うけど、調整インフレ論とかも出て、学問としてはきちんとした提言もしているのに。一部の市場万能論や構造改革論がうまく機能してないからって、経済の危機だの学問の危機だの言い立てるのは明らかに勇み足。そして神野がその危機を、どうでもいい引用まみれでやたらに大風呂敷であれこれ言うものだから、パネラーたちのコメントみたいなのが無意味なくらいせせこましいものにしか見えなくなっている。

 またそのパネラーのコメントもひどい。学問の危機、というレベルの話を、いまの日本の大学「改革」批判にすりかえる間宮の議論。「ジェンダーを無視してる」と言うだけの大沢の議論(それは一部の福祉政策論がまだ不十分だという話で、本書の問題意識とは関係ない)。こんな散漫で無内容な代物が創業90周年記念シンポ集だということは、むしろ経済危機よりは岩波書店の危機を象徴しているように思う。

ソニーの提灯本, 2004/4/17

ソニーな女たち

ソニーな女たち

ソニーに勤める(または辞めた)女にあれこれ聞いて、ソニーはこんなに働きやすいと宣伝してみせる本。通して読んでも、「それで?」という以上の感想なし。まとめた取材者も、インタビューされた側が話題によっては「企業秘密だから」としゃべってくれなかった、なんてことにいちいち感心して見せたりしている、頭痛のするような提灯ぶり。読む意味なし。

ちっとも入門じゃないんですけど。, 2004/4/2

仏教入門

仏教入門

いきなりマルクスが、ダーウィンが、日本の近代化が、といった話が延々と展開され、その後はインドの地理的なあれこれが延々続き、入門書を読むような人が知っているとは思えない難解な概念が何の説明もなく持ち出されて、この概念があっちに移ってどうしたこうした、とこまごました文献的・思想史的な系譜学が果てしなく展開される本。ある程度仏教の中身を知っている人なら我慢しても読むだろうけれど、とても入門書と呼べるようなものではない。

高度な内容をコンパクトにはまとめていて、その点は評価できるけれど、その場合でも最初の二章はとばして三章から読み始めることをお勧めする。やっとここらへんから、仏教で教えられている中身の話になってくる。多くの読者は、そこにたどりつく以前に挫折すると思う。

2003年後半の最ヘビーローテーションCD, 2004/2/29

Ima

Ima

特に二枚目の、トリ・エイモスの没トラックを使って作った冒頭の2曲は, 声があちこちに立ち上って一面取り巻かれるようですばらしく気持ちがよいのです。