必要なのはストレスとリラックス
さて、前章では集中するための「三つのテクニック」を述べたあと、「フロー」と呼ばれる超集中状態について簡単に説明しました。そこで質問です。「三つのテクニック」が何だったか覚えているでしょうか。ほとんどの人の答えが「ノー」でしょう。安心してください。わたしもほかの人が書いた本であればまったく同じだと思います。自分の本なので覚えています。
① 気を散らせるモノを遠ざける
② いやいや始めない
③ 終わりの時間を決める
こうして見ると「あーそうだった!」と思い出しますね。たった三つも覚えられないなんて、集中力が足りない……と自分に失望しないでください。ここまではあくまで集中するためのキホンの「キ」のご紹介でした。なので、できなくて当然といえば当然で す。
まず覚えておいてもらいたいのは、フローをつくるには、ストレスとリラックスの両方が欠かせません。おそらくこれは、感覚としてわかってもらいやすいと思うのですが、たとえば締め切り前などは「ヤバい!」と強いストレスがかかります。
しかし、そのままでは慌てふためくだけで、目の前の作業に没頭することはできません。そこで必要になるのが、「まあ、別に間に合わなくても死ぬわけじゃないしな」というある種のあきらめです。つまり、強いストレスを感じたあと、一気にリラックスすると「すーっ」と仕事にのめり込むことができる。実際、そんな経験はないでしょうか?
わたし自身も誤解していたのですが、ストレスとリラックスは、真逆のものだと思われています。つまり、ストレスが上がるとリラックスは下がり、その逆もまたしかりだと。しかし、ストレスとリラックスは共存できるもので、両方とも高い状態が、フローだと考えられています。
ところで、「強いストレス」を感じたあと、「一気にリラックス」すると脳内ではどのような作用が起こっているのでしょうか? 二つの説が有力とされています。ここで少し脇道にそれて、「フロー脳」について見ていくことにしましょう。
フロー状態のとき脳で何が起きているのか?
まず、古典的な説明から見ていきましょう。ここでご登場願うのは、ハーバード大学医学部のハーバート・ベンソン教授です。おそらくですが、フローについて最初に研究を行ったひとりです。
もともとリラックスの専門家だったベンソン教授は、ある時期から彼が「ブレイクアウト」と呼ぶピーク体験に関心を移していきました。本書でいう「フロー」ですね。すでに、古典的な研究から、ある一定程度のストレスがあったほうがパフォーマンスは高まることが知られていました(ヤーキーズ・ドッドソンの法則)。しかし、ストレスは高まりすぎてしまうと、今度は逆効果になってしまいます。
「ストレスのよい部分だけを取り出すことはできないだろうか?」
そう考えたベンソン教授は、実際に調べてみることにしました。その結果、ストレス時にリラックスすると、体内には大量の酸化窒素が流れ込み、それがストレスの悪い側面を抑えてくれることを見出しました。つまり、ストレスのあとにリラックスすることで、 次の図でいう「山頂」にとどまることができるのです。
さて、次に見ていくのは最近の説です。聞きなれない単語が多く出てきますが、なんとなく理解していただくだけで十分です。
まずフローの話をする前に、一般的に「普通」のとき、脳内で何が起きているのかをご説明します。キーワードは、「シータ波」「ベータ波」「アルファ波」です。何やらカタカナが多くて混乱しそうですが、要はこういうことです。
シータ波(新しい刺激/情報を処理する)
↓
ベータ波(その刺激を分析する)
↓
アルファ波(行動に移る準備をする )
わたしたちの脳は、このように異なる波を入れ替えながら、外界の情報を処理・分析し、行動に移しているわけです。
では、フローのときはどうでしょうか? 最近の研究によれば、フローのときはとても面白い状態になっていて、「高シータ波」と「低アルファ波」が同時に出ている状態になっているそうです。別の見方をすれば、フローのときは分析を担当するベータ波が登場していないので、理性が落ちた状態ともいえます。 理性というのは、ある意味「森より木を見る」ということなので、フロー状態のときは「森を見る」大局観が働いているともいえます。実際、フロー状態は、クリエイティブなひらめきやアイデアが生まれやすいと指摘されています。
これ以上カタカナは勘弁してくれと思われるかもしれませんが、ご興味がある方もいらっしゃると思うので、もう少しだけ説明させてください。じつはフローに入っているときは、「ガンマ波」という第4の脳波が出やすいといわれています。これはひらめきの下準備をする脳波です。
そもそも「ひらめく」とは何でしょうか?
そんなことを研究している科学者がいます。それによると、ひらめく0・3秒前にガンマ波が出て、新しいアイデアが生まれると報告されています。