美術館や美術展って言うと、なんとなく堅苦しい、静かにしなければならない様な気がする。
絵画がずらっと並んでいる中を、難しい顔をしながら一つ一つ見ていく。
そんな固定観念と言うかイメージがあった。
だた、そんな硬いイメージの美術展から一転してラブリー(か、どうかは解らないが)な印象に変わった展示会がある。
毎年、東京・上野の”上野の森美術館”で1月弱開催されている現代美術の展覧会だ。
訪れる度に、新鮮な驚きを与えてくれるので足繁く通っている。
そんな展示会が今年も3月11日~30日まで開催されるので、非常に楽しみだ。
各種賞を受賞した作品も楽しみだが、惜しくも受賞を逃した作品群も 突き抜けた 斬新な作品が多いので目が離せない。
「美術展とか退屈すぎる」
「現代美術とか、意味がわからん」
「ワケ解らんモンを見て、何が楽しいねん」
当初、現代美術展を見に行く前は当然そう思っていた。
ただ、実際に足を運んで見に行くとワケが解らんモンが最高に楽しくなる。
そんな不思議な展示会が今年24回目を迎える”VOCA展”である。
--目次--
VOCA展とは
VOCA展では全国の美術館学芸員、ジャーナリスト、研究者などに40才以下の若手作家の推薦を依頼し、その作家が平面作品の新作を出品するという方式により、全国各地から未知の優れた才能を紹介していきます。
開催日:3月11日(土)~3月30日(木)
休刊日:無休
開館時間:10時~18時 (入館は閉館の30分前まで)
観覧料:一般600円(前売り券:500円) 大学生500円 高校生以下無料
【公式Webサイトより】
VOCA展とは”The Vision of Contemporary Art -現代美術の展望-”の略で、応募するのは一定の年齢以下の作家に限られる。
それによって、新たな才能の発掘を目的としている。
美術業界の事は不案内だが、30・40代はまだまだ”若手”と言うのが業界の常識なのもしれない。
本当に一握りの才能に恵まれた人のみが脚光を浴びると思われる業界だけに、その厳しさが伺える。
そんな業界の中で、若手の発掘を目的とする”VOCA展”を個人的にも応援したい。
何かと高齢化が叫ばれる昨今、若手の育成へ余念が無い事は歓迎すべき事だと思う。
公式Webサイトからは、選考委員の方の所感を読む事が出来るが、既にここから現代美術の鑑賞は始まっていると言っても過言では無い。
実際に、美術館に足を運ぶ前に、気になった所感をいくつかピックアップしてみたい。
本江邦夫(多摩美術大学教授)
コンセプト、画材、寸法の点でここまで拡散・逸脱したVOCA展はちょっと記憶にありません。混沌とした世相の反映なのでしょうか? それでもどこか焦点をずらしたような幸田千依さん(VOCA賞)の海を見下ろした広大な眺望には「風景」としての新味を、また青木恵美子さん(佳作、大原美術館賞)の、赤を基調とした抽象的な色面と側面にのみ彩色を施した一見透明なアクリル板を対比させた作品には画家としての志の高さと「絵画」に寄せる希望を感じました。
【公式Webサイトより】
”コンセプト、画材、寸法の点でここまで拡散・散逸”と言う冒頭の文から既にエンジン全開である。
画材は良いと思われるが、選考委員をもって「コンセプトが散逸」と言わしめる作品とは何か? 気になる。
さらに、そこから「混沌とした世相の反映なのでしょうか?」と、連続攻撃へと続く。
まさかの”混沌”と書いて”カオス”な所感である。
ファンタジー小説などではお馴染の言葉であるが、多摩美術大学の教授をして「混沌とした世相を反映」と言わしめる作品とは何か? やっぱり気になる。
(混沌と言われると何やら不安な気持ちになる)
光田由里(DIC川村記念美術館学芸員課長)
カジュアルな方法で世界の断片をとらえ、それを読み込んでいく。軽い絶望のあとで作り始める、そうした態度が作品を集めた会場から感じられた。制作物を写真に撮って平面にする鈴木基真、上田良作品の、空間のレイヤーには読まれるべき細部が豊富にある。村上華子の写真の写真、青木恵美子のアクリル板には、小野さおりの鏡の絵のフェイクさと共振する、写す事への否があった。幸田千依の奥行きある風景に、アニメーション映画を思わせる生気を感じた。
【公式Webサイトより】
”カジュアルな方法で世界の断片をとらえ”と、冒頭からこちらの気勢を制してくる。
具体的にどんな作品かは、来場してのお楽しみであるが”世界の断片を捉える”と言われる表現とは何か? すげー気になる。
そして”カジュアルな方法で”と、ややキャッチーな文で始まった所感は突如”軽い絶望のあとで作り始める”と急転直下、一挙にダークネスな雰囲気を帯びてくる。
カオスだったり絶望だったり”現代美術の展望”と言う、前向きかつ明るい展示会名とは裏腹な所感である。 半端無く気になる。
更に"空気のレイヤー”や”フェイクさと共振”や”写す事への否”など独特すぎる表現が続く選考所感は、もはや言葉の乱打戦の様相を呈している。
(意味はともかく、ちょっと使ってみたい言葉である)
過去のVOCA展 展示作品
