分断を生み出す方法。全く同じ会社が左向け、右向けに偏ったニュースを流すディストピア

一部の言葉を変えるだけで、大きく振れるニュアンス。Facebookで記事を拡散させる会社の目的とは。

Liberal Society / Conservative 101

「リベラル・ソサエティ」「コンサバティブ101」という二つのニュースサイト。それぞれリベラルと保守に偏った記事を配信している。両サイトが2月22日、酷似した記事を流した。BuzzFeed Newsの調べで、同じ会社がこの2サイトを運営している可能性が高いことが分かった。

アメリカでは、真偽があいまいな記事を大量配信するニュースサイトが乱立し、社会問題化している。狙いは広告収入で、Facebookを介して記事を拡散させるのが特徴だ。

大統領選ではフェイク(偽)ニュースサイトが猛威をふるった。BuzzFeed Newsの取材で、東欧の小国・マケドニアの若者たちが小遣い稼ぎのために記事を剽窃したり、でっち上げたりしていた実態が明らかになった。とくにトランプ氏支持者に向けた記事がトラフィックを集めていた。(過去記事:偽ニュースが民主主義を壊す Facebookが助長したその実態とは?

日本にとっても対岸の火事ではない。アメリカの実態を知った日本人男性も1月、偽ニュースサイト「大韓民国民間報道」を開設。BuzzFeed Newsの取材に「日本においても、同様のことができると考え」て作った韓国デマサイトで、広告収入が目的だったと打ち明けている。「ヘイトを煽る記事は拡散される」とも指摘した。(過去記事:韓国デマサイトは広告収入が目的 運営者が語った手法「ヘイト記事は拡散する」

右向け、左向け

今回、BuzzFeed Newsの調べで判明したのは、同一の会社が左右両派向けの2サイトを運営し、それぞれの陣営に受けるように同じニュースの言葉尻を変えて、配信している実態だ。

「リベラル・ソサエティ」はリベラル系の記事を配信するサイト。「ワォ、サンダースがテレビ中継でトランプを激しくこき下ろした。トランプは怒り心頭」といった見出しが躍る。(サンダース氏は民主社会主義者で、民主党の大統領候補の座をヒラリー・クリントン氏と争った)

一方、「コンサバティブ101」は「ナンシー・ペロシは壇上で精神的に追い込められて、これまでのキャリアで一番狂った発言をした」といった見出しの保守系の記事を配信してきた。(ペロシ氏は民主党所属の下院議長)

酷似した記事

両サイトが2月22日に配信した酷似記事は、トランプ大統領がケリーアン・コンウェイ大統領顧問に対して、テレビ出演を控えさせたという内容。

いずれもCNNが同日、コンウェイ氏が発言を問題視されて「一週間テレビ出演を控えさせられた」と特報した後に配信された。

二つの記事は、共通点が多い。例えば、2段落目は書き出し以外は同じだ。

  • リベラル・ソサエティ:「実のところ(In fact)、情報源によると、トランプ大統領はなんとコンウェイ氏のテレビ出演を控えさせた」
  • コンサバティブ101:「ところが(However)、情報源によると、トランプ大統領はなんとコンウェイ氏のテレビ出演を控えさせた」

さらに、二つの記事は、CNNから同じ引用をしている。「ホワイトハウスに近い情報源が話した」として、「明らかに、よりトラブルのない一週間となっている」「ケリーアンをテレビから遠ざけたのが助けになっている」と書いた文章だ。

ただ、引用の仕方が違う。

  • リベラル・ソサエティ:「さらに、ホワイトハウスに近いCNNMoneyの情報源はこう話す」
  • コンサバティブ101:「さらに、あるホワイトハウスの情報源はここまで言った」

2サイトは同じ三つのツイートを埋め込んでいる。コンウェイ氏、テレビ司会者のミカ・ブルゼジンスキー氏ジョー・スカボロー氏のツイートだ。

言葉のトリック

二つの記事を比べると、言葉の一部を変えるだけで、同じニュースを左右どちらかに偏らせられることが分かる。

本文も単語一つを入れ替えただけで、こう変わる。

  • リベラル・ソサエティ:「ケリーアン・コンウェイは、ドナルド・トランプの下手な(terrible)コミュニケーション責任者だった」
  • コンサバティブ1010:「ケリーアン・コンウェイは、ドナルド・トランプの頼りになる(go-to)コミュニケーション責任者だった」

