【ソウル=山田健一】韓国の憲法裁判所は10日、国会が昨年12月に可決した朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾訴追を妥当と認定し、大統領は即時失職した。大統領の罷免は同国の憲政史上初めて。これを受けて5月までに大統領選を実施し、新大統領を決める。当面は黄教安(ファン・ギョアン)首相が大統領代行を続けるが、韓国は外交や安全保障などで課題が山積しており、政情混迷が一段と深まりそうだ。
憲法裁は本来、9人の憲法裁判官で構成されるが、1月31日に所長が任期満了で退任したため、今回は8人で審理。賛成した裁判官が弾劾認定に必要な6人を上回った。
韓国の憲法は大統領が弾劾で罷免された場合、60日以内に大統領選を実施すると定めている。直近の世論調査では、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)前代表が、次期大統領を巡る支持率で他の候補を大きくリードしている。
憲法裁は1月3日から2月末にかけて17回にわたる弁論を実施。弾劾訴追を巡る争点を(1)国民主権主義・法治主義違反(2)職権乱用(3)言論の自由の侵害(4)生命権保護義務違反(5)贈収賄など刑事法違反――の5点に整理した上で審理を重ねてきた。
朴氏は1970年代の高度経済成長をけん引した朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領の娘。父親と同じく経済成長を公約に掲げ、腐敗が相次いだ歴代政権とは違う清廉なイメージを売りにして、2013年に初の女性大統領に就いた。
だが昨年10月に友人の崔順実(チェ・スンシル)被告による国政介入を招いた疑惑が発覚。民間人に国家機密を含む大統領演説の草稿を渡したことなどが明るみに出て、朴氏の支持率は歴代最低の4%まで急落した。国会から弾劾訴追され、昨年12月9日から職務権限が停止されていた。
約3カ月にわたった大統領の職務停止中、韓国が抱える懸案は一段と複雑になった。安保分野では北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返し、武力挑発の姿勢を強めている。
同盟・関係国との連携が欠かせないなか、日本とは従軍慰安婦を象徴する少女像の問題で関係が再び悪化。在韓米軍のミサイル迎撃システム配備を巡り、中国とも関係が急速に冷え込んだ。トランプ米大統領との首脳会談も実現していない。
国内では朴氏を支持する保守系団体関係者が、弾劾妥当の判断を下した判事の威嚇を予告している。国政混乱の解消とともに、国民の分裂回避も今後の課題になる。