トランプ米大統領と同氏のチームは選挙期間と就任後の最初の数週間を通して、貿易と経済の分野で、米国を大胆な新しい方向へと導くことを約束してきた。だが、トランプ政権が打ち出しているものは、次第に1980年代への回帰の様相を強めている。
米国経済を広大なラストベルト(さびついた工業地帯)とみるトランプ氏と側近らの後ろ向きなものの見方を、経済学者らは長らく批判してきた。
大統領はよく、レーガン元米大統領による日本との貿易戦争をほうふつさせるような形で、自動車や鉄鋼、製造業について語る。米アマゾン・ドット・コムや米アップルなどの21世紀のハイテク首位企業に言及することはめったにない。ピッツバーグやクリーブランドといったブルーカラーの鉄鋼の街が、大学と医療施設を中心に築かれたホワイトカラーのイノベーションセンターになった様子に触れることもあまりない。
■ナバロ氏の不吉なビジョン
トランプ政権の幹部らも、中国のことを、片や買収に意欲を燃やす80年代の日本株式会社、片や旧ソ連の侵略者のような戦略的脅威として描いている。トランプ政権の米国家通商会議(NTC)トップを務めるピーター・ナバロ氏は6日、経済会議で講演し、中国の海外投資の増加と、「我々が皆、外国人に所有される可能性が高い」世界について嘆いた。
ナバロ氏は中国批判と思える別の発言で、もっと不吉なビジョンを示してみせた。「覇権を取ることを決意した、急激に軍事化を進めるライバルが(略)我々の企業、我々の技術、我々の農地、我々の食糧サプライチェーン(供給網)を買い占め、究極的に我々の防衛産業の基盤の大部分を支配する」
「我々そして息子や娘たちにとって、この『購入による征服』という別の形の征服はどんな終わりを迎えるのか」。ナバロ氏は聴衆にこう問いかけた。「放たれた銃弾ではなく、鳴り響くレジの音によって、自分たちの自由、繁栄、民主主義をかけた大きな冷戦に負けるのだろうか。我々は単に、なかなか消えない貿易赤字の翼に乗せて製造業と防衛産業の基盤を海外へ送ってしまったために、大きな熱い戦争に負けるのだろうか」
そのような悲惨なシナリオを避けるためのナバロ氏の解決策は、輸出と米国内での投資を増やすことだ。その一方で、輸入を減らし、米国が70年代以降、諸外国に対して出している貿易赤字を減らす。そのような政策はより力強い成長につながると、同氏は話している。
さらに、80年代の論争の際に米国が駆使した手法を復活させたいという意向をトランプ政権は明白にしている。トランプ政権で米通商代表部(USTR)代表に就くロバート・ライトハイザー氏が日本と戦う通商当局者として経験を積んだ、まさにその時代だ。