1989年に公開され、ひと癖もふた癖もある選手らの成長を通して、弱小球団が勝ち進む姿を描いた映画「メジャーリーグ」に、ロッカーの扉を開けてそこに細長い赤い紙が貼ってあったら、解雇、またはマイナー行きを意味する、というエピソードがある。
■ケガさせたのは招待選手のバーンズ
映画では、主人公を演じるチャーリー・シーンがチームメートにだまされ、「どうして俺がクビなんだ!」と監督室に怒鳴り込んでいく。
過去、実際に大リーグで同じことが行われていたかどうか確認できないが、アメリカにおいて赤、あるいはピンクの紙というのは、一般的に解雇を連想させる色だそう。起源は、はっきりしないものの、かつて自動車メーカーのフォードが流れ作業のなかで個人の能力を評価するのに色を使い、例えば白ならば許容範囲、ピンクは解雇といった意味合いがあったそうだ。
それは赤い紙ではなかったものの、先日、マーリンズのブランドン・バーンズという選手のロッカーに黄色い紙が貼り出されていた。しかしも分かりやすく、こんな言葉まで添えられて。
「You’re cut!」(おまえはカットされた=クビだ!)
映画同様、もちろんジョークだが、バーンズは解雇までいかなくとも遅かれ早かれ、マイナーに落とされるであろう招待選手として大リーグのキャンプに参加している立場。時期がもう少し遅ければ、真に受けてしまったかもしれない。
さて、どうしてそんなことになったかだが、彼こそが2月21日の守備練習中、イチローにぶつかって、ケガをさせてしまった張本人である。右中間のフライに対して、センターとライトがそれぞれ声を掛け合い、もしも中堅手が声を出したら右翼手は引くという練習。このとき、イチローがセンターで、バーンズがライト。イチローが声を出したものの、バーンズにはそれが聞こえなかった。
■大事に至らず…悪ノリの仲間が貼り紙
交錯した瞬間、顔をしかめ、脚を引きずったイチロー。幸い、大事には至らず、だからこそチームメートが、「イチローにケガをさせた。けしからん」ということで悪ノリしたわけだが、貼り紙だけではなく、ロッカーのネームプレートを外し、彼の荷物をバッグに詰めてロッカーをきれいにするなど、なかなか手がこんでいた。
こういうとき、マーリンズの若い選手らの感覚というのはユニークだ。彼らは、トレーナー室を訪れ、治療を受けているイチローの写真を撮り、治療に使った手袋を記念に保存したというから、大はしゃぎだった。
ちなみに過去、イチローがケガなどでトレーナールームを訪れたのは、4回ほどではないか。
2002年4月、セーフコ・フィールドのフェンスにひざをぶつけて4針縫った。09年3月、野球の国・地域別対抗戦のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)から戻って来たイチローは、オープン戦の試合中に体調不良を訴え、胃潰瘍と診断された。