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2017/2/24

呼称訓練用Pepperアプリ「ActVoice for Pepper」を提供する株式会社ロボキュアに行ってきた!

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今回は、失語症のリハビリ支援を目的とした呼称訓練用Pepperアプリ「ActVoice for Pepper」を提供する株式会社ロボキュアにお邪魔し、代表取締役の森本さんと取締役の石畑さんにお話をお聞きしました。

失語症の方を対象とした言語訓練のアプリ


[深澤] はじめまして、よろしくお願いします。さっそくですが、「ActVoice for Pepper」とはどのようなものですか?

[森本] はい。我々が提供している「ActVoice for Pepper」は、失語症の方を対象とした言語訓練のアプリです。失語症とは言語障害の一つで、簡単に言うと話したり聞いたり読んだりすることが困難になります。リハビリ方法も色々あるのですが、その中でも私たちの領域は「呼称訓練」で、「話せない」という状態を少しでも回復するための訓練です。





呼称訓練とは物の名前を言う訓練で、患者さんは絵カードを見てその絵がなんなのかを答えます。私たちはこれをPepperでやっているわけですね。

[深澤] うんうん。

[森本] Pepperは、日々のリハビリ記録を取得します。そのリハビリの記録を、言語聴覚士さんは、弊社が提供しているパソコン用ツールの「リハログ」を使用することで、訓練状況の確認や分析、追加訓練の設定などを患者さんごとに行うことができます。





[深澤] なるほど、呼称訓練ですか。その「ActVoice for Pepper」を開発されたのはいつからですか?

[石畑] 実は私は、その昔に失語症を患ったことがあります。その経験をもとにし、創業前からタブレット型のツールを開発し、それをベースとしてPepperに適用させました。創業から2年間、なんどもなんども改善しながら今日に至ります。また、初期の段階から千葉県の君津中央病院さんと千葉大学さんに共同研究や実証実験へご協力いただいております。

[森本] しかし、この期間それなりに勉強してみてわかったことは、私たちのやっている「呼称訓練」という領域は、リハビリの中のほんの一部で小さいところなんだと身に沁みました。

[深澤] と言いますと?

[森本] リハビリと一口にいっても、まず、からだ全体に関するリハビリがあって、その中に脳のリハビリがあって、またその中には言語の問題があって、その中のさらに一つの訓練だけを私たちはやっているにすぎない。

この2年間で自分たちのいる位置がよくわかりました。そして同時に道のりの険しさを痛感しました。今では、私たちのやっていくことが、小さくても1つの領域として形になれればいいなと思っています(笑)

[深澤] そんなにですか(笑) しかし、石畑さんがきっかけとして始まったこととは別に、ビジネスとして「呼称訓練」の領域を選ばれたのはなぜですか? さらに言えば、インターフェイスとしてPepperを選んだ理由も聞かせてください。

[森本] 「呼称訓練」を選んだ理由は3つあります。1つ目は、言語訓練の中で広く行われている訓練だったことです。2つ目が、正解・不正解の判定が明確であること。最後の3つ目が、訓練効果の有無がすぐに現れやすい訓練だったいう理由からです。



胸にあるタブレットを使用して訓練を進めます


また、Pepperを選んだ理由ですが、呼称訓練を行うにあたって、絵を表示することと音声認識(正誤判定)ができること。そして、訓練データ(音声)を記録しやすく、動きや喋りによって感情や気づかいを表現できること。また、高額なものではなく、一般企業でも購入可能な金額であることが大事でした。

Pepperは、優れた音声認識を持っている点は特に大きいですね。

[深澤] なるほど。たしかに、Pepperには多彩なセンサーがあり、そして感情の認識、Pepper自身も感情を持っています。一般企業でも買える金額なので、今も多くの企業が導入されていますよね。

「やさしい」を考える


[森本] 創業時に「これで進むぞ!」と決意できたことがありました。それは石畑を支援してくださった言語聴覚士の先生の一言でした。その方は、50代で実力もあって素晴らしい先生です。その先生に「Pepperを使って言語訓練をやろうと思っていますが、先生はどう思いますか?」と聞きにいったら、先生は「たぶん、この子は私よりやさしい」とおっしゃいました。

[深澤] 「やさしい」? どのような意味ですか?