修飾する節を挿入すると、色がつく。

  • リベラル・ソサエティ:「ここ数ヶ月、コンウェイは、テレビでトランプについて話す『頼りになる』人物だったが、キー局は番組への出演を禁止した。コメントが政権の公式メッセージと一致しなかったからだ」
  • コンサバティブ1010:「ここ数ヶ月、コンウェイは、テレビでトランプについて話す『頼りになる』人物だったが、主流のリベラルメディアのキー局は番組への出演を禁止した。コメントが政権の公式メッセージと一致しなかったからだ」

後者は「主流のリベラルメディアの」という言葉が挿入されている。

記事の締めを変えると、記事のトーンが変わる。

  • リベラル・ソサエティ:「コンウェイが去って、嬉しいですか?」
  • コンサバティブ101:「コンウェイをテレビで見られなくなると、寂しいですか?」

同じフロリダの会社が運営

BuzzFeed NewsがGoogleアナリティクスやAdSenseのIDを調べたところ、両サイトはフロリダ州マイアミにある「アメリカン・ニュースLLC」社が運営している可能性が高いことが分かった。

同社は他にも複数のサイトを運営していると見られる。

同社は、他にも「ゴッド・トゥデイ」や「アメリカン・ニュース」といったサイトをドメイン登録している。

この「ゴッド・トゥデイ」と、冒頭のコンウェイ氏の記事を載せた「リベラル・ソサエティ」のソースには、同じGoogleアナリティクスIDがある。

このIDは「デモクラティック・レビュー」という別のサイトにもある。

「コンサバティブ101」が使っているAdSenseのIDは「アメリカン・ニュース」と同じだ。

フェイク(偽)ニュース

この「アメリカン・ニュース」は昨年11月、「俳優デンゼル・ワシントンはトランプを応援する」という偽ニュースを配信して、批判を浴びた。

「アメリカン・ニュースLLC」社の役員には「ジョン・クレイン」「タイラー・シャピロ」という人物が登録されている。

BuzzFeed Newsは電子メールで取材を申し込んだが、返信はなかった。電話にも出なかった。

保守→リベラル、宗教

ドメインの記録をたどると、保守系ニュースから始めていることが分かる。

ジョン・クレイン氏は「アメリカン・ニュース」(AmericanNews.com)と「コンサバティブ101」(Conservative101.com)のドメインをそれぞれ2014年と2016年5月に取得している。

「デモクラティック・レビュー」(DemocraticReview.com)と「リベラル・ソサエティ」(LiberalSociety.com)はそれぞれ2016年6月と7月に登録された。

また、「ゴッド・トゥデイ」(GodToday.com)は2016年2月に登録されている。

アメリカン・ニューズLLC社は、宗教色の強いサイトを展開しようとしているとみられる。今年2月17日、ジョン・クレイン氏は「DevoutAmerica.com」(敬虔なアメリカ・ドットコム)「EthicalAmerican.com」(倫理的なアメリカ人・ドットコム)という二つのドメインを登録した。

Facebookを介して

こうしたニュースの拡散はFacebookが起点となっている。「コンサバティブ101」のFacebookページには210万フォロワーがいる。

「リベラル・ソサエティ」のFacebookページは204万だ。(このFacebookページでは、デモクラティック・レビューの記事、リベラル・プラグというサイトの記事も配信している)

「リベラル・ソサエティ」のコンウェイ氏の記事には、リアクション、シェア、コメントが計3万以上ついた。「コンサバティブ101」のコンウェイ氏の記事は3千余だった。リベラル受けする内容だったためだと見られる。

BuzzSumoを使ってFacebookでの記事のパフォーマンスを調べたところ、最も好調なのは「アメリカン・ニュース」だった。Facebookページには475万フォロワーがいる。

