海外の教科書は、日本をどのように教えているか?
小泉総理大臣の靖国神社参拝問題については、中国や韓国から非難の声が相次いでいる。また、それと同じように、日本の教科書にある戦争の記述に対しても、非難の声が絶えない。さらに、つい最近起こった中国での反日デモを考えると、アジア諸国の対日観、というものに興味が湧いてくる。そこで今回はアジアの国を中心に、海外の教科書が日本、特に戦争時代の日本をどのように教えているか調べてみた。
日本では、第2次世界大戦というと「日本とアメリカの戦争」という見方が一般的ではないだろうか。しかし、日本はアメリカと戦う一方で、アジアの多くの国を侵略した。そうした、日本に侵略された国からすれば、第2次世界大戦とは日本が自分の国を侵略した戦争に他ならない。歴史の教科書でも、日本のそうした拡大政策が取り上げられている。
■韓国
(『國史』1990)
■インドネシア
日本は検閲を強化し、オランダ語と英語の使用を禁止し、インドネシア語を統一語として使用させた。しかし同時に日本語の普及にもつとめた。
やがて日本の軍政は、インドネシア人の民族精神への干渉にまで及んだ。日本の天皇をマハ・デワとしてあがめさせ、その居住する東京に向かって頭を下げることを強制した」。
(中学3年生用『インドネシア史』1974)
■マレーシア
(中学2年生用『歴史の中のマレー』1988)
■フィリピン
「フィリピンの歴史における暗い時代は私たちの国を日本国が占領した時です。日本軍は、来たばかりの頃は、自分たちはフィリピン人の友達だといい、フィリピン人と日本人を結びつけるためアメリカを敵としました。彼らは、人々の食料や家財道具をはじめ、乗り物や大きな家々も取り上げました。彼らはまた、とらえた人々を拷問し、殺しました」。
(小学校4年生用『歴史』1977)
さらに、日本がこれらの国を占領していたときの、日本軍の残虐行為についての記述も多い。
■中国
(初中課用『中国歴史』1980、1990)
■台湾
(中学生用『高級中学歴史下』2000)
■韓国
(国定中学1年生用 1977)
■シンガポール
(中学校初級用『現代シンガポール社会経済史』1985)
■マレーシア
「憲兵隊は一般の人々にとても恐れられた組織だった。憲兵隊は疑わしい人を犯罪が立証された罪人のように扱った。罪のない人間を罪人だと自白させるため、さまざまな残酷な拷問が行われた。彼らは、手や足のツメを抜いた」。
(中学2年生用『歴史の中のマレー』1988)
このように見てくると、アジアから見た戦争の歴史は、日本人が教科書で習う歴史とはかなり違っていることがわかる。そしてさらに、こうした国々が日本の歴史教科書について非難する理由も理解できる。
ここで考えなくてはならないのは、歴史とは単純に過去に起こったことを学ぶだけではなく、ある国の、過去に起こったことに対する考え方や姿勢を学ぶことでもある、ということだ。つまり、日本人は日本政府が正しいと思う歴史を学び、中国人は中国政府が正しいと思う歴史を学んでいる。であれば、日本の歴史教科書と並んで、こうした海外の歴史教科書を読んでみれば、それぞれの国が歴史をどのように考えているのか学ぶことができる。歴史といえども政治と無関係ではいられないのだから、ほかの国から見た歴史を参考に、なぜそのような違いが出てくるのか考えてみると、子どもにとって物事を多面的に考えるいい練習になると思うし、ほかの国に対する理解も深まる。
さて、ここでは主にアジアの歴史教科書を取り上げて日本の教科書との違いを見てきたが、これとは裏返しの関係が日本とアメリカの関係だ。たとえばアメリカでは、広島、長崎への原爆投下について、「日本軍の抵抗は激しく、そのまま日本本土決戦となれば、さらに数多くのアメリカ兵の犠牲が予想された。そうした犠牲を避け、戦争を早期に終結させるため、アメリカは広島と長崎に原爆を投下した。そして、戦争を終結させることができたのだ」と教えている。そこでは、原爆がどのような被害をもたらし、さらに多くの人が今なお後遺症に苦しんでいることにはほとんど言及していない。これがアメリカから見た歴史だからだ。同じ原爆投下についても、ほかの国になるとまた見方が違っている。
■西ドイツ
「当時の時間の経過を詳しく調べるとアメリカ側の公式の説明には疑問がある。投下以前に米ソとも日本の求めた降伏のための接触を無視したのである。したがってこの投下はまったく無意味な手段であった。その目的はただ新兵器の威力の実験と、他国(特にソ連)への示威のためであった」。
(『日本』1970)
どちらが正しく、どちらが間違っている、というより、これが学校で教える歴史なのだ、というふうに理解し、歴史が唯一無二の物語ではないことを頭に入れておく必要があるだろう。余談ながら、旧ソビエト連邦の地理では、日本のことを次のように記述している。
■旧ソビエト連邦
「社会主義と資本主義とのふたつの世界の接点に位置する日本は、ソ連と接することでその安全が保証され、相互の経済的・文化的交流が発展する大きな可能性があるはずである。しかし逆にアメリカ帝国主義にとっては、日本の位置がソ連に対する絶好の軍事的前進基地である。そして日本にはアメリカ軍の基地が100カ所以上もある」。
(高校1年生用『諸外国の経済、および社会地理』1981)
最後に、個人的な話で恐縮だが、「教科書問題」という言葉を聞くといつも思い出す話をふたつ書かせていただきたい。
子どもが空手の試合に参加したとき、最後に審査委員長というかなり年配の方から話があった。趣旨は「空手を習うからには礼儀正しく」ということだったのだが、途中から話がだんだんその方の個人的な体験談になってきた。
「この前台湾に行って驚いたのですが、台湾の子どもたちはひじょうに礼儀正しい。それで、どうしてなのか大人に聞いてみました。皆さんは知らないでしょうが、台湾は昔日本だったのです。その時日本人が台湾の人たちに礼儀を教えた、ということでした」。
20年ほど前、香港人の友達と中国を旅していたとき、途中で会ったある老人がお茶に誘ってくれ、いろいろ話をした。別れ際にその人は僕にいった。「今日はここに泊まらずに、どこかほかのところに泊まってください。今は我慢していますが、夜になって昔日本軍にされたことを思い出したら、我慢できなくなってあなたを刺しに行くかもしれませんから」。
戦争が過去のことになっても、戦時中に生きていた人の記憶がなくなるわけではない。戦争のことを知らない子どもたちに歴史を教えるときには、そのことを忘れてはいけないと思う。だから今更謝罪しろとか、相手に遠慮しろ、ということではなく、過去の出来事をきちんと知った上でほかの国の人とつきあうことは、最低限の常識だし、礼儀でもあると思う。
興味のある方は、ここでの引用の元になった下の参考文献などを読んで、海外から見た日本について調べていただきたい。
参考文献:『東アジアの歴史教科書はどう書かれているか』日本評論社、『世界の教科書は日本をどう教えているか』白水社、『アジアの教科書に書かれた日本の戦争』梨の木舎
文:堀内一秀 イラスト:Yoko Tanaka
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