[森本] 失語症の方は、話せないことにとても苦しい思いをしていると感じています。呼称訓練で、1回言えたからと「良かった良かった!」とその時なっても、またその後に違う言葉を挟んでから再び質問すると、さっき言えたことが言えなかったりすることもあるそうです。

そうすると言語聴覚士の先生でもがっかりしてしまうことがあるようです。さっきは言えたのにと。言語聴覚士の先生も同じ人間なので、疲れることもあれば機嫌の上下もあります。そういう気持ちになる自分が嫌になることもあると聞きました。

それに、患者さんは60歳とか70歳の高齢の方が多かったりするのですが、対して言語聴覚士の先生は20-30代と若い方もいる。自分の子供かそれよりも年齢が若い人から訓練の指導を受けると、場合によっては、「なんだ、生意気だ」と感じてしまうこともあるようです。

そのような点から考えると、Pepperは機嫌が悪くなることはないし疲れない。生意気に感じてしまっても、「どうせロボットだもん」と許してくれる。だから先生は、「私よりもやさしい」と。それを聞いたとき、「絶対にやろう」と決意しました。

[深澤] 「やさしい」に含まれている意味が深いですね。

[森本] それから私たちは「やさしい」とはどういうことかをよくよく考えます。私たちはいつも朝議論していて、その中の重要なテーマが「やさしさ」なんです。「やさしいってなんだろうね?」「この状況でのやさしさって?」など、「やさしい」について、とことん考えるのですが、

そもそも、普段から自分の家族や友達などに対して、自分は本当に優しいのかと考えることなんてほとんどありません。しかし、今のこの仕事ではPepperの動作や会話を見たり聞いたりするなかで、「やさしさが足りないかな…」などといつも試行錯誤しています。

「やさしい」って通常ではあまり考えないテーマですので、こういうことをみんなで考えていること自体がとてもおもしろいんですよ。

[深澤] 「やさしい」を考えるですか。私も今まで考えたこともないですね。では、Pepperが「やさしさ」を出せるために、どのようなことを大事にされてますか?

大事なことはシーン作り


[森本] Pepperが話すセリフはすごく気をつけています。現状で完成したとはまったく思っていません。開発当初は、リハビリの治療などについても実際にどのようにやっているか詳しくはわかりませんでした。失語症の方はすごく苦しいはずだから、そういう方の前でロボットがおちゃらけてはいけないと思っていました。

ですから、おちゃらけてる感じがでないように、Pepperの雰囲気をゆっくりにし、真面目さがでるように声のトーンを落ち着かせて作りました。

しかしリハビリの現場へPepperを持ち運ぶと、実際、患者さんはPepperと遊ぶことが多かったんです。Pepperに入っている簡単な遊びのアプリやグイグイくるおしゃべりなPepperと、とても楽しそうな時間を過ごしていました。

問題はその後でした。そのような楽しい時間の後に私たちのアプリを起動すると、Pepperの声質が変わり、急に真面目なトーンで話し始めるから患者さんたちは、「急にどうしたんだよ、その暗さは。…大丈夫か?」と、むしろそのギャップにひかれてしまいました(笑) これではダメだと気付き、いつものテンションのPepperでゆくことに決めました。



いつものテンションのPepper


[深澤] Pepperの親しみやすさがなくなってしまったのですね(笑)

[森本] はい(笑) というのも、最初は言語聴覚士の先生のセリフを参考にしてたんです。たとえば、「よくできましたね!」というセリフを作ったんですが、よくよく考えてみると、「こいつ偉そうだな」と思ってきた(笑)

[深澤] たしかに(笑)

[森本] 先生が言うセリフと、この容姿のPepperが言うセリフを同じにしてはいけないことに気づきました。それからは、患者さんとPepperの間に、どんな空気が作られているかをすごく観察するようになりましたね。この人たちは、今どういう気持ちなのかなと。これは私にとってとてもおもしろい気づきでしたね。

[深澤] 空気ですか。人間はコミュニケーションを図るとき、二人の間にある微妙な空気を読みますよね。でも、対ロボットだとむずかしそうですね。

[森本] ですので、一番大事なのはシーン作りだと考えています。「Pepperがいるからこれをやろう」という考え方ではなく、Pepperとその人の間に、どんなシーンがその時できているのか。

たとえば、夜のお店で女性とお酒を飲むときと、喫茶店で怖いおじさんとコーヒーを飲んでいるときがあるとします。どちらも座って一対一で話をしていますが、それぞれシーンが異なり気持ちも違いますよね。これと同じように、Pepperと二人でいるときはどんなシーンでその時どんな気持ちなのか。私たちはこういうことをよく考えています。

言い間違いを指摘することが重要


[深澤] シーン作りいいですね、楽しそうです! 他に開発で工夫された点などはありますか?

[森本] 失語症の方が呼称訓練で間違いやすいパターンをあらかじめ認識させています。

[深澤] 具体的にはどのような感じでしょうか?

