そんな金正日総書記も、'11年12月17日早朝に突然死した。北朝鮮の公式発表によれば、地方視察へ行く途中に、専属の「1号列車」の中で心臓発作に見舞われたことになっている。
だが、アメリカの偵察衛星が捉えたこの日の「1号列車」は、列車が停め置かれた竜城駅から動いていないし、金総書記の地方視察に伴う軍や幹部たちの移動もない。つまり、金日成主席と同様、謎に包まれた死なのである。
金正日総書記の後継者となった三男の金正恩委員長も、短期間のうちに祖父や父親の時代以上に側近の幹部たちを粛清していることから、死んではいないと思うが、常に暗殺を恐れている。実際にこの5年余りで、何度か暗殺未遂が起こった。
例えば、'13年4月下旬、平壌市内を走っていた金正恩委員長を乗せた特殊装備のベンツに、自爆テロを狙った軍の車輌が突っ込み、ベンツが大破した。この時、李敬心という22歳の交通保安員(婦人警官)が金委員長を救出し、金委員長は九死に一生を得た。
これによって李敬心は「共和国英雄称号」を授かった。同時に朝鮮人民軍では、金格植人民武力部長(国防相)と玄哲海同第一副部長(副国防相)が、責任を取らされて更迭された。
今回、金正恩委員長の異母兄である金正男氏が暗殺されたことで、その息子の金ハンソル氏(21歳)に危険が迫っていると、日本メディアは連日、報道している。
だが、最も危険が迫っているのは、金正男氏への暗殺指令を出した可能性が高い金正恩委員長の方ではないのか。
2月15日と16日の朝鮮中央テレビの映像からは、秘密警察のトップとして張成沢党行政部長以下、多くの幹部を死に追いやった金元弘国家保衛相と、かつてナンバー2だった崔竜海党中央政治局常務委員が、姿を消していた。
今年に入っても側近たちへの容赦ない粛清を行う金正恩委員長は、もはや自身がいつ暗殺されても不思議ではない。
「週刊現代」2017年3月11日号より