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異世界迷宮の最深部を目指そう 作者:割内@タリサ

7-3章.愛よりも命よりも

367/367

間違えました。

すみません。そのうち、違うネタで埋めます。

4.チュートリアルと魔法


 『持ち物』の整理は足を止めなければ行えないが、他のことを試すのは歩きながらでもできた。どうしてか妙に冷静な僕は、思い当たるワードを呟きながら、暗い回廊を歩く。

「――ステータス、ヘルプ、マップ、セーブ、ログ、チャット、ログアウト、ログイン、スキル――」

 新しく『表示』されるものはないかと、手当たり次第に基本的なワードを思い浮かべていく。

 一番表示してほしいヘルプに反応はなかった。あとオンラインゲームにあるようなログやチャットに関しても、全く反応がない。反応があったのは『マップ』と『スキル』。

 『マップ』はマス目で作られた簡易的なものが出てきた。だが、どうも自分が通った箇所しか表示されないようだ。迷う心配がなくなったのはいいことだが、状況が進展するものではない。
 ただ、『スキル』に関しては、かなりの収穫が見込まれそうだった。


【スキル】
 先天スキル:剣術1.01 氷結魔法2.00
 後天スキル:次元魔法5.00 
 ???:???
 ???:???


 『???』と表示されたものが二つ。
 ここにきて、このシステムを考案した者(人か神かはわからないけど、『者』と暫定的に表しておくことにする)は出し惜しみしているようだった。もしくは、別の思惑があるかもしれないが。

 というか、普通に『魔法』があった。
 いつの間にか、僕は魔法使いになっていたようだ。当然、嬉々として『魔法』『マジック』などのワードを思い浮かべて『表示』させる。


【魔法】
 氷結魔法:フリーズ1.00 アイス1.00
 次元魔法:ディメンション1.00


 何もない覚悟はあった。
 だが、三つも魔法が『表示』されたのを見て、僕は小躍りしたい気持ちになる。
 なぜ、そんな魔法が使えるのかはわからないが、使えるものは使おうと思う。
 ゲーム的に初期スキルがいくつかあるのはおかしいことじゃない。

 ゲーム的には、だけど……。

 僕は試し撃ちをすることを決めて、《アイス》を選択する。

「えーっと、出ろっ! ――氷結魔法アイス!」

 叫び、手をかざした。
 期待したのは氷の飛礫が手から飛んでいく光景。

 魔法を宣言したあと、何かが抜けていく感覚がした。そして、手のひらが冷たくなっていき、その抜けた何かが集まっていく。集まっていくのだが……あまりにも遅い。

 集まるのは小さな氷の粒。
 おそらく、空気中の水分が集まった上で、分子運動が静まっていき、凍っていっているのだと思う。だが、十秒ほどかけて成立した魔法《アイス》は、手のひらサイズの氷が一つ発生しただけだった。
 ちなみに、飛んでいってなどいない。どう見ても攻撃手段にはなりえそうにない。

「…………」

 魔法とは一体……。
 うごごごご……。

 これは生活魔法にでもあたるのだろうか。
 これまでの流れから僕は、モンスターの対抗手段になる派手なものを期待していたので、残念でならなかった。

 ただ、氷がせっかくできたので、『持ち物』から死体の服を取り出して、綺麗なところだけを切りだして、簡易的な氷のうを作った。――作ったが、火傷跡にあてたところ鈍痛が発生したので、すぐ捨てた。

 続いて、僕は《フリーズ》の試し撃ちを行う。

「――魔法《フリーズ》!」

 だが、似たような結果だった。
 とても緩やかに僕の周囲の温度が下がっていくのを感じた程度だ。

 最後の《ディメンション》に関しては悩んだ。
 ディメンションという言葉は確か、寸法や次元といった意味だった気がする。
 先ほどの氷結魔法の前例から、その言葉の意味に関した効果が現れると僕は予測している。
 ワープゾーンでも現れて、この迷宮から出られるかもしれないと思ったが、この状況を完全打破できるような魔法が最初からあるのは考えにくいことだった。効果を明確に想像できない以上、この魔法を使うことは控えた。ぶっちゃけると、下手すればブラックホールとか出てきそうな気がして怖い。 

 ただ、これで魔法の試行錯誤は中断ではない。
 せっかくなので、違う魔法も想像していく。

「――えーっと、回復魔法、白魔法、魔法取得、新しい、新魔法、応急手当、火傷、治す――」

 全くもってヒットしなかった。
 どうにかして回復する系の魔法が欲しかったのだが……どうにも、僕にはそういったものが用意されていないようだ。だが、その中でおもしろい『表示』が現れた。


【ポイントの割り振り】
 剣術1.01 氷結魔法2.00 次元魔法5.00
 現在のスキルポイントは0です


 ゼロらしい。
 おそらく、レベルの上昇と共にポイントが溜まっていくのだろうが……。
 レベル……?


