牛丼一筋の「吉野家」がもがいている。6日発表した既存店売上高は3カ月連続で減り、マイナス基調が鮮明になった。牛丼チェーンの競合店や外食大手が新メニューを相次ぎ開発し集客数を増やすなか、牛丼を軸とするビジネスモデルに限界が見えつつある。
「吉野家は牛丼のイメージ。松屋は定食やカレーのメニューが豊富」。牛丼店激戦地の東京・神田。満足げな顔で松屋神田須田町店(東京・千代田)を出てきた男性会社員(47)はメニュー数で松屋を選び、約50メートル先の吉野家淡路町店(同)はほとんど利用しない。
牛丼が主軸のままの吉野家に対し、メニューを幅広くそろえる「すき家」のゼンショーホールディングスと「松屋」の松屋フーズ。足元では後者に客が集まる。
吉野家ホールディングスが6日発表した2月の既存店売上高は前年同月比4.6%減。前年はうるう年で営業日数が1日多い点を加味しても2016年12月から続く減収基調が鮮明になった。
一方、すき家は同1.3%増。松屋は0.6%減と27カ月ぶり減だが、前年のうるう年の影響で売り上げが3ポイントほど押し下げられたといい実質は約2%の増収だ。松屋は2週間に1度は定食の新商品を出し、すき家も派生商品を充実させる。
吉野家の売上高に占める牛丼の比率は5割前後。これに対し松屋は2~3割とされる。他の外食大手も新商品を次々出すチェーンが好調だ。日本マクドナルドは毎週のように新商品を出し業績を急回復させ、ファミリーレストラン大手も期間限定メニューで客を呼ぶ。
ベジ丼、麦とろ御膳、豚丼、ご当地鍋――。吉野家も15年春から新メニューを出したがヒットは長続きせず、安定して増収を維持できない。
人手不足も響く。吉野家の運営は若い男性アルバイトが働くことが前提だったが、いま頼るのはシニア層や外国人だ。闇雲にメニュー数を増やせば管理する食材数や調理の工程数が増え、店頭運営が破綻しかねない。
「牛丼一筋80年」と約40年前にテレビCMでうたい、固定ファンをつかんだ吉野家。牛丼チェーンの強みはどの店も同じ味を楽しめる安心感だった。が、いまは弱点になりつつある。
集客や検索のツールが発達し、消費者はチェーン店ではない独自色の強い店も安心して探せるようになった。景気の足踏みが続き、店選びもさらに厳しくなる。吉野家はメニューの多角化を急ぐが、競争軸は様変わりしている。(小沼義和)