混沌とした世相や空気のレイヤーだったり、美術は作家と鑑賞者の高度な心の読み合い合戦だ。
作家は思う事や自分が伝えたいメッセージを作品に込めて世の中に送りだしているので、そこを如何に読み取るかが楽しい所だと思っている。
通常、自分の意思を伝える場合はブログに代表される様に、文章で伝える事が一般的だ。
ただ、VOCA展に参加する作家の場合は伝えたい事を文章ではなく”美術作品”に置き換えて、表現している。
従って、文章とは違う”読み取り方”が必要になる、のだと素人ながら思っている。
今年のVOCA展に行く前に、過去の出展作品から特に印象深かった物を見てみたい。
shining mountain/climbing the world#03-1~03
作:大橋のぶゆき
材質:液晶ディスプレイ、ビデオ
まず注目すべき、と言うか嫌でも目に入るのはこの作品は絵画では無い。
業界的にはどうか解らないが、美術展=絵画を思い浮かべるので美術展で液晶ディスプレイが3台並んでいるのに度肝を抜かれる。
更にディスプレイに写っている映像にも更に度肝を抜かれる。
展示内容は水彩絵の具で水槽の内側に山の絵を書き、そこにスキーをしている人や小学生のフィギュアをくっつけ、水を貯める。
時間経過と共に絵の具が徐々に水に溶けていき、少しづつ山が消えていくと同時に、フィギュアも落下していく。
と、言う様子を撮影するのだ。3台とも。
わざわざ水彩絵の具で水槽の内側に書いた絵を、水を入れて徐々に消していくとか二度手間じゃん、とか人の形したフィギュアが山から落下していくのが作品とかどんだけひねくれてんだ、とか考える事は多い。
「ディスプレイに写しているので平面です」ってじゃあ、なんでも映像にしたら「平面」になるやん、と思う事が最大のポイントだと思う。
ちなみに1枚の撮影に関して納得がいかないとやり直しをしたとの事なので、なんだかんだと数十枚書いた上での作品なので非常に手間が掛かっている。
3台のモニターに映される無音の世界で徐々に消えて行く山。
ランダムに落下する人々。
それらが一体となって、独特の無常観を誘う。
水の中なのでまっすぐに落下する訳じゃなく、ゆっくり回転する様に落ちて行く人が逆になんとも言えないリアルさを出している。
◆【参照ページ ※youtubeの映像は実際よりも早くなっています】
VOCA展2013 佳作賞 大﨑 のぶゆき 「shining mountain_climbing the world」 - YouTube
Mobile Number : Hole
作:橋本聡
材質:番号を紙に印刷、マスキングテープ、壁紙、その番号を見た者
展示内容は携帯電話の番号を印刷した紙一枚。
冗談だか本気だかわからない作品、と言ったら失礼であるが何の情報も無しに始めてみると「え……?」ってなる。絶対になる。
夏休みの工作は時間が無くて出来ませんでした的な、一種の開き直りすら感じる。
が、そこはVOCA展出展作品。
夏休みの工作じゃないから、ちゃんと意味があるのである。
携帯電話の番号を見ると掛けたくなる人と掛けたくない人と2種類に別れる。
その時に電話を掛るか? 掛けたらどうなるのか? 何が聞こえるのか?
掛けた場合にあるのは恐怖か? 掛けたい好奇心を抑えられるのか?
その心の動きまで含めた事が作品なのだ。
"見た人の心の動きまで含めて完成"とか、もはや平面に対してアナーキー過ぎる。
作品本体は確かに平面だけど携帯電話使ったり、それを見た人が居たりするから三次元……?
いや、見た人の心の動きまで含めてとか四次元? 五次元?
平面とは何か?
何をもって平面とするのか?
考えれば考える程、平面の定義がゲシュタルト崩壊する。
(画像はイメージだが、本当にこんな感じの展示なのである)
VOCA展2017 現代美術の展望─新しい平面の作家たち
過去の偉大なる平面への挑戦者からも解る様に、VOCA展の”平面である事。平面であろうとする事”への挑戦は半端では無い。
過去の展示内容を2つ見ても、一筋縄で行く展示会では無い。
この2つにしても恐ろしいが、今年の展示は当然、それらを踏まえた上で製作・選考された作品である。
美術作品に貴賎や上下の区別は無いと思うが、先に紹介した作品より更にパワーアップし、更にアナーキーに、そしてカオスな作品が展示される事だろう。
現代美術は単純に見るだけでも楽しいが、その背景や製作者の心、考えを作品から想像するのも楽しい。
そう言う意味では、見た目と想像で2度楽しめるとも言える。
VOCA展は期間限定ではあるが、各都道府県にも現代美術館が点在しているので、見に行くと新しい発見があると思う。
未知の、全く自分が予想もしていなかった物を見た時に、自分がどんな反応をするか? どんな感情が生まれるか?
そう言う意味では”見て・感じて・考えて”3度楽しめる娯楽だと思うとまた感慨深い。
それでは、また。
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上野の森美術館
VOCA展2017
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