(文:スマートニュース マーケティングディレクター/SmartNews Creative HUB 松岡洋平 氏)
「先入観」を避けるための余白
2002年刊の『海辺のカフカ』(新潮社)では、発売前に「15歳の話らしい」「中野区の話らしい」といったコピーを小出しにして、最小限の内容を明かすことを試みました。さらに2009年刊の『1Q84』(新潮社)では、「先入観なく作品を読んでほしい」という村上春樹さんの意向から、発売までは内容を一切開示しない施策をとりました。
前作の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)も、表紙や内容などの情報は発売まで伏せたままで、タイトルやメッセージを徐々に出されていたと思います。
今回の『騎士団長殺し』も、これまでの方法を踏襲しています。2016年11月末に新潮社より「発売月」「本格長編」「原稿用紙2000枚分」「書き下ろし」「全2冊」で発売することを発表し、2017年1月にティザーサイトをオープンして「タイトル」「各巻のサブタイトル」「背表紙の書影」「発売日」を告知していきました。
通常のプロモーションでは、書評を書いてもらうため、事前に書籍や原稿を各所に送付します。そして発売から日をおかずに書評が出て、書籍の帯にもさまざまな識者のコメントが連なるのが一般的です。ただ今回は、著者の「読者とすべて同じタイミングにしたい」という意向で、関係各所に対しても例外なく発売当日に発送することにしました。
高まる「村上春樹」人気、書店が独自イベント開催
本格長編は『1Q84』以来7年ぶりということもあり、特にネット書店での動きは早く、Amazonでは予約開始から3週間で村上作品の歴代1位に達しました。こうした流れもあって、1月24日には初版が各50万部(合計100万部)となることを発表しました。
2月20日までには第1部が20万部(2刷と3刷)、第2部も10万部(2刷)の事前増刷が決まり、発行部数は第1部70万部、第2部60万部、合計130万部となりました。
限られた情報しか提供できない中で、過去作品を集約したコーナーや内容予想など、書店さんにいろいろと工夫していただいたことで、大きな反響につながったと考えています。三省堂書店神保町本店さんでは新刊発売日に「誰よりも早く村上春樹さんの新刊を本屋で徹夜して読む会」といったイベントも行われました。
情報が限られ、プロモーションに余白が残るからこそ、読者の興味もわきますし、ファンの熱量が高まるのだと思います
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