【レベルアップメニュー】
 805/100
 条件を満たしています


 さきほどのステータス画面の『表示』の際、経験値の欄があって、分子が分母を上回っていたことを思い出した。案の定、レベルアップが可能になっている。

 しかし、「条件を満たしています」という表記には嫌な予感がする。
 自動レベルアップではなく、任意レベルアップである可能性が高い。
 さらに、その方法がシビアな可能性も高い。

 とりあえず、任意レベルアップの方法を探そうと思った。

「できるなら、レベルアップをおねが――っ! っ!!」

 そのとき、唐突に右腕に熱が走る。
 ふと見ると、上腕部が切り裂かれ、血が出ていた。

「――っ!?」

 すぐさま、周囲を見回す。

 僕は視界の隅に動くものを捉えた。
 それは『歪み』だった。
 宙に人間の頭ほどの大きさの『歪み』が浮き、小さな羽音と共に揺らめいている。
 よく観察すると、その『歪み』のシルエットは虫に近い。

「モンスター!?」

 すぐに思考を切り替える。
 それは現実が普通でないからこそ、自分を見失っているからこそできる切り替えだった。
 日常生活を行っているときのそれ・・から、ゲームをしているときのそれ・・に切り替える。麻痺しかけていた脳が、ゲーム的な効率に特化されていく。

「このっ――!」

 僕は反射的に、手に持った剣を下から斬り上げた。
 しかし、それは『歪み』に直前でかわされる。

 かわされたことを確認した僕は、すぐに駆け出す。
 来た道を戻るように、『歪み』から距離をとる。

 一撃目をかわされた場合。もしくは、耐えられた場合――そのときは絶対に無理をしない――そう僕は前もって決めていた。

 未開の道ではなく、一度通った道を僕は戻っていく。
 後方から羽音が僕を追いかけているのが聞こえ、冷静に距離を測る。

 僕を追いかけているのだから当然だが、敵の方角は真後ろ。
 なら、あとはタイミングだけ。
 いまある材料で反撃できる。

 僕は頭の中で反撃の方法を固めていく。
 ゲームだから駄目と言われるかもしれないが、その方法を試す価値はあると思った。

 敵が近づいてきたところで、すぐに『持ち物』から水の入った皮袋を取り出し、中身を全て後方にぶちまける。

 羽音が乱れ、金切り声が響いた。
 羽を持った生物ならば、水に弱い可能性は高いと僕は踏んだのだ。
 そして、ゲームの虫だからという理由で通用しないことはなかった。『歪み』の輪郭がはっきりと見え始める。さらに、その動きは明らかに鈍り始めていた。

 それを確認して、僕は静かに魔法を放つ。

「――《フリーズ》」

 ただ、温度を下げる魔法だが……この調子だと、敵は温度差にも弱い可能性がある。
 僕は魔法を使い、距離をとって終わらせるのが最も安全だと判断した。

「凍れとまでは言わないけど、地面に落ちてくれないかな……」

 『歪み』は悪あがきのように僕に向かって飛ぶ。
 しかし、その動きは弱々しく、僕の元まで辿りつくことはなかった。その様を僕は『注視』し、何も見逃さないようにする。


【モンスター】
 ダークリングフライ:ランク2


 そこで『表示』が発生する。
 『表示』は『歪み』を指して、その情報を表している。

 ……ひどい。

 正直言って、これはひどい。
 おそらく、このダークリングフライさんは姿を消すことを武器としたモンスターだろう。にもかかわらず、『表示』は遠慮なく、モンスターはここに居ますよと指し続けている。

 もはや、攻撃を受ける要素はなかった。
 時間が経てば経つほど鈍くなっていく『歪み』を、適当なところで剣を使って叩き落とす。

 落ちた『歪み』は光と共に消え去り、くすんだ透明の石が残った。

 ちなみに石は『十位魔法石』と『表示』されていた。経験値の変動も確認し、総合して『ダークリングフライ』は下位のモンスターだったと判断する。

「ん、んー……。ランク2のモンスターに道具やMPを使うのはもったいなかったのかな……?」

 僕の残りMPは68になっていた。
 まだまだ残ってはいるが、無駄遣いすればどうなるかはわからない。

 僕は戻った道を進み直し、未開の回廊を進んでいく。

 その途中、レベルアップの調査を再開する。
 ただ、数分ほどかけて調べた結果――結局、レベルアップはできなかった。
 レベルアップをするためには何らかの特殊な条件を満たす必要があるようだった。
 経験値だけが過剰に溜まっているので、歯がゆい気持ちになる。

 調査が終わったあと、次は先ほどの戦闘を思い返す。
 視認の難しいモンスターによる奇襲だった。これがランク2ではなく、もっと凶悪なモンスターだったならば、僕は命を落としていただろう。

