松永正訓の小児医療~常識のウソ
コラム
風邪と診断されたのに、実は肺炎だった?
大学病院に19年間勤務した中で、私は一度だけ誤診をした経験があります。その患者は5歳の女の子でした。お
摘出した細胞のひとかけらを私が研究室で培養していると、その腫瘍細胞は神経細胞に変化していきました。ウイルムス腫瘍ではそういったことは絶対に起きません。この腫瘍は未熟な神経細胞から発生する神経
さて、今日は子どもの肺炎について説明します。肺炎という病態は意外と正しく理解されていないため、時に開業医と保護者の間でトラブルになったりします。
耳鼻科にかかっていた年長君
幼稚園の年長組の男の子が私のクリニックを受診しました。ママの話では、その年長君は10日前から鼻水があり、
私は、耳鼻科の先生が処方した薬の内容を知りたくてお薬手帳を見せてもらいました。
ペリアクチン(抗ヒスタミン剤:鼻水止め)
ムコダイン(
ムコソルバン(痰切り)
アスベリン(咳止め)
ホクナリンテープ(気管支拡張剤)
メイアクト(抗生物質)
ビオフェルミンR(整腸剤)
カロナール(解熱剤)
こうした薬が並んでいます。定番と言ってもいいでしょう。そして私は年長君の様子を詳しく聞きました。発熱が5日目に入っていて、痰が絡む咳が10日間に及んでいます。聴診器を年長君の胸に当てると、右肺からゴロゴロという雑音がします。呼吸がやや速くて、呼吸のたびに
もうこの段階で診断はついています。年長君は肺炎です。胸部のX線を撮影してみると、年長君の右の肺に白い影が広がっていました。これで診断は確定です。X線写真をお見せすると、ママは矢継ぎ早に質問してきました。
「肺炎? 風邪じゃなかったんですか? 診断が間違っていたんですか?」
「最初から小児科に行けばよかったんですか?」
「肺炎だと入院ですよね?」
「何で、肺炎になってしまったんですか? 薬を飲んでいたのに」
「下の子に肺炎がうつっていないかしら?」
少し興奮気味のママをなだめて、私は肺炎についてじっくりと話を始めました。
最初はただの風邪
年長君に対する「風邪」という診断は間違っていません。最初はただの風邪なんです。風邪とは、
風邪(急性上気道炎)は、連載の1回目で説明したように99%以上は自然治癒します。発熱は72時間くらい、咳は長くても10日くらいです。つまり逆から説明すると、発熱が72時間を超えたり、咳が10日を超えたりした場合は、「風邪がこじれている」可能性を考える必要があります。
上気道に感染したウイルスの病原性が高いとき、あるいはお子さんの免疫力・抵抗力がダウンしている時、ウイルスは下気道に向かって進んでいきます。下気道の行き止まりは肺ですから、最終的に肺炎になります。つまり、耳鼻科の先生が診察した時は、風邪(上気道炎)だったのですが、私が診た時は肺炎になっていたということです。耳鼻科の先生の診断は間違っていません。誤診ではないのです。
何科に行っても風邪は99%以上治る
医者というのは不思議な職業で、どういう病気が専門なのか一般の人にはとてもわかりにくいと思います。耳鼻科とか眼科は、それぞれ「耳・鼻・喉」や「眼」が専門です。つまり、そういった臓器の専門家ですね。ところが小児科というのは専門の臓器を持っておらず、小児をトータルで診ます。さらに病気だけでなく、発達・発育も診ます。
風邪は自然に治りますから、極論を言えば何科に行ってもかまいません。耳鼻科の先生の中には「自分は、子どもの風邪を上手に治せる」と信じている人がいるかもしれませんが、それは誤解であって風邪は自然に治っているのです。
処方する薬も、耳鼻科でも小児科でも極端な違いはありません。しかし最近、小児科の先生の中には、風邪に対してほとんど薬を出さないという人が増えてきています。風邪に風邪薬はほとんど効果がないという判断からです。私も、この年長君を初めに診たら、
ムコダイン(痰切り)
アスベリン(咳止め)少々
くらいしか出さないと思います。抗生物質は絶対に出しません。その代わり、生活指導をすると思います。冬であれば、保温と加湿が重要です。栄養を十分にとって、水分補給をし、疲れを残さないようにして、早寝をすることです。そして十分に
1 / 2
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。