人類の歴史を語るものは、書き残されたものだけではない。遺伝子のなかにも存在する。遺伝子研究が進むに従い、遺伝子は、これまでの定説をくつがえす思いがけない文化の起源をおしえてくれたり、伝染病の大流行を生き延びるために必死で進化していたことがわかった。更には何万年もの間、変わらずに連綿と続いている遺伝子もある。
そんあ古代のDNAは謎を解いてくれるのと同時に、新たな謎をうむこともある。ここではそんなDNAに導かれた10の発見を見ていこう。
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10. アメリカ大陸の原住民と文明接触の悲劇「コロンブス交換」
image credit:Smithsonian Magazine
ヨーロッパ人がアメリカ大陸に到達したことによって、現地の人たちの間に伝染病が広まった。この初めての接触による悲劇は、コロンブス交換と呼ばれる。すべては、1492年にクリストファー・コロンブスが新世界にたどり着いたときに始まった。
それ以前にも、アメリカ大陸には結核などの病原体はあったが、ヨーロッパから船によって持ち込まれた天然痘、麻疹、黄熱病、流感などのように爆発的に広まるものではなかった。
理論的に考えると、外部の影響にさらされることなく、長いこと独自の社会を築いていたアメリカ先住民の免疫性が脆弱だったせいといえるかもしれない。2016年のカナダのツィムシアン族のDNA研究から、ついにその証拠が発見された。古代と現代のふたつのグループを比較すると、免疫に関係する遺伝子に大きな変化があったことがわかったのだ。
ヨーロッパ人と接触後、天然痘がツィムシアン族を分裂させた歴史的根拠がある。遺伝的多様性があまりないせいで、天然痘によって部族の57%が死んだのだ。
現在のツィムシアン族は、さまざまな先祖から多様な遺伝子を受け継いでいる。古代の部族は、その土地の病気に適応した特定の遺伝子配列をもっていた。彼らの子孫の遺伝子は、新たに入ってきた病気に負けずに生き残るために選択的進化を遂げた結果、生まれたものなのだ。
9. アイルランド人の起源
image credit: BBC
アイルランド人のルーツは、新石器時代のひとりの女性と青銅器時代の3人の男性の中に見つけることができた。この女性はバリナハティ・ウーマンと呼ばれていて、1855年にベルファスト近くの5200年前の墓から発見された。
彼女のゲノム配列は2015年に判明し、現在のスペインやサルディーニャ島の人たちと遺伝子的に似ていることが明らかになった。おもしろいことに、彼女の祖先は中東の出身だということもわかった。
青銅器時代、東ヨーロッパからやってきた人たちがアイルランドに定住した。3人の男性の先祖は、ウクライナやロシアに隣接するポントス草原の出身だ。4000年前の青銅器時代のグループが、現在のアイルランド、ウェールズ、スコットランドの人たちと遺伝的にもっとも近い。
アイルランド人には、特徴的な遺伝子傾向がある。乳製品の消化に適しているが、ヘモクロマトーシスという鉄分の過剰蓄積を起こしやすい。この障害は、前述の4人のうち女性と男性ひとりに見つかったが、それぞれ異なった遺伝子変異を起こしていた。
男性のほうは乳製品を消化できる遺伝子を持っていたが、女性にはなかったのだ。この4人のゲノムは誰も現代のアイルランド人のゲノムとは完全に一致せず、むしろケルト民族をつくった一部のグループとの類似を示していた。
8. コマ人の土器から発見された交易の痕跡
image credit:iflscience.
