したがって、学術的な心理学・精神医学にはアダルト・チルドレンという言葉は存在せず、明確な定義が確立されていないこともあって、その意味は徐々に変遷を遂げ現在に至っている。私自身もアダルドチルドレン関係の本での知識しかなく、それ以上の説明はできない。
ただ、Adult Child といった用語は臨床心理学の交流分析でつかわれており、アダルトチルドレンやインナーチャイルドといった用語はそこから発想を得ているかもしれない。
エリック・バーンの提唱した「交流分析」において、自我状態の分析方法として『構造分析(エゴグラム)』が扱われる。「自分の中に住む5人の私」としてP(Parent)親の自我状態、A(Adult)大人の自我状態、C(Child)子どもの自我状態・・・を基準にCP(Critical Parent)、NP(Nurturing Parent)、A、FC(Free Child)、AC(Adapted Child)の5種類の自分に分ける。
50ほどの質問に答えることによって、自分にはどの部分が多く、どの部分が少ないかといった自我状態を知ることができるわけである。
ちなみにエゴグラムでいうAC(Adapted Child)は、「自分の気持ちを抑え、人に合わせる私(大意) 」と定義されている。
一方アダルト・チルドレンの方のACは、現在「機能不全家族で育ち、心にトラウマ(心的外傷)を抱える人」という解釈がなされているようだ。ただし、トラウマといっても線引き可能な基準がなく、解説書によっても微妙に異なり、単なる性格傾向から精神障害までの広範囲にわたり、その原因帰属として言及されている。
もちろん学術用語でなくとも、しっかりと定義されていればよいのだが、どちらかというとアダルト・チルドレン(以下AC)という言葉だけが一人歩きし、その意味するところの領域を過剰に広げてきてしまっているような気がする。つまり恣意的な拡大解釈も可能ということだ。
ACの認定については、当然精神科医から診断されることはなく、主観的な自己診断にまかされるというのが現状である。
すなわち、「私はアダルト・チルドレン」と本人が判断すればACなのである。
しかし「私はACである」という認識は、心の状態を指すというより、本人の全人格を包括するイメージとなりやすく、何ごとに関しても深く内省することなく安易に「私はACだから」と関連づけてしまう傾向が生じる可能性もあるように思う。
もちろんACを上手に扱い、トラウマを解消して心の回復に役立った事例も多いことは認識している。ACの中で扱っている、トラウマを抱える人たちの子ども時代を分析した「自ら担う役割説」はひじょうに説得力を持っている。
ACのなかでとくに感情を抑圧し自身を責めるタイプの方にとっては、それがどこからきているものかを示唆し、自己を再認識できることで心の傷の大きな癒しとなると思う。
しかし場合によっては、親に対する恨みや被害者意識を増幅させるだけに留まり、過去に囚われたまま問題解決から遠ざかる結果となってしまった事例も少なからず知っている。
というわけで、私自身はACという言葉は使用しない。
というより、基本的にカウンセリングの場合「あなたは○○ですね」という診断はできないし、必要ない。そもそもカウンセリングの現場では、心理学や精神医学、その周辺の専門用語を持ち出しても、特別な場合を除きクライエントにとっての問題解決にほとんど意味をなさないのだ。
生育歴の中で傷ついてきた心を癒す方法として、自身の心の内に在る「インナーチャイルド(内なる子ども:子ども時代の記憶 や心情、感傷)」の概念をつかう心理療法を用いることが多い。
インナーチャイルドの癒しについては「インナーチャイルドの解放」の最後「インナーチャイルド・セラピーの瞑想」でセラピー方法の一例を紹介した。
ところで「インナーチャイルドの解放」では、子ども時代にうけたトラウマの要因として「機能不全家族」について書いている。この「機能不全家族」という言葉、ACの説明として必ず抱き合わせで出てくる用語でもある。
しばしば「AC=機能不全家族で育った人」といった乱暴な使われ方もしているが、生育環境は心の病の要因の一部とはなり得ても、ケースバイケース、一括りにすべての人に同様の影響を及ぼすものではない。機能不全家族で育っても、支障なく社会生活を送っている人々も数多く存在する。
「機能不全家族」というこの言葉も、実は精神医学用語ではない。しかし、この用語は精神科医も用いるように、ある一定の定義を有しており、クライエントの生育環境の背景や傾向性を把握する上で役に立つ。しかしこの概念も、過剰な実体化は問題であると思う。
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