【ソウル聯合ニュース】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏の殺害事件を受けて関係が悪化の一途をたどっていた北朝鮮とマレーシアが、とうとう相手国民を相互に出国禁止とするに至り、両国の断交が現実味を増している。
引き金を引いたのは今回も北朝鮮だった。北朝鮮にいるマレーシア人の出国を一時禁じると7日発表し、大使館職員や家族ら11人のマレーシア人を事実上の「人質」とした。マレーシア警察の捜査結果に不満を抱き、極端な手段に出てマレーシアを脅そうとしているようだ。
マレーシア政府は同じ日、国内にいる全ての北朝鮮人の出国を禁じる対抗措置を取った。マレーシアには現在、北朝鮮大使館職員28人と北朝鮮人約1000人が在留しているとされる。
先月13日にクアラルンプール国際空港で起きた正男氏殺害事件は、マレーシア警察の捜査開始からほどなくして北朝鮮の仕業だったことが明らかになった。北朝鮮大使館の職員が、前もって潜入していた北朝鮮工作員と組んで外国人の女2人を取り込み、正男氏を襲わせた犯行だった。
旅行客でごった返すマレーシア首都の国際空港で、VXという猛毒の神経剤で攻撃した反人倫的な犯行手法は、国際社会の怒りを買った。北朝鮮の無分別で残忍な行為に当事国のマレーシア当局がどれほどの衝撃を受けたか、十分に察することができる。
にもかかわらず、北朝鮮は筋の通らない主張で犯行を全面的に否認している。正男氏の存在そのものも認めず、正男氏ではなく北朝鮮の旅券を持った「キム・チョル」が「心臓発作」で死亡したと言い張っている。自国で起きた重大犯罪への捜査権を行使するマレーシア当局に、しきりに正男氏の遺体引き渡しを要求する厚かましさも見せた。
外交慣例どころか一般人の常識とも相容れない北朝鮮のこうした横紙破りは、今に始まったことではない。2009年にも、体制を批判したとの理由で韓国・現代峨山の社員を136日にわたり北朝鮮にある開城工業団地に拘束した。言ってしまえば、何でもやるのが北朝鮮だ。だが今回は、やりすぎだとの思いをぬぐえない。
マレーシアは、北朝鮮にとってかなり重要な国だ。事件に絡みマレーシアが破棄したものの、両国は査証(ビザ)免除協定を結んでいた。そのおかげで、北朝鮮はマレーシアを東南アジア外交と外貨稼ぎの拠点として活用できていた。実際、マレーシアに滞在する北朝鮮人はほとんどが外貨稼ぎのために派遣された労働者だという。
だが北朝鮮は今回、マレーシアを刺激して断交の危機を自ら招いた。マレーシアは10日に閣僚会議を開き、断交問題を議論すると伝えられる。国連の厳しい制裁により外貨不足にあえぐ北朝鮮にとって、非常に苦しい状況と言わざるを得ない。外交関係者の間では、両国が円満な妥結に至る可能性は低く、結局は断交に向かうとの見方が大半だ。
他国の国民を人質に取るという、国際外交史でも極めて異例の北朝鮮による今回の暴挙は、正男氏事件に続く新たな蛮行にほかならない。ただでさえ固着しつつある北朝鮮の国際的孤立が、最悪の段階まで深まりそうだ。