コマ人とは、かつて西アフリカ、現在のガーナのあたりに住んでいた人々のことだ。もし、彼らの特異な習慣がなければ、永遠に彼らの文化は考古学者に見過ごされてしまっていたかもしれない。
コマの人々は、奇妙な素焼きの人形を残している。この独創的な人形は人や動物を表わしているが、ときにはそれらが合体させたものもある。土塁のひとところにまとめてためこまれているのが見つかった。
研究者たちは、こうした人工物からDNAを抽出して、彼らの目的を探ろうと考えた。しかし、乾燥した環境で、熱い砂の中に何世紀もの間埋められていたものから採取したDNAは劣化が激しく、使い物にならなかった。
しかし、驚いたことに土器には、かつて中に入っていたものの遺伝的素材が残っていて、まだ分析に使うことができた。
もっとも驚いたことは、オオバコ、バナナ、松など、600〜1300年当時にはその土地にはなかったはずのものの残滓が見つかったのだ。この地方の芸術文化は、世界でもっとも熱い砂漠である西アフリカとサハラに広がる、安定した交易路をもっていたに違いない。
7. 東アジア大陸の不変のDNA
image credit: sciencemag
生きている人間のDNAが8000年もの間、ほとんど変わらないことはまれだ。古代社会では、頻繁に移住が行われ、世界のいたる場所で遺伝子が混ざりあったはずだ。ところが、東アジア大陸は例外だった。
1973年、極東ロシアにある悪魔の門の洞窟で人間の遺体が見つかり、石器時代の女性からDNAが検出された。新石器時代以降、遺伝子的介入がほとんどなかったおかげか、彼女の遺伝子は現代のある地域の民族とかなり一致していた。
これは、中国の少数民族オロチョン族やホジェン族のようなトゥングース語を話す人たちに当てはまる。現在でもトゥングース語を使っているのはウリチ族だ。
ロシアと中国と北朝鮮の国境付近に住んでいる彼らが、注目されるのにはふたつの理由がある。まず、彼らはごく最近まで古代狩猟採集民族の生活スタイルを維持してきた。次に、彼らはずっと遺伝子が変わらない同じ集団からの直接の子孫のようだ。基本的に新石器時代の狩猟民族と同じ集団で、悪魔の門の洞窟で見つかった女性もここに属していた。
6. 民族移動の歴史を塗り替えたモタ・マン
image credit:Los Angeles Times
モタ・マンは、民族移動の歴史全体を塗り替えたエチオピア人だ。およそ4500年前に死んだが、その遺伝子が彼についてのすべてを語ってくれる。
これまで、現生人類は7万年前にアフリカに別れを告げ、中東、ヨーロッパ、アジアへ広がり、中東やトルコの農民がアフリカの角と呼ばれる地域(エチオピア)に出戻ってきたと信じられてきた。
発見されたモタ洞窟からその名をつけられたこのエチオピア人は、古代アフリカ人の最初のゲノム配列を提供してくれた。モタの年代は、これまで考えられていた逆流入ユーラシア人よりも古いものだった。
知られているグループよりももっと以前に、アフリカに戻ってきた別のグループがいたのだ。しかし、モタ・マンは、アフリカ以外で発達した遺伝子はもっていなかった。肌や目の色が明るく、トルコや中東のユーラシア人のように乳製品を消化できない乳糖不耐性をもつ遺伝子のことだ。
モタの謎めいた先祖について掘り下げるうちに、研究者たちはある古代人とのおもしろい符合を発見した。それは7000年前のドイツのLBK族だ。モタのユーラシア人先祖がLBK族出身なら、ユーラシア人がアフリカに定住して広がったときの話は違ってくるだろう。
5. デンマーク最後のヴァイキング王の母親の謎
image credit:dnainthenews
ヴァイキングの謎は、最近ふたりの王族の歯髄を調べたことで解決された。デンマークの最後のヴァイキング王で1074年に亡くなったスヴェン(エストリドセン)2世だ。
ロスキレ大聖堂に彼と母親のエストリッドの墓があり、母親の遺体は、大聖堂の祭壇近くの柱のところに安置されているという。
スヴェン王の墓は疑いようもなかったが、柱のところに埋葬された女性が本当に王の母親なのか、疑問をもつ専門家もいた。