このサイトには過激な見出しの記事も目立った。

例えば、歌手マイリー・サイラスや司会者ロージー・オドネルが、トランプ大統領のせいで「永遠にアメリカを去る」という偽ニュースを流している。

「女優ニコール・キッドマンがアメリカ国民にトランプ大統領への支持を呼びかけ、ハリウッドから追放された」という偽ニュースも配信した。

この3記事はFacebook上で計250万以上のエンゲージメントを集めた。

American News

リベラル系のサイト

大統領選後、「リベラル・ソサエティ」で最も高いエンゲージメントを稼いだ記事の見出しはこれだった。

「オバマが共和党員に演説:『私がトランプを生んだのではない、あなたたちの私への敵対感情だ』ーだが彼には腹案がある」

昨年11月12日に配信され、36万を超えるエンゲージメントがあった。

この見出しは「オキュパイ・デモクラッツ」が昨年3月10日に配信した記事の見出しに酷似している。

「オバマから共和党員へ:私がトランプを生んだのではない、あなたたちの私への敵対感情だ」

怒りを売るマーケティング

BuzzFeed Newsはこの「オキュパイ・デモクラッツ」にコラムを寄せているグラント・スターン氏に、同じ会社が左右両極のサイトを運営していることについて、コメントを求めた。このスターン氏は「フォトグラフィー・イズ・ナット・ア・クライム(PINAC)」のエグゼクティブ・ディレクターでもある。

「これらはマーケティングのサイトですよ」。内容を一覧した後に、こう指摘した。「彼らが売り込んでいるプロダクトは、激しい怒りですよ」

ハイパーパルチザン

アメリカでは近年「ハイパーパルチザン(両極端に偏っている)」ウェブサイトが急増している。特に昨年の大統領選では大きなトラフィックを集め、話題となった。Facebookのシェアを介して拡散し、相手陣営をこき下ろす内容が目立った。

「両極端な政治的な(見方)を手玉に取っている人たちがいます」

BuzzFeed Newsの取材に、イーロン大学のジョナサン・オルブライト助教は話す。同助教は、ハイパーパルチザン・サイトや偽ニュース・サイトの全体像を詳細に分析している。「数値や広告収入を伸ばす」ために、同一人物が政治的に両極端な2サイトを運営していてもおかしくないと指摘する。

動画素材と同じ人物

BuzzFeed Newsが調べたこれらのサイトでは、ライターとして紹介されている人物に不明な点が多い。

「ゴッド・トゥデイ」はライターとして「ヘンリー・フリーマン」「ジョン・サリバン」という二人の人物名とその写真を載せていた(現在は削除)。

だが、いずれの人物写真もShutterstockという動画素材サイトに同じ画像がある。それぞれ「都市公園でノートに書く若い男性」ゴルフ場でゴルフをする成人男性」という題の動画に登場する。

左が「ゴッド・トゥデイ」、右がShutterstock。 Liberal Society / Shutterstock

この「ゴッド・トゥデイ」に載る「ヘンリー・フリーマン」の自己紹介文と、「リベラル・ソサエティ」のライターという「ジェイコブ・リチャードソン」の自己紹介文のスタイルは似通っている。

「ゴッド・トゥデイ」の「ヘンリー・フリーマン」の紹介文

  • ヘンリー・フリーマンはノースカロライナ州で育ち、アラバマ大学に通い、そこでジャーナリズムを学んだ。
  • 書くことに情熱を持っている
  • いつの日か起業家となり、コミュニティに恩返ししたいと思っている。

「リベラル・ソサエティ」の「ジェイコブ・リチャードソン」

  • ジェイコブ・リチャードソンはニューヨーク市で育てられた。カリフォルニア大バークレー校に通い、そこで政治学とジャーナリズムを学んだ。
  • 国際ニュースを追うことに情熱を持っている
  • 近い将来、結婚し、家庭を築くつもりである

インターネット環境があれば、誰もが簡単にニュースサイトを立ち上げられる時代。記事の拡散を助けるSNSは、もろ刃の剣となっている。

この記事は英語から翻訳・編集しました。









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