[森本] たとえば、患者さんが絵カードを見て回答を間違えてしまった場合に、ただ単に「不正解です」ではなく、Pepperが「僕には〇〇と聞こえました」と、Pepperがどのように聞こえたかを答えるようにしています。というのも、失語症の方は自分が言い間違えていることに気づいていないことが多いんですね。

私たちにも同じようなことがあります。たとえば、「ソファ」と言いたかったところを、なぜだか「クッション」と言い続けていたとか、でも、そのとき自分で「クッション」と言ってることに気づいていない。

[深澤] よくありますよね。

[森本] 言い間違いって指摘してあげることがとても大事なんです。これについては言語聴覚士の先生方はとても驚かれていました。もちろん良い意味で。そこが患者さんにとっても私たちのサービスにとっても、とても価値になっている部分だと感じています。

[深澤] その指摘は「やさしい」を感じますね。

ちょうどいい存在のロボット


[森本] Pepperによるリハビリの観察でわかったロボットの優れているところは、「繰り返しの訓練に強い」「患者さんが気をつかわなくてよい」「意外とロボットはやさしい」といったところでしょうか。特に、物量をカバーするという課題に対してロボットは非常に合っていますね。

また、「患者さんが気をつかわなくてよい」という部分は重要で、呼称訓練を言語聴覚士の先生とではなく家族と一緒にやっていたとしても、「毎回、訓練に付き合ってもらって申し訳ない」という気持ちが患者さんにはあります。しかし、だからといって、一人で紙を使って練習するなどそのような無機質な環境では訓練が持続しない。つまり、ロボットはその間のちょうどいいところに存在することができるんです。

もちろん、ロボットは良い部分ばかりではありません。悪い部分もあって、正解なのに不正解と判断されてしまう場合やタイミングが合わなかったり、すごい頑張っているのに「頑張って!」と言われてしまうこともあります。そういった悪い部分については、観察を続けて一つずつ改善していくしかないと今はそう考えています。

人の仕事は無くならない


[深澤] ロボットが、人と人の間に存在することでみんなが良い関係でいられるということですね。しかし、ロボットの存在が大きくなるにつれ、逆に導入する病院や施設の言語聴覚士の方から反発などはありませんか? 仕事が奪われてしまうみたいな。

[森本] 半分冗談で半分は危機感として「これがあれば言語聴覚士はいらなくなってしまうね」と先生から言われることもあります。先生方からすると、「言い間違いは指摘してくれるし、繰り返し訓練もできる。さらに機嫌も悪くならないとなれば敵わないね」と。しかし、私たちはそれは絶対にないことをわかっています。

[深澤] それは?

[森本] まず、私たちのやっている呼称訓練はあくまでもリハビリ全体のほんの一部なんですね。ロボットができる範囲は限られていて、実際は人じゃなければできないことがほとんどなんです。

[深澤] うんうん。

[森本] 言語聴覚士の先生は、はじめにその患者さんが今どういう状態なのかをじっくり診て解明します。この患者さんは言葉を出すことができないのか、それとも言葉を思い出すことができないのか。ここが言語聴覚士の先生にしかできない一番難しい仕事だと私たちは思っています。

もし言語聴覚士の先生の判断がなく、言葉を思い出すことができないのだとしたら、私たちのアプリで行うリハビリは患者さんにとって拷問になってしまいます。

[深澤] たしかにそうですね。

[森本] まずはやはり先生方のしっかりと仮説を立てるというところに技術があって、それがあった上で、私たちのツールを使っていただき、そして、その結果良くなるのか悪くなるのかをちゃんと観察していただく。まだまだ私たちのできることは少なく、むしろ言語聴覚士の仕事は、より多様になり、重要性が増してい仕事になると思っています。



左が森本さん、右が石畑さん。 ロボキュア(RoboCure)は、「ロボット(Robot)」と「癒す(Cure)」からできた名前


[深澤] なるほど。しかし一方で患者さんはリハビリをしたくても、国の方針で治療のために病院に長居することができないですよね。リハビリする場所がない。これも困った問題です。

[森本] その問題には「リハログ」が役立ちます。ネットを介して訓練状況を管理することができるので、自宅で好きなときにリハビリができて、病院へ行くのはたまにでよくなる。つまり在宅リハビリです。そういうことが近い将来できるようになります。

そのために言語訓練を遠隔でどのようにやるかを、君津中央病院さんや千葉大学さんなどとの協力関係のもと進めているところです。これからも私たちのやることは盛りだくさんで、やれることはいっぱいあると思っています。

[深澤] それはとても心強いです! 本日はありがとうございました。


株式会社ロボキュア Webサイト:http://robocure.jp/