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企業・経営
アベノミクスの犠牲になった「三越伊勢丹」の悲劇
百貨店の崩壊が示す、不気味なサイン

消費増税が致命傷に

三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋社長の辞任が話題になっている。今年6月下旬の株主総会を待たずに任期途中に辞任するというニュースが市場に流れると、同社株には狼狽売りを浴び、3月6日の終値は1363円と、前の日の終値1436円に比べて5%超の急落となった。

翌7日に三越伊勢丹は大西社長の4月1日付けでの退任を正式に発表。杉江俊彦取締役専務執行役員を後任に決めた。石塚邦雄会長も株主総会後に退任するとしており、体制を一新する。

引責理由とされている業績悪化は深刻だ。2017年3月期の連結純利益は会社予想で130億円と、前の期の実績(265億円)に比べて半減する。このタイミングで辞任を発表したことで、市場では、業績がさらに悪化するのではないか、という見方もささやかれる。

 

「伊勢丹」と「三越」という老舗ブランドを持つ「百貨店の雄」は、何を間違ったのか。

ひとつの分岐点が2014年4月の消費増税にあったことは間違いない。2013年から始まったアベノミクスの効果に加え、消費増税前の駆け込み需要もあり、2014年3月期の同社の連結売上高は1兆3215億円と前年比6.9%も増えた。

2012年に社長に就いた大西氏は日本全国の「本物」を発掘して国内外に発信するなど、「本物志向」「高級品志向」の品ぞろえに力を入れていた。アベノミクスの「脱デフレ」や「クール・ジャパン」は三越伊勢丹の路線を後押しする格好になったのだ。

ところが消費増税で国内消費のムードが変わる。増税をきっかけに国内消費者が財布のヒモを締めたのだ。短期間で増税の影響は収まるという期待は脆くも剥げた。そんな中で、「救い」になったのは中国人観光客の「爆買い」だった。円安で割安に買い物できる日本にやってきた中国人が、高級品を軒並み買い漁ったのである。銀座や日本橋の三越では中国語が飛び交い、高級ブランドショップには列ができた。

日本の消費者の足が百貨店から遠のいていく一方で、高級路線の三越伊勢丹は「爆買い」を取り込む路線へと知らず知らずのうちに向かっていったわけだ。中国人観光客の爆買いは円安によるマジックで、そう長続きはしないと当初から言われていた。国内消費の低迷が鮮明になる中で、爆買い依存度が高まっていたわけだ。