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第二話
こんな駄文を読み、更にはブクマにして下さった方に心から感謝します。
言ってることは重いですけど、別に重く捉えずに。
軽い痛みを感じ、私は少し呻き、ゆっくりと瞼を開ける。
「あぁ良かった。やっと起きてくれた」
水に濡らしたタオルを持って私の前に現れたのは、あの時、あの黒い人形の前に現れた白い鎧に黒い髪の女性だった。
「具合はどうだ?まだ痛むか?」
女性はタオルをベッドの横にある棚に置くと屈んで私の顔を心配そうに覗き込む。
そのとても綺麗な顔が私の目の前まで迫ってきてドギマギしながら私は大丈夫だと告げる。それを聞くと女性はホッ、と胸を撫で下ろし棚の前にある小さな椅子に腰掛け微笑む。
「良かった……。間に合った……」
「あの、貴女は、誰なんですか……?」
助けて貰っておいてこういう事を聞くのは何だが、名前も知らないのだから呼びづらくて仕方が無い。それに、あの時言いかけていた言葉も気になる。聞きたいことがあるのに名前を呼べないのは不便であるから、しかし助けて貰っているので私はなるべく控え目に女性に名を尋ねた。
「……あぁ、確かに名乗っていなかった。それは失礼した。私の名は、謙信。上杉謙信だ」
「う、えぇ!?謙信って、男じゃ!?」
「うん。そうなんだ。だけど、私は諸説ある内の一つ可能性から生まれた、謂わば偶像のような存在だ。まぁ、それ以外は全てオリジナルと同じなんだけどね」
名前を告げられて慌てる私に検診と名乗った女性は優しく諭すように己の身の上を話す。その話の中で幾つか言葉が引っかかった。
「一つの可能性……?」
「そう、一つの可能性。歴史学者や探検家、考古学者なんかがよく色々な論文を発表したりするだろう?それによって生じた、こうであるだろうという推理、理想、願い。それを元に私のような存在が生まれる」
「その、生まれるって、一体どこから?」
私がそう質問した途端、謙信は押し黙り、唸る。返答を待っていると謙信は大きく息を吸って吐き出すと綺麗な動作で頭を下げてきた。
「すまない。それを言うわけにはいかない。それは、この戦いそのものに関することだから……」
「そう、ですか……」
私はその答えに少しだけ残念に思ったが、仕方ないと飲み込む。だが本当に申し訳なさそうと思っているのか謙信は私が上げてくれと頼んでも中々頭を上げてくれない。
「ああもう、上げてよ。別に言えないならそれでいいから」
私はベッドから起き上がり頑として頭を上げようとしない謙信の顔を持って上にあげさせる。上げたその目にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
「追求、しないのか?」
「何が?言えないならそれでいいって言ったでしょ。ならそれで終わり。何となく聞いただけなんだから絶対に聞きたいとは思ってないもの」
「そう、か……。なら、この話はこれで終わりにしよう」
ゴシゴシと目元を擦ると謙信はニコリと笑って私の手を取り、立たせてくれる。
「では取り敢えず、この校舎から出ようか」
謙信のその提案に私が頷くと謙信は私の手を握ったまま先導するように私の手を引いて歩き出し、あの時開かなかった玄関の扉をすんなりと開けて校庭を横切り、敷地内から出てどこかに向かって歩き続ける。
「あ、あの、どこに行こうとしてるの?」
私の問いに謙信は答えず、無言のまま私の手を引き歩き続ける。気になって覗いた顔には若干の焦燥が見え、一体何を焦っているのか余計に気になり尋ねる。
「何を焦ってるの?」
「敵だ。見られている」
敵という言葉に私は咄嗟にあの人形のことを思い浮かべるがこの焦り方を見る限り、そうではなくまた別の脅威であることが見て取れる。
路地を曲がり家を一件挟んでまた曲がり、兎に角通りや路地を曲がり撒こうとするが、謙信の手から伝わる焦りはどんどん強くなっていく。
「御二方。一体どこへ往かれるか」
家の影から私達の行く手を塞ぐようにポニーテールで、弓を持ち、最低限の防具だけをつけた少年と、その後ろに同じ黒髪ポニーテールの、黒コートを着てベルトに鞘に入れたナイフを二本付けている少女が現れた。
「主、下がって」
謙信は彼女達と私との間に体を割り込ませ私を庇うように立ち、腰の日本刀の柄に手をかける。
「貴様、何者か」
「先に問うたのはこちらである、そこの女武者。答えよ」
「名乗らぬ不敬な輩に名乗る程殊勝では無くてな。我が名を聞くならばそちらから名乗られよ」
「押し問答。無益。やって」
謙信と少年の会話を聞いていた少女は二人の会話をばっさり切り捨て、少年に指示を出す。その直後、少年は小さく了承の意を口にすると目に捉えられない速度で弓に矢をかけ三本同時に射る。
謙信はそれらを全て鞘のまま弾き飛ばし、柄を握り締め少年に特攻をかける。
