あなたの集中力を「測定」してみよう

1日のうち、高い集中力を発揮できるのは4時間が限界です。でも逆にいえば、4時間集中できれば仕事の生産性は格段にアップします。予防医学研究者の石川善樹さんは、「集中できないのは意志が弱いからではなくその方法がわかっていないから」と言います。その方法について書いた石川さんの最新刊『仕事はうかつに始めるな』の一部を特別掲載いたします。


集中度を測定するデバイス

 もしかすると、大変するどい読者の方は、すでに次のようにお思いかもしれません。「そもそも、フローかどうかって、手軽に測れるの?」

 大変ごもっともなご指摘です。というのも、「自分はいったいどのぐらい集中できたか」を手軽かつ客観的に測れない限り、何かを改善していくことは難しいからです。当たり前の話ですが、血圧をコントロールするという概念が生まれたのは血圧計が登場してからですし、体重管理も体重計が登場したから生まれたといえます。

 では、フローの場合はどうでしょうか? 何か測定するような器具はあるのでしょうか?

 わたしがこのフローの研究を始めた当初は、どれだけ探しても「フローを測れる手軽な器具」はありませんでした。唯一あったのは、アンケートで「どれだけ集中したか」をたずねるような、非常に主観的なものでした。

 わたしは測定器具にはとくにこだわるタイプの研究者です。たとえば、わたしの研究分野のひとつにダイエットがあります。もうかれこれ 15 年近く研究していますが、当然最初に詳しく調べ上げたのが、体重計です。

 おそらく、ほとんど知られていないと思いますが、日本でつくられる体重計は、北海道と沖縄とでは、異なる設定になっています。というのも、その二つの地点では人体にかかる引力が違うため、その影響を考慮しなければならないからです。最近はデジタル式の体重計が増えてきましたが、最初に「地域設定」をするようになっています。これは場所によって異なる引力を考慮するためにそうなっているのです。

 話がとんでしまいましたが、要するに研究者として研究するうえで、客観的な測定器具は欠かすことのできないツールなのです。しかし、フローに関しては測定できるものがありませんでした。そこで、

「ないなら、つくればいい」

 そう決意して、実際につくってみました。といってもわたしひとりでつくり上げたわけではなく、パソコン用眼鏡でおなじみのジェイアイエヌという会社と共同開発させていただきました。「世界初のフローを手軽かつ客観的に測定できる器具」です。

 もともと同社でも「集中力を測れないか」という同様の問題意識を持って独自に研究開発を進めていたところだったので、1年という比較的短期間で開発できました。それがJINS MEMEというフローを測定できる眼鏡です。

 使い方としては、眼鏡と専用のスマホアプリを用います。詳しいことはJINS MEMEのホームページを見ていただければと思いますが、機能面でいちばん重要な点だけ述べると、このデバイスは、「まばたきの頻度」を測ることができるようになっています。

 なぜ、まばたきの頻度なのか? これまでの研究から、人は集中しているとき、「まばたきの頻度が少なくなる」ことがわかっています。これは体感的にもわかると思います。集中しているとき、まばたきが減るような感じがしませんか?

 とはいえ、人は目を開けっ放しでいることはできません。そんな状態が続いたら、ドライアイで大変なことになります。そのためフロー状態を続けるために重要になるのが、「まばたきの安定度」です。

 専門用語なので、直感的には理解しにくいのですが、「まばたきの安定度」とは要するに、まばたきの強さが一定であるかどうかを示すものです。

 あくまでイメージですが、「ギュー……パチパチ……ギュー……ギュー……」というようなまばたきは、安定しているとはいえません。「パチ……パチ……パチ……」というように、一定の強さでリズミカルに行うまばたきは安定しているといえます。ちなみに、まばたきの安定度は、リラックス度と同義です。

 まとめると、「まばたきの頻度が少なく(集中)」かつ「まばたきが安定している(リラックス)」と、フロー状態が続いているといえます。

水曜日の早朝は集中力が高まりやすい?

 実際にこのデバイスの利用者500人のデータ分析をしたところ、いろいろと面白いことがわかってきました。たとえば、曜日や時間によって、集中力に波があるのです。 着用時間のうち集中できている時間の割合が高かったのは、なんと日曜日でした。平日だと水曜日です。月曜日と金曜日の集中率は目立って低くなりました。また、時間帯でいえば、始業前の朝がもっとも集中力が発揮できて、そこから徐々に集中力が落ち、終業直前に少し持ち直す傾向がありました。サンプル数は少なかったのですが、深夜に着用していた人の集中力はかなり高くなりました。

 これはあくまでも平均値ですので、誰もが水曜日の早朝に集中力が高くなるわけではありませんが、自分の傾向を知っておけば集中力の効果的な配分が可能になります。

プロゲーマーのフロー

 実際にこのメガネをかけて集中力を測定するという実験を行いました。

 研究対象を選ぶときは、研究者の好みが反映されます。わたしの場合、「格闘ゲームが好き」というだけの理由で、ストリートファイターなど格闘ゲームの世界で活躍されるプロの方々を対象に実験をさせていただきました。

 ひとりは、日本人初のプロゲーマーとなり、世界でもっとも長く賞金を稼いでいることでギネス記録を保持している梅原大吾さん。もうひとりは、梅原さんと並び世界の格闘ゲーム界において圧倒的な人気と強さを誇る、東大卒の異色のプロゲーマー、ときどさんです。

 ただ実験するだけではもったいなかったので、テレビの特集番組のなかで実際に「ストリートファイターⅤ」というゲームをやってもらい、お二人のフローを測定しました。その結果、面白いことがわかったのです。

 まず東大卒ゲーマーのときどさんですが、最大の特徴は、瞬時に極度な集中状態に入ることができる一方で、リラックス(まばたきの安定度)が足りない傾向がある、ということでした。スタートダッシュはものすごいのですが、時間がたつとバテるタイプです。また、攻撃をくらうと集中力がぐっと下がるというクセも見られました。この結果が示唆しているところは、ときどさんはリラックスの仕方を覚えることで、もっと強くなる(フローに入れる)可能性がある、ということです。

 一方、世界最強のプロゲーマー梅原さんは、対戦中は終始高い集中力を見せただけでなく、リラックス度もときどさんよりも高い傾向がみられました。

 まさに「フロー」に入り続けていたのです。ちなみに試合結果は、梅原さんの圧勝でした。

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この連載について

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石川善樹

人間の集中力はいまや金魚以下といわれるほど低下しています。平均的なビジネスパーソンは1時間に30回もメールをチェックしているともいわれています。ではスッと集中状態に入るためにはどうすればよいのか? 予防医学研究者の石川善中さんが、集中...もっと読む

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コメント

hilbert_d 【はてブ新着学問】 13分前 replyretweetfavorite

President_Books 石川善樹さんの新刊『仕事はうかつに始めるな』より、Cakes連載がアップ。 「世界初のフローを手軽かつ客観的に測定できる器具」を開発。利用者500人のデータ分析すると、曜日や時間によって集中力に波があることがわかりました→ https://t.co/ZWb2GN9KiF 約6時間前 replyretweetfavorite