トランプ米大統領は、大統領選の期間中にオバマ前大統領に電話を盗聴されたと主張し、米国の政府を危機に陥れた。早朝にツイッターに書き込んだことであろうと、たわごとをツイッターに書き込んだ前歴があろうと、事態の重大さにまったく違いは生じない。昨年11月の大統領選で数百万人が不正に投票したというトランプ氏の虚偽の主張も、在任中の大統領に直接向けられたものではなかった。ただちに、オバマ氏に対する非難の情報源と証拠が示されなければならない。そうでなければ、この主張は、それなしには国が立ち行かない行政機構の信頼を損なうだけだ。
トランプ氏の広報官らの対応が状況をさらに不透明にしているため、なおさら急を要する事態となっている。広報官らは、トランプ氏の言い分は広く報じられた話に基づいているとしている。問題は、その報じられた話がトランプ氏の主張の裏付けにならないことだ。
報道内容は、米国の捜査機関と情報機関がロシアとトランプ陣営のつながりを調べていたということだ。米ニューヨーク・タイムズ紙は匿名の関係筋による情報として、その捜査中に電話盗聴で得られた情報がホワイトハウスに上げられていたと報じた。米ニュースサイトのヒートストリートとブライトバートは、米連邦捜査局(FBI)あるいはより広く「オバマ政権」が、トランプ陣営のメンバーについて捜査するために外国情報監視法(FISA)に基づく令状の発行を請求して認められたと伝えている。
たとえそのような令状の請求があったとしても、トランプ氏の言い分とは現実的にも政治的、道義的にも雲泥の差があるという事実は変わらない。令状が正当に発行されていたのなら、トランプ氏の主張は見境のない中傷だ。オバマ氏が司法省の捜査に介入した、あるいは米国市民に対する違法な電話盗聴を命じたという証拠を持っているのなら、トランプ氏はただちにそう言わなければならない。当該の情報が機密指定されていても、トランプ氏には機密解除の権限がある。
■令状の有無をはっきりさせよ
トランプ氏がその種のことを何も言っていないのは、自発的な発言はないであろうことを示唆する。この危険な不透明状態の解消は他の高官にかかっている。先頭に立ったのは2人だ。コミーFBI長官は、司法省がトランプ氏の訴えを却下するよう求めた。前政権の国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏は、自分の監督下でトランプ陣営のメンバーに対する電話盗聴は行われていないと公言した。司法省は前に出なければならない。確かに、正当な捜査に支障が出る恐れはある。だが、問題を放置すれば甚大な悪影響が生じる。たとえ大きな代償が伴おうとも、令状をめぐる問題は速やかにけりを付けなければならない。
トランプ政権は、この問題は議会の情報委員会によって解決されるべきだと主張している。トランプ氏が言い分の根拠を示した場合には、トランプ陣営とロシア情報当局者のつながりについても調べる委員会が、このもつれた問題の究明にあたるべきだろう。
トランプ氏の言い分は、情報機関や国務省、他の官庁の大部分に至るまで、同氏が軍以外の政府機関と多かれ少なかれ公然と対立していることを示す最も極端な証拠だ。協力を必要とする形に設計された政府機構が、このような状況の下で機能しうるのかはわからない。ホワイトハウスが根拠のない非難で対立を深めるなら、きしみに耐えきれなくなるかもしれない。
(2017年3月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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