今日は身近だけど身近じゃない数学用語「関数」について、可能な限りxやらyやらを使わずに説明していくことにします。最後にちょっと出てくるけど。
注意点が一つ、二つ。
一つ目。
これは当然、数学科に所属する学生に向けたような高度な講義ではありません。関数というものを手っ取り早く理解したいけど、Wikipediaを読んでもワケクチャわからん!という数学苦手な方、もしくは中学生向けの講義です。
数学科の方はちゃんと解析学のテキストで勉強しましょう。
二つ目。
これだけ読んで本質掴んだ気になられても困ります。
以前このエントリでも書きましたが、
例えた時点で一定の厳密さ・正しさを失くしていることには自覚せねばなりません
例えた時点で数学的厳密さは失われてしまいます。例えというのはあくまで話をわかりやすくするためのものにすぎません。
今回は数学のキモである厳密性(論理の部分)を丸々削っての説明になってますから、ちゃんと関数について知りたいやい!という方はそれなりの時間とお金をかけてください。
それでも良い方のみ以下、どうぞお楽しみください。
関数って?
中学校の数学の教科書なんて読んでると、
「例えば、1個60円のリンゴをx個買うと、代金はy円になる。このとき、yとxの間にはy=60xという関係が成り立ち、これを比例という。また、yをこのようにxの式で表せるとき、yはxの関数であるという」
なんて言い方がされてますが、ぶっちゃけ意味わかんないです。特に抽象的思考がまだ苦手な中学一年生にこんな言い方しても。
結局その余波は我々塾講師に来るわけで。学校で習った意味不明な解説を、我々がもう一度噛み砕いて説明する羽目になっちゃうんですね。
Wikipediaさんを読んでみましょう。
数の集合に値をとる写像の一種
だそうで。ますます意味不明ですよね。写像なんて大学数学でしか習いませんし。
こんな時例え話が何より役に立つんです。
ことばあそびが関数?
さて、次のゲームを解いてみましょう。いきなりですが、関数というものを理解するための手順ですから、必ず解いてみてくださいね。
さて、上の二つのような規則で、矢印の向きに物体が変化します。一応言っておきますが、下の右の鳥は「雁」(がん)ですよ。
では、
赤の四角に入る物体は、一体何でしょう?
このなぞなぞをただの言葉遊びと侮るなかれ。我々が普段気にもしない二つの物体の関係が、目の前に現れてくるのですから。
こういうなぞなぞが子どもの言語的センスを磨いてくれます。
さて、答え合わせをしましょう。
一番上の図。
タイヤ から ダイヤ
真ん中
カン から ガン
すこしヒントが少なかった気もしますが、濁点(てんてん)が一文字についたのだろうな、と予測できます。
そして
コマ から 〇〇
の変化なので、ああコマの「コ」にてんてんをつけて、答えはゴマなんだな、とわかります。
すなわち、この二つの間には何より「濁点を付けるかつけないか」という共通点があるわけでして、言い方変えれば「濁点の有無で関係している」と言えます。
そして、この関係こそが、関数の本質なのです。
もう少し抽象的な言い方をしましょう。二つの文字があって、その文字の値どうしの関係を示しているのが、関数なのです。
関数の「関」の旧字体は「函」です。函館は「はこだて」と読みますよね。関数というのはもともと「はこ」の数という意味でした。
今回のクイズで言えば、
タイヤを上から入れると、関数(という名前のハコ)の下からダイヤになって出てくる
カンを上から入れると、関数の下からガンになって出てくる
では、コマを上から入れると、一体何が出てくるでしょうか?
言い換えれば、関数(という名前のハコ)で、どんな処理が行われたのでしょうか?
真ん中の段ボールみたいな形のハコ、これが関数です。上にある穴に物体を入れると、下から変化して全く別のものが出てきます。一見規則性が無さそうな物体の変化ですが、実は「濁点をつけた後の物体を作って出しているのだ」ということがわかります。
ですから、このハコというのは、反応前後の物体の関係性を示しているのですね。これを抽象的に言えば
二つのもの同士の関係を示すのが関数だ
と、言い換えられるわけです。
それでは、さっそく数字を使って実例を示していきましょう。
個数―代金の関係
一個100円のリンゴがあります。これを
1個買うと
2個買うと
3個買うと……
と考えたときの代金を考えてみましょう。
1個の時は当然、100×1で100円
2個の時は100×2で200円
3個の時は100×3で300円……
じゃあ20個の時はどうなるでしょう。すかさず100×20をして2000円だとわかりますね。
このとき、個数と代金の間には何らかの関係性があることがおわかりいただけたでしょうか。
そう、100×〇(〇がリンゴの個数)が代金ですよね。
代金というのは常に「リンゴの値段×買った個数」で表されるわけで。リンゴの値段は今1個あたり100円なんですから、買った個数を〇個とすれば、代金は100×〇円だと言えますね。
ここで、代金を△円としましょう。何のことはない、今まで「代金は100×〇円」としていたのを、「△円は100×〇円」と表すだけのことです。
△=100×〇
そろそろ近くなってきましたよ。
〇に100をかけると△になる、この式は、二つの記号がどのようにかかわっているかを示しているわけです。
さて、△をyに、〇をxに書き換えてみましょう。
y=100×x
文字が出てきた瞬間に思考停止する方もいますがとってももったいないです。△とか〇だといちいち書くのが大変だから、ただ文字にしてるだけです。そう思ってみてください。
さあ、もう関数は目の前に現れてますよ。
さっきのたとえ話を思い返しましょう。
「タイヤがダイヤに、カンがガンに、コマがゴマになった。この規則性ってなーんだ?」
2つの物体の規則性……関係を表すのが「関数」というハコでしたよね。
だとすれば、yという文字とxという文字の関連性を表す
y=100×xという式にも、「関数」が紛れ込んでるはずです。
ええい、図だ!