謙信が横に切り払う。少年は仰け反りギリギリで躱しその体勢のまま矢を番えて射つ。謙信は飛んで避け、少年の後ろに回り込み切り上げるがしかし、少年は前に飛び逆さで矢を射つ。それを顔を右に動かして躱し斬り掛かる。
人を超えた動きをする二人。その激戦に私は見惚れ、ただただ呆然としていた。そこに突然真横から声をかけられ背筋が凍る。
「傍観してる暇、ある?」
そう呟いた瞬間、私の首筋を狙ってナイフが振るわれる。私は反射的にしゃがみ込んでそれを奇跡的に回避し、少女から距離を取る。
「な、何で……!?」
「『何で』?理由なんて、最初から知ってるでしょ?惚けてるの?」
無表情のまま少女は駆け、私へナイフを何度も振るう。
腕や肩、太股などを斬られ血を流し、私の着ている白いセーラー服は更に血に染まっていく。
「痛い……、力、入らない……」
「終わり」
血を流しすぎたせいで私は膝から崩れ落ちて地面に四つん這いになる。それを少女は何も宿さない空っぽな目で見つめて短く告げるとナイフを構え、全体重をかけて私の首へ突き立てようとした瞬間、その少女の右肩を刀が貫いた。
「我が主を瀕死としたその罪、死程度の生中なものではないぞ、小娘」
淡々とした声色で話す謙信。しかしその声の中に含まれるのは明らかな怒気。その無機質的な話し方はそれを上辺だけ取り繕って冷静に見せかけ、何とか己を自制していた。
少女は謙信から離れ謙信の後ろを見て絶句する。謙信の後ろには両手足の関節を斬られ、その場で倒れ蹲る少年の姿。少年はその端整な顔に悔しさを滲ませ、しかし何も出来ずその場で生かさず殺さずの状態である屈辱に身を晒している。
「去れ。今ならば見逃してやろう」
謙信は少女の首に刀を向け警告する。少女の頬に汗が一滴流れ、刃の切っ先を憎々しげに見詰めながら一歩後ろに飛び、コートのポケットから淡く青く光る菱形の結晶を取り出し、少年に命じると少年は青の粒子となり、結晶の中に吸い込まれていき若干青かった結晶の色が完全な青になる。
青い結晶をコートのポケットに仕舞うと少女は一度私のことを激しく睨みつけ、その場から消え去った。
「え……?消えた……?」
「主!!」
少女の姿が消えたことに驚いていると謙信が刀を鞘に納め、片膝を立てて私の負傷している部分に手を翳し、その手から緑色の光が発せられると痛みと共に傷口も塞がっていく。
「主、貴女はもう少し気を張っていた方がいい。私は確かにこうして治すことが出来るがそれは生きていればの話だ。死んでは元も子もないし、それに戦場で傷ついたものをその場で治すことなど武士である私には無理だ。主には自己防衛できる力もない。ならば、気を張り気配に敏感である程度は出来ても良いだろう」
謙信からの説教を受け、私は項垂れるが、まず私に何が起きているのかを知らないのだから、気を張るどうこう以前に、それを解明しなければ対策のしようもない。
「ねぇ、一体何が起きてるの?」
思えば今更過ぎる問いではあった。あの黒人形に襲われ謙信が現れた辺りで疑問を持つべきだった。この、非日常的な今までの出来事、それについて考える暇がなかったと言えば確かになかったが、それでも感じるくらいは出来ただろうと少し反省する。
そして、問われた謙信は目を丸くし、信じられないような目をして私に聞き返してきた。
「主?何を言っている?まさか惚けてるのか?」
「それさっきの女の子にも言われた。もし本当に惚けてるなら同じこと聞かないでしょ?」
「なら、本当に何も知らないと?」
こくん、と頷くと謙信は驚愕し大きく溜息をつく。そして何やら悪態をつくと私に向き直り、この異常なことについて説明をし始めた。
「魔道士達が、人の力では叶わぬ己が欲、願いを叶える為に同じように願いを持つ魔道士を殺し、その願いのエネルギーを集約し、髑髏を入れた器を満たすことで、神を卸し願いを叶えてもらう戦いを『聖戦』と言い、それに私達は参戦している。
そして私や先程の少年は『英霊体』と呼ばれ、主となった者の願いの塊であり、私達を倒すことによって器にエネルギーが満たされていく仕組みになっている。
器を満たし願いを叶えるならば我ら英霊体を倒せばそれで済むのだが、魔道士を放っておけば違う魔道士との対決中に後ろからの不意打ちや闇討ちで殺されかねない。故に、聖戦では英霊体も、その契約者も殺すことになっている。まぁ、そうすべきというだけで、明確なルールという理由じゃないからしなくてもいいけどね」
理解出来た?と謙信に聞かれ、私は少ししてからゆっくりと頷く。
「良し。じゃ、傷も治療出来たしまた移動し始めようか」
私の手をさり気無く手に取り私のことを引っ張り立たせ、そのまま、また先程と同じように手を繋いだ状態で歩き出す。
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