電子デバイス、トランジスタ、集積回路
電子デバイスというと、電子の働きを応用し、増幅など能動的な仕事をする素子の総称。トランジスタ・電子管など。また、 IC のように抵抗器・コンデンサーなど受動素子を含んでいる素子についても、全体の働きからこのなかに含めることがある。
この中でも20世紀の偉大な発明の一つといってよいのがトランジスタ。トランジスタがIC(集積回路)を生み、集積回路がコンピューターを生んだからだ。その発明者の一人がウイリアム・ショックレー。1956年のノーベル物理学賞を受賞者だ。
トランジスタの働きといえば、たとえば、ラジオ。空中を伝わってきた極めて微弱な信号の強弱を拡大(増幅)して、スピーカーを鳴らす。こんな働きをするのがトランジスタの増幅作用である。入力信号の波形を変えずに、その電圧や電流の大きさのみを拡大しているわけだ。
トランジスタは、主に信号増幅用の素子として使われ始めたが、時間が経つにつれてスイッチとしての機能にも着目されるようになった。実は、増幅作用を最も単純化したものがスイッチとしての働き。増幅する前の信号を「流れている」と「流れていない」という 2つの状態に限定すれば、それによって増幅される信号も「流れている」と「流れていない」という 2つの状態のみとなる。
つまり、増幅前の信号がスイッチのボタンとなり、このボタンに連動して増幅後の信号を流したり、止めたりすることができる。このようにして動作するスイッチは、金属と金属が触れ合う機械的なスイッチと異なり、非常に高速に、しかも半永久的に動作する。
マイクロプロセッサーは、トランジスターを超小型のスイッチとして利用している。マイクロプロセッサとは、主にコンピュータの演算機能を担う半導体チップのことである。マイクロプロセッサー内部のトランジスターは、最先端の半導体製造技術によって 1つの半導体チップ上に作り込まれた非常に小さな素子。一般に、1つの半導体チップ上にトランジスターなどの電子素子を多数作り込んだものを「集積回路」と呼んでいる。
集積回路は、インテルの創始者の一人としても知られるロバート・ノイスとテキサス・インスツルメンツ社のジャック・キルビーによってそれぞれ発明された。その後、急速に進化を遂げていく集積回路の数々は、2人が持つ基本特許に基づいて製造されている。半導体チップに集積されるトランジスターの数は、インテルの元社長だったゴードン・ムーアが 1965年に提唱した「ムーアの法則」に従い、ほぼ一定の割合で着実に増え続けている。こうした継続的な進化の結果、最新のマイクロプロセッサーには、実に 10億個を軽く超える膨大な数のトランジスターが集積されている。
電流オン/オフ制御が可能なDNAスイッチを開発
アリゾナ州立大学の研究チームは、電流のオン/オフ切り替えが可能なDNAスイッチを開発した。DNAを利用したバイオエレクトロニクスの実用化に寄与する成果として注目される。研究論文は、科学誌「Nature Communications」に掲載された。
バイオエレクトロニクスとは、バイオテクノロジーとエレクトロニクスを組合せた用語。生物あるいは生体物質がもつすぐれた機能、たとえば脳における情報処理・神経伝達機能、DNA (デオキシリボ核酸 ) の記録機能、エネルギー変換機能、生体膜の情報伝達機能、酵素の触媒機能、抗体の抗原認識機能などを有効に利用して電子工学の新分野を開こうとする研究領域。
今回、発明されたDNAのスイッチ機能を、DNAトランジスタとして組み合わせていけば、生体集積回路も夢ではない。そして、生体コンピューターもできるかもしれない。
DNAの二重らせん構造にはπ-電子スタッキングが存在しており、電子はこのスタッキング系を飛び移りながら長距離移動できることがわかっている。この性質を利用すれば、DNAをナノサイズの電線として使うことができると考えられる。また、最近では、DNAを材料として任意の三次元ナノ構造を形成する研究も進んでおり、これらの技術を組み合わせることで、より複雑なDNAデバイスが実現できると期待されている。
DNAを化学修飾することで電子デバイスに
DNAデバイスを実用化するためには、DNAに電流を流すだけでなく電流のオン/オフ切り替えを制御することも必要になるが、これについては今まで実証されていなかった。今回の研究では、化学修飾したDNAを用いて、DNA中での電気伝導度の切り替え(電荷移動のスイッチング)に初めて成功した。
研究チームは、DNA塩基の一部をアントラキノンに置換した。炭素の三環構造を持つアントラキノンは、酸化還元作用のあるレドックス基の一種であり、DNA対のあいだに挿入することができる。実験では、DNA分子に電気化学的なゲート電圧をかけ、アントラキノンの酸化状態と還元状態を切り替えた。
走査トンネル顕微鏡(STM)探針と基板のあいだをDNAでつなぎ、STM探針(ソース電極)から基板(ドレイン電極)に向けて、DNA中を電流が流れるようにした。この状態で、DNAが入った溶液中に銀電極を挿入し、銀電極が電気化学的なゲート電極として作用するようにした。
ゲート電圧をかけることで、アントラキノンの酸化還元状態が切り替えることができる。酸化とはアントラキノンから電子が放出される状態、還元とはアントラキノンが電子を受け取る状態を意味する。この状態変化に対応して、DNAの電気伝導度が高レベル/低レベルの2つの値のあいだで可逆的に切り替わることを、走査トンネル顕微鏡を用いた測定によって実証した。
今回の研究は、単分子レベルでの酸化還元反応や熱力学的現象を調べるためのツールとして化学修飾DNAが利用できることを示した点でも意義がある。研究チームは、DNAナノデバイスの実現をめざして、さらなる研究を続けるとしている。
参考 マイナビニュース: 電流オン/オフ可能なDNAスイッチを開発
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