xという文字があって、これに何らかの規則が働くことによって(つまり、ハコの中で何らかの処理が行われて)下からyという文字になって出てくる。
どんな規則でしょうか?
そりゃ明らかですよね。
xという文字に100をかけたものがyなのだから、関数というハコの中では「上から入れたxに100をかける」という処理が行われているはずなんですよ。
ここで注意するのは、xというのがただの文字とみなすんじゃなくて、xという仮の「値」を入れるとみなすことです。つまり、xはなんにでもなれる(あらゆる値をとれる)ものなんだけど、今のところは何もいれずに、あくまで文字として表すだけです。早い話さっきの△とか〇とかと同じ。
これは、どんなに規則性が難しくなっても変わりません。「関数というのは2つの値の関係性を表すもの」という定義は、関数の中でどんなに複雑な処理が行われようと変わることがありません。
yをxの関数という とは?
では最初の「y=60xと表せるとき、yをxの関数という」という言葉、これはどういう意味でしょうか。関数というのはハコでしたよね。上から入れた数字を下から(別の)数字として出すための仕組みでした。
逆に言えば、下のほうから出る数字(つまりy)は、上から入れる数字(つまりx)が確定すれば、全て決まってしまいます。
「上から入れた言葉に『濁点を付ける』という仕組み」(=関数)がわかってるなら、やるべきことは一つだけ。上から言葉を入れるだけですよ。後は勝手に関数くんが働いて、下から言葉を吐き出してくれます。
個数と代金の例で言えば、リンゴの値段が100円と明らかな際、個数が決まれば代金も勝手に決まりますよね。個数が〇個なら代金は100×〇円ですよね。
このように、右側にある文字にある数字を代入する(具体的に2とか50とか入れて計算する)だけで、左側の値も自動的に決まってしまうとき、『yはxの関数である』と言います。
ただ関数によって、どんな処理をするかは変わってしまいます。
その処理が、濁点を付けるだったり、100を掛けるだったり、60を掛けるだったりするわけですが、結局関数くんがやること自体は変わりません。上から入った数字に何らかの処理をして、下側から吐き出すだけ。
※実際は2変数関数……つまりxとyとか、aとbだけみたいな、2つの文字だけで関係が終わってしまうものだけじゃなくて、wとxとyの三つを入れて初めてzの値が確定する……ようなものもあります。が、ここでは簡単のため2変数だけにしました。
※言葉遊びとして「タイヤ」「カン」「コマ」を用いたのは、濁点が1つしか付き得ないからです。「サカナ」は確かに「ザガナ」(って何だ?)に、「フトウ」は「ブドウ」になりえますが、簡単のためここではこういう例しか使ってません。(濁点がどこに何個つくかまで考えるとキリがない)
文字式のように「なんでも値を取れる」というわけではないので、これもあくまで例え話として考えていただけると助かります。
まとめ。
関数というのは、上から入れた数字に何らかの処理をして下に吐き出すための仕組みである
転じて『yはxの関数だ』というのは、下の数字(y)の値が、上の数字(x)に数字を入れるだけで決まってしまう、という意味である
以上でした。意欲のある中学生、高校生の方や、私と同じくどう教えるかで悩んでいる教育関係者の方の参考になれば幸いです。
不明なところがあればブクマかコメ欄かでどうぞ。
数学を楽しく教えたいけどどうしようか状態な塾講師の方や、なんとか子供に数学への興味を持ってもらいたい親御さんにはかなりオススメできる本を紹介しときます。
ただ、これ自体を中学生の学習用教材として必携にするのは危うい気もします。何せ書かれていることが、一般の中学数学の教科書や塾のワークより一段階ぐらい応用的ですから。
逆に、「ちょっと小難しく書かれた内容を理解できるぐらいのアタマはあるが、数学がどうやって日常に生きているかわからないからモチベが上がらない」という中学生なら結構いけるでしょう。
それから、一応「小学校の算数でつまづいてしまった人にも」とか書いてありますが、さすがに「数を見るだけでアタマがクラクラする。文字式見た日にゃ吐いちまう」レベルの数学嫌いの方は、期待しないほうがいいですね。教材のレベルをもう一段階下げたほうがいいでしょう。
数学が日常にどう活きているかをこれほど丁寧に基本に忠実に教えてくれる本にもなかなか出会うことができません。中学生の時に出会いたい名著でした。
まあ2016年出版だから無理だけど。