幸いなことに、母親とその子どもの血縁を示すそのものずばりな方法がある。子どもにミトコンドリアDNAを伝えるは女性のみなので、遺伝子配列が一致するかを調べればいい。
ところが、スヴェン王とエストリッドのミトコンドリアDNAは違っていた。彼女は王の母親でなかっただけでなく、とても若かった。エストリッドの享年は70歳と記録されているが、この女性は35歳くらいだった。
おもしろいことに、スヴェン王には義理の娘がふたりいて、両方ともエストリッドという名前で、しかもふたりとも女王になっている。彼女たちの年齢の若さや名前や王族の地位を考えると、どちらかがロスキレに埋葬された可能性はありえる。
4. ロンドンの多民族性を物語る発掘遺骨
image credit: BBC
現代のロンドンっ子たちの祖先は、2000年近く前にこの地に定住したようだ。大英博物館に所蔵されている4体の遺骨が、その起源や出現についてさまざまなことをおしえてくれた。
ほぼ完全に残っている骨は、通称"ラントストリートのティーンエイジャー"と呼ばれている。この14歳の少女のDNAは彼女が北アフリカで育ったことを示している。彼女のミトコンドリアDNAは、南東ヨーロッパからのもので、彼女はブルーの瞳をしていたが、骨格の特徴はサハラ砂漠以南の人々のものだ。
"マンセルストリート・マン"は45歳の男性で、黒い瞳と髪は母親が北アフリカ出身のDNAを持っていたことを示している。彼はロンドンで育ちで、意外なことに糖尿病による骨の疾患を患っていた。現代の白人西洋人男性の間ではよくある病気だ。
ある男性の骨は損傷が激しく、もしかしたら剣闘士だったのかもしれない。年齢は36〜45歳くらいで、肉体的にひどく暴力を受けた痕跡がある。どこかよそで生まれたが、東ヨーロッパや中東からのミトコンドリアDNAを受け継いでいた。
"ハーパーロード・ウーマン"(写真)は、もともとここに住んでいたブリトン人で、ローマ風のライフスタイルを享受したらしい。彼女の墓にはローマの遺物がたくさんおさめられていた。そして、彼女のDNAは驚くべきことを示していた。肉体的には女性だったが、遺伝子的には男性だったのだ。
3. ヨーロッパでおきた謎の民族大移動により遺伝子マーカーが消滅
image credit:Live Science
オーストラリアの研究者たちが、ある民族移動の謎を解こうとして、別の謎を見つけてしまった。
7500年前にトルコ出身の農民たちがヨーロッパに定住したのかどうかを確認するために、ドイツやイタリアから発掘された複数の骨を調べた。これら古代の骨は、7500年〜2500年前のさまざまな文化のものだった。
調査から、最初の汎ヨーロッパ人たちはトルコからやってきて、繁栄したことはわかった。だがそれから、およそ4500年前にその遺伝子マーカーがどいうわけか消滅してしまった。
消滅の理由がなんであれ、ゆっくりした変化ではなかった。当時、明らかになっていないなんらかの歴史的な出来事が起こって、突然大規模な民族移動が起こったようだ。あまりにも劇的な移動だったので、ヨーロッパの人口や遺伝系統までもが変わってしまった。
文化全体の遺伝子まで変えてしまうほどの大移動を引き起こした張本人たちは誰なのか、それほどの大人数で新たな野を目指した理由はなんなのか、誰にもわかっていない。イベリア半島にいたベル・ビーカー人がケルトの言語に痕跡を残しているため、彼らがその容疑者といえば容疑者と言えるかもしれない。
2. 権力をもっていたギリシャの女性たち
image credit: Andreas Trepte
かつて、古代ギリシャの女性たちは男性の所有物のように扱われていたと思われていた。しかし、新たなDNA研究によって、それは間違いである証拠が出てきた。
マンチェスター大学の研究者がギリシャ、ミュケナイの発掘現場に向かった。ヨーロッパで最初の都市国家に建てられた城砦の創設者について知るためだ。
