日本でバル業態が爆発的に流行り始めたのは、ワインの需要が高まった約10年前。気軽に寄ってワインを楽しめる、おしゃれな内装の立ち飲みバルなどが一気に増えていきました。
今ではワインに限らず「コスパがよく、フラッと寄ってお酒を飲める洋風居酒屋」スタイルの業態を総称して「バル」という言葉が使われています。日本酒バル、餃子バル、から揚げバルなど、その種類も個性的なものが増えてきました。
酒好きな自分にとっても、気軽に入って安く飲めるバルがたくさんできるのは嬉しいことです。しかしあまりにも幅広い意味で使われている「バル」という言葉に、「そもそもバルって何だ?」という疑問を持つようになりました。
Wikipedia先生には以下のように。
バールまたはバル(bar)は、イタリア、スペインなどの南ヨーロッパで軽食喫茶店、酒場のことを指す。
出典:Wikipedia(バール (飲食店) - Wikipedia)2017年3月時点内容
“バル”という言葉はイタリア、スペインから来ているのですね。
これはもう現地へ行って、本場のバルを自分の目で確かめるしかないのでは? そんな気持ちに駆られ、気がつけばスペイン行きのチケットを取っていたのでした。
本場スペインバルは日本のバルと何が違う?現地で調査してみた
現地調査という名のもと、本場のバルでビールを飲みたいという野望を叶えるためにやって参りました、情熱の国スペイン。私はスペイン語を喋れませんが、いざバルに入った時にスムーズにビールが飲めるように「Una cerveza,por favor(ウナ セルベッサ ポルファボール)」
日本語で「ビールをください」
これだけを覚えて現地へ向かうことにしました。最初に滞在したのはマドリード。さあどこのバルへ立ち寄ろうか、と一歩街へ踏み出せば…バル、バル、ここもバル…。
至る所にバルがあり、逆にどこへ入ればいいのか目移りするほど。なぜこんなにバルが多いのか。
実はスペイン人にとってのバルは、生活に欠かせない存在なのです。
朝はコーヒーや朝食のために、昼間はランチやカフェとして、夜は家へ帰る前に1杯…。このように1日のうちにバルを利用する回数は一度とは限らず、朝から晩まで何度も利用する風習がスペインにはあります。
※現地時間夜21時くらいの様子。人が一番多く集まる時間帯です。
また、食事をする以外にも頻繁に利用されているお店も。
コンビニのような売店が併設されていたり、スロットなどのちょっとしたゲーム機が置いてあったりと、スペイン人の“暇つぶし”の場所でもあるのです。
バル=居酒屋 という日本流バルのイメージが強かっただけに驚きでした。
私も席へ失礼して「Una cerveza,por favor!」と声を掛けると、さっそくビールが…。日本とは全く違う、ヨーロッパならではの風情溢れる街並みに酔いしれながら飲むビールは大変おいしく感じました。
スペインバルに行ったらタパスやピンチョスを注文するのが基本
「タパス」とはスペインの小皿料理のこと。オリーブ、チーズ、ハム類の乾きもの、マリネやサラダなどの冷菜、アヒージョや揚げ物などの温菜の3つの種類に分けられます。この3種類をバランスよく注文するのがツウと言われています。
※タパスの一例。カウンター上のガラスケースにタパスが並んでいることが多く、食べたいものに指をさすとお皿に取って出してくれます。
「ピンチョス」とはさまざまな食材を串や爪楊枝で刺した、タパスよりも手軽なおつまみのことです。
※串で刺していなくても、手でつまんで食べられるおつまみ全般をピンチョスと呼びます。
そして日本のバルに見られるような、提供までに時間のかかる手の込んだ料理はあまりメニューでは見かけません。(※もちろん、レストランバルとしてきちんと食事を提供しているお店もあります)
スペイン人の夕食の時間は一般的に21時〜23時と遅い時間のため、夕食までの空いた小腹を満たすのが一番の目的なんだそうです。ですので、時間のかかる料理を注文する人は少なく、1杯飲んだら次の店へ行き、2〜3軒はしごをしてから帰宅するのが通常なんだとか。
日本人の「ちょっと一杯」感覚よりも、「夕食前にコンビニで買い食い」感覚に近いのかもしれませんね。実に贅沢だ…。
お酒も料理もとにかく安い!
スペインバルへ来て一番驚いたのは、価格の安さです!ビールやサングリアは1杯が大体3ユーロ(1ユーロ=約120円)と、日本の居酒屋よりも安いくらいの値段。さらにはお酒を頼むと自動的にタパスが1品ついてくるというお店もあり、約360円の値段でビールとおつまみをいただくことができてしまうというわけです。
※真夏の日中は軽く40℃を超えます。そんな中を歩き回ってヘトヘトになっても、至る所にバルがある上にこの安さ…。もはやビールが水代わりになっていました。
日本のバルにはない、スペインバル独特の文化と基本マナー
◆スペインバルの床はゴミだらけというのは本当?スペインバルでは、食事の時に出るゴミを床に捨てるという文化があります。
ゴミだらけのお店になんて入りたくない…と思うかもしれませんが、実はスペインではゴミが多いということはお店が繁盛している証拠=おいしいお店 という考え方もあるのだとか。
しかしここ最近では観光客も増えてきた関係や、マナー向上のためにゴミのポイ捨てを禁止しているお店が多いのだそうです。私もゴミがたくさん落ちているお店には遭遇しませんでした。
◆どのお店へ入るにも挨拶は当たり前!
これはバルに限らず、スペインのどのお店に入るにも「Hola!(オラ!/こんにちは)」と店員