 『表示』に関して試すのは、安全を確保してからのほうがよさそうだ。
 でないと注意が散漫して不意をつかれてしまう。

 そんなことを考えながら歩いていると、遠くから物音が聞こえてくる。
 進む方角の先、そこには巨大な虫が佇んでいた。

 そいつは僕がここに来て、最初に出遭ったモンスターだった。
 その異形の二本の角が特徴的な巨大昆虫を『注視』する。


【モンスター】
 リッパービードル:ランク3


 名前から攻撃手段を判断できそうだが、先入観を持って動かないほうがいいだろう。
 僕は何が起こっても対応できるように、中腰となる。
 リッパービードルもこちらに気づいているようで、じりじりと距離を詰めてくる。

 ランク3ということだが、どれほどの危険度を隠しているかはわからない。
 しかし、ランク2のあっけなさを見たばかりの僕は、ランク1から5くらいならば膂力に任せた剣だけでも大丈夫ではないかと考えている。

 リッパービードルはある程度の距離を詰めたところで、唐突に突進してくる。
 しかし、巨大な狼と比べると段違いに遅い。
 すれ違いざまに僕は剣を振り抜く。

「っせい!」

 鉄と鉄が打ち合ったような甲高い音が響き、剣は弾かれた。
 斬った箇所が悪かったかもしれない。けれど、こんなに重い刃物が、こうも簡単に弾かれるとは予想外だった。格好つけて「っせい!」とか言ってみたものの、二重の意味で歯が立っていない。

 ただ、敵の動きに関しては、さほど問題はない。
 あの巨大狼よりも、あの少し憐れな『ダークリングフライ』よりも、格段に遅い。
 僕は頭の隅で考えていた別のプランを実行するために、『持ち物』から道具を一つ取り出す。

 その間も、リッパービードルは突進を繰り返すだけだった。
 その突進を僕は避ける。
 もちろん、避けるだけではない。一度目は避け様に油をリッパービードルに浴びせ、二度目でライターを使って火をつけた。

 火をつけるのは何度か挑戦しなければならないと思ったが、運良く一度で成功した。
 リッパービードルは火達磨になり、のたうちまわりはじめる。

「う、うわぁ……」

 高温により関節が抜けて、手足が外れていくリッパービードルを見届ける。
 無脊椎動物のようなので、高温に弱いようだった。すぐに動かなくなったので、剣で色んなところをつついているうちに光となって消えた。
 同時に、ぽとりと石が落ちる。

 今回のモンスターが落とした黒い石を『注視』すると――


【黒蟲石】
 通常の魔法石とは違い、虫属性の魔力で構成された魔法石
 等級は存在せず、虫のモンスターからならば、どのモンスターからでもドロップする


 しょ、詳細が出てしまった……。
 この『表示』って、詳細も見れるのか。
 便利過ぎる。

 すぐに僕は不明だったものたちの詳細を調べていく。

 まずは装備品からだ。
 エルフェンの外套やオーリアの大剣といった名前が長い物は、どうやらちょっとした加護がついているようだった。エルフェンの外套は高温や低温から身を守り、オーリアの大剣は自分より格上と相対した場合にボーナスがつくらしい。

 その数値がどれほどの影響を及ぼすかはわからないが、どうもアイテムには攻撃力や防御力が設定されてあり、詳細を見るのは大事だとわかる。

 そして、最も気になっていた魔法の詳細を見る。


【ディメンション】
 消費MP1
 次元魔法の基礎。術者の力量に応じた分だけ、空間把握を補助する


 単なる補助魔法だった。
 願わくばワープの様な魔法で元の世界に戻りたかったが、そこまで都合よくはなかった。

「――次元魔法《ディメンション》!」

 とりあえず、どういったものかを確認してみると――魔法名を告げた瞬間、途端に五感が研ぎ澄まされる。
 さらには第六感と呼ぶべき『五感ではない何か』が周囲の情報を拾っていく。
 おそらくは半径五メートルほど、はっきりと空間を認識できるように感じられる。

「こ、これはいい……!」

 様々なアドバンテージを得てきた僕だが、この魔法が最も素晴らしいものであると理解する。
 何よりも、策敵能力が格段と上がるのがいい。
 命の危険が、ぐっと下がっていくのを肌で感じる。

 僕は《ディメンション》の効果時間を計りつつ、その異様な策敵能力を駆使し、迷宮を進んでいく。

 ときには拾い物をしながら、ときには新たなるシステムを試しながら――歩いていく。

 《ディメンション》が働いているときに不意を突かれるということはなかった。
 効果の及ぼす領域内ならば、生き物を見逃すことは絶対になかったからだ。

 《ディメンション》を駆使することで、僕はどんどん『マップ』を把握していく。
 これまでの何倍ものスピードだ。

 ――ただ、それは僕から油断を生むのに、十分な要素だった。

 圧倒的に有利な魔法を手に入れて浮かれてしまった。
 このゲーム的迷宮について考え抜き、最善を実行していると僕は過信してしまった。
 事態が悪化したのは歩き始めて三十分を過ぎた頃であった。


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