ミュケナイの支配者の墓から、35体の遺骨が発掘されたが、DNAがちゃんと分析できたのは4体だけだった。ひとりは女性で、彼女はかなりの影響力をもつ立場にいたようだ。権力者の妻と考えられ、遺伝子配列が一致した4人のうちのひとりでもあり、その豪華な墓は、権勢を誇る夫の影響と思われた。
しかし、DNA検査と復顔から、彼らはきょうだいであることがわかった。その女性は王と同等の地位と影響力をもち、これは当時の女性が権力をもつ地位に就くことができたことを示していると専門家たちは考えている。
180度見方が変わるこの大転換を発見した考古学者たちは、初期の男ばかりの考古学者たちが、男性優位の偏見で古代社会を見た結果、こうした間違いが生じたのだと考えている。
1. 黒い髪・青い瞳のスペインの洞窟人の謎
image credit:The Guardian
2006年、北西スペインの洞窟の奥深くから2体の遺骨が見つかった。両方とも7000年以上前の中石器時代人の男性で、30代くらいのふたりの骨は良好な状態だったが、有効なDNAはひとりの臼歯からしか採取できなかった。
その結果は、進化に関するこれまでの定説がくつがえされてしまった。
ゲノム解析によって再現されたその男性の顔は驚くべきものだった。浅黒い肌、黒い髪なのに、瞳はブルーだったのだ。彼は現代ヨーロッパ人だと考えられていたため、もっと白い肌をしているはずで、これは珍しいことだ。
思いがけない目の色は、ブルーへの変異が肌の白さへの変異よりも前に起こったことを示している。これまでは、この変異の順番は逆だと思われていた。
彼は別の謎も解消した。のちに農民が誕生したとき、ほかの動物の病原体から身を守る必要が出てきて、免疫システムが急に発達したと研究者たちは考えていた。しかし、狩猟採集生活をしていた中石器時代人は、すでに身を守る術をもっていたのだ。
今日、遺伝子的に彼らにもっとも近い人種は、スウェーデン人やフィンランド人だ。
via:10 Remarkable Discoveries That Came From Ancient DNA/ translated konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
白虎よ、いい加減にせんか。
2. 匿名処理班
白い肌、金色の髪、みたいな、いわゆる「白色人種」の姿って、ネアンデルタール人由来のものなんだよね。
昔の化石を調べると、ネアンデルタールの血が今より濃かったりするんだろうか?
3. 匿名処理班
8番の画像は、どう見ても半魚どん
4. 匿名処理班
>10. アメリカ大陸の原住民と文明接触の悲劇「コロンブス交換」
>アメリカ先住民の免疫性が脆弱だったせいといえるかもしれない。
これよく言われる話だけど、白人がインディアンを民族浄化したって事実を覆い隠そうとしてるプロパガンダだって話もあるから、本当に正しいかどうかは統計とかのデータから慎重に考えんと「これが免疫力強化につながる遺伝子や!」って決定しても、実は全然関係ありませんでしたってオチにもつながりかねない。
5. 匿名処理班
※2
白い肌や金・赤色の髪、青・灰色の目がネアンデルタール人の色素の特徴であるけど、
これは日照環境の変化によって適応して残った物であって、そんなに関係ないと思うよ
ネアンデルタール人の特徴は、クロマニョン人に比べて低い身長、大きな頭蓋骨、とても強い力、短い手足、そこまで早く走れない体型と、寒冷地に適した姿だったんだよ。平原で走って狩りをしていたアフリカ居残り組現世人類はこれと大体反対の体つきだった
6. 匿名処理班
やばい…3日本だと万年前とか1万5千年前とかの旧石器時代の遺骨が見つかってるから、「4500年前とか結構最近じゃん?」とか感じてしまうけど、よく考えたらその時期のことでもハッキリしてないことまだまだいっぱいあるんだよね
7. 匿名処理班
コマ人の土偶が宇宙人の人形焼に見える件について。ちょっと美味しそう。
8. 匿名処理班
※6
何せ現代の遺体ですら「何で死んだのかすら解らない」とか「多分自殺」みたいなあやふやな事が出てくるからなあ
物言わぬものから過去を探るのは本当に難しいよね
9.
10.