フランスは、1789年のフランス革命以降、4人の国王と2人の皇帝がいた。共和制は第5次におよび、そして憲法は16あった。シャルル・ドゴールが1958年にスタートさせた第5共和制は異例の持久力を見せている。だが、フランスの有権者たちはいまや、フランスの運命を託された現在の政治体制は能力に欠け、腐敗し、利己主義で、国民の日常からかけ離れ、自らで体制を改革することは不可能だとみている。
こうした従来の政治体制に対する大きな拒絶反応が、4~6月にかけて行われる大統領選と議会選を、1958年以降で最も重要かつ予想不可能な選挙にしている。2016年の英国や米国がそうだったように、フランスも内向きなポピュリズム(大衆迎合主義)に屈してしまうかもしれないし、逆に、国家を再生させる機会を得られるかもしれない。世界におけるフランスの位置付けや欧州連合(EU)の生き残りは、この選挙結果にかかっているのかもしれない。
■既成政治体制の候補者が脱落
選挙戦が進むにつれ、既成の政治体制を代表する候補者たちは、道半ばで一人ずつ脱落している。そのなかには、再選を目指さない初の現職大統領となった社会党のオランド大統領や、中道右派・共和党のサルコジ前大統領、ジュペ元首相、バルス前首相も含まれている。
大統領選に生き残った候補者たちは、自分と既成政治家との違いを際立たせるため、自分たちは既成政治の支配層ではない、体制を変えるための代理者だとして演出している。左派からは、社会党(中道左派)史上最も急進的な候補者、アモン前国民教育相、そしてさらに急進的な左派のメランション氏。極右からは国民戦線のルペン党首。中道からはリベラル系の若い独立候補マクロン元経済産業デジタル相といった顔ぶれだ。
さらに、共和党の候補にはフィヨン元首相がいる。同氏は1981年に議会に選出され、サルコジ政権時代に首相を務めた。フィヨン氏は、フランス政府の官僚体制を改革し、経済を再び活性化させるという決意をもった新顔の候補、という役どころで共和党の指名を勝ち取った。そして、汚れた政治舞台においても、清い道徳規範を持った模範になると約束した。
だが、ここにきて、フィヨン氏の選挙運動が大きな混乱に陥っている。およそ100万ユーロもの公的資金が、勤務実態がないにもかかわらず、給与として家族へ不正に支給された疑惑が持ち上がったためだ。フィヨン氏は全ての不正疑惑を否定した。しかし、気持ちのこもらない謝罪に加え、論争に対して司法やメディア、政敵の態度を執拗に非難したことで、有権者の支持は大きく低下している。さらに、同氏の選挙チームの一部も離脱した。
共和党の幹部は、フィヨン氏に選挙戦から撤退するよう説得するのは難しすぎる、もしくは遅すぎると結論づけたようだ。だが、フィヨン氏が選挙戦への出馬に固執したことが、第5共和制の政治構造の欠陥を浮き彫りにし、既に変化の激しい大統領選の不確実性を高めている。フィヨン氏は世論調査で3位に後退した。大統領選は、マクロン氏とルペン氏の一騎打ちという様相を呈し始めた。
■予断許さぬ7週間
だが、たとえそうだとしても、結果が既に決まっているわけでもない。第1回投票が行われる4月23日までの7週間の間に、多くのことが起こり得る。フィヨン氏が返り咲くかもしれない。EU欧州議会での不正給与疑惑に関する捜査の手が伸びているルペン氏がつまずく可能性もある。政治家としては駆け出しで、公職に就いたことが一度もないマクロン氏は、ルペン氏との選挙戦での激しい戦いで勢いを失うかもしれない。
ルペン氏が勝利するとしたら、それはフランスにとって惨事となるだろう。そして、イタリアのレッタ元首相が語ったように、EUはほぼ間違いなく「試合終了」となるだろう。だが、もしマクロン氏が勝利するならば、自身が立ち上げた政治運動「前進」のように、6月の議会選で勝利できる十分な機運をもたらすかもしれない。ドゴール氏は1958年11月、その2カ月前に立ち上げた自身の党「新共和国連合」で、そんな偉業をなし遂げた。そしてその後は、分断された国家の治癒を目指した、社会や経済の立て直しという壮大な取り組みを続けた。今年の大統領選の後も、フランスには同様の力強い指導者が必要だ。
(2017年3月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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