(出所はWIKIパブリックドメイン画像)
クロネコヤマトの宅配便の基本料金が27年ぶりに引き上げられることになりました。
宅配便業界の最大手はヤマト運輸ですが、2位の佐川急便が利幅を重視し、2013年にアマゾンとの契約を打ち切って以来、その負担はヤマト運輸に集中し、輸送現場の負担が急上昇したためです。
筆者も職場でヤマトドライバーの方から荷物を受け取ったり、発送したりすることが多いのですが、2014年ごろからドライバーのおじさんがヘロヘロになってやってくることが増えたような気がします。
同じ職場のメンバーの声を聞くと「ヤマトのおじさんはいつも疲れ気味なので応対していて不安になる」「佐川マンは元気だが、たまにガサツな人がいる」という印象でした。どちらもきちんと届けてくれるので、ありがたい存在なのですが、特に印象的なのは、ヤマトドライバーの疲れ具合です。
2013年の佐川のアマゾン撤退から4年目に入り、そろそろ、両社の判断の明暗が分かれてくる頃に入ったのかもしれません。そこで、今回は、ヤマト運輸の値上げの背景について考えてみます。
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ヤマト値上げとなくなるサービス
時事通信等を中心に各紙で報じられたニュースでは以下の4点が報じられています(時事ドットコム「宅配便、27年ぶり値上げ=個人向け含め全面的に-ドライバー不足深刻・ヤマト運輸」2017/3/7)。
- ネット通販の拡大によるドライバー不足対策で基本運賃を90年以来、27年ぶりに値上げ。
- アマゾンとの料金交渉を並行。
- 配達指定時間帯の6区分の中で「12時~14時」に関して廃止を検討
- 帰宅者受付が集中する「20~21時」は負担減のために「19~21時」への変更等の組替えを検討
ユーザーとしては12~14時がなくなると痛いので、その分が他業者への発注になるはずですが、そこまで踏み込まざるをえないほど、ヤマトも追い込まれているのでしょう。
ヤマトドライバーの負担の現状
産経ニュース(2017/3/7)では、「配送の合間には休憩がほとんどとれず、昼食はトラックの中でチョコレートを口にする程度」という元ドライバーのショッキングなコメントも紹介されています。その方は、平成25年以降「体感で荷物が2~3割は増えた」とも述べていました(「ビジネスモデルは限界… 元運転手『昼食はチョコレート』」)
前掲の12時~14時をなくすのは、ドライバーに昼休みを与えるための措置なので、このコメントとも符号しています。ただ、12時~14時はユーザーが受け取りやすい時間でもあるので、この措置はヤマト運輸の競争力を下げる一面もはらんでいます。
ヤマト運輸は「顧客満足」と「従業員の負担の限界」の矛盾という厳しい経営判断を迫られたわけです。
その主因となったのはアマゾン。その現状が春闘交渉で議題にのぼったことが朝日新聞でも取り上げられています。片山康夫・中央書記長の「いまの荷物量は無理があります」という発言に、長尾裕社長が「対策は打っていく」と答え、前掲の方針が打ち出された模様です。こちらも現場ドライバーの声を紹介していました。
「扱う荷物の4割ぐらいをアマゾンの段ボールが占めている感じ。ほかにもゾゾタウンやアスクルなどネット通販の荷物が目立って増えているが、今一番困らされているのはアマゾン」。都内を担当する30代のドライバーは打ち明ける。
(朝日デジタル「アマゾン宅配急増、ヤマトに集中 『今の荷物量、無理』2017年2月24日)
米国発のベゾス流通革命が日本に上陸してきたのですが、そもそも、クロネコヤマトで宅急便を小倉昌男氏が始めたころはネット通販がなかったので、現在は「想定外」の事態が生じているわけです。
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ヤマト運輸VS佐川急便を数字で見ると・・・
前掲の朝日新聞記事では、その急増ぶりを以下のように報じています。
平成28年4月~29年2月における宅配便の取扱個数は前年同期比8%増の約17億1226万個。年度全体では約18億7千万個と過去最高を更新する見通しだ。配送全体の2割を占める再配達の増加も、ドライバーの負担に追い打ちをかけている。(※これはヤマト運輸が請け負った宅配便の数です)
ヤマトの負担の大きさは佐川急便と比べてみると、よくわかります。これは国土交通省の「平成27年度 宅配便(トラック)取扱個数」のデータです。
- 宅急便(ヤマト運輸):17億3126万3千個 前年比106.7%、全取扱の46.7%
- 飛脚宅配便(佐川急便):11億9829万8千個、前年比100.2%、全取扱の32.3%
しかし、それで報われているわけでもありません。
2016年3月期の営業利益を見ると、ヤマト運輸は前年度比で下がっています。
【ヤマト運輸】(出所:事業別業績|ヤマトホールディングス:デリバリー事業)
- 営業収益:1兆1588億円(14年3月期)⇒1兆1648億円(15年3月期)⇒1兆1779億円(16年3月期)
- 営業利益:358億円(14年3月期)⇒392億円(15年3月期)⇒382億円(16年3月期)
【佐川急便】(出所:15年3月期決算、16年3月期決算 いずれもデリバリー事業)
- 営業収益:7094億円(14年3月期)⇒7125億円(15年3月期)⇒7215億円(16年3月期)
- 営業利益:363億円(14年3月期)⇒391億円(15年3月期)⇒384億円(16年3月期)
佐川のほうも16年3月期は下がりましたが、営業収益に4500億円ほど差があっても、営業利益がほぼ同額なので、単価を重視した実入りのよい仕事になっています。
むろん、市場シェアは大事ですが、現場の疲弊ぶりや今後の息切れを勘案すると、ヤマトが勝ったとは言えないのが現状でしょう。
佐川急便のアマゾン撤退の背景とは?
こうしてみると、佐川急便が2013年にアマゾンから撤退したのは、先見の明があったと言えるのかもしれません。
その経緯がNEWSポストセブンの記事(2015/9/4)に書かれていました(出所:佐川急便 Amazonと取引停止で「ライバルに100億円のエサ」│NEWSポストセブン)。
以下、アマゾンとの交渉担当者の発言です。
「うちが当時、受け取っていた運賃が仮に270円だったとすれば、それを20円ほど上げてほしいという腹積もりで交渉に臨みました。けれど、アマゾンは、宅配便の運賃をさらに下げ、しかもメール便でも判取りをするようにと要求してきたのです。アマゾンの要求は度を越していました。いくら物量が多くてもうちはボランティア企業じゃない、ということでアマゾンとの取引は打ち切るという結論に達しました」
メール便はポストに入れれば終わりですが、宅配便には判取りに伴う再配達が必要です。つまり、佐川は、アマゾンがメール便でも再配達を要求してきた時に請負は無理と判断したわけです(アマゾンでも大口はまだ引き受けが部分的に続いている)。
これは自社の経営資源を守り、最大限に生かすためには不可避の判断だったのではないでしょうか。
仕事の「質」と「量」の問題を考えるうえで、ヤマトVS佐川の競争は興味深い事例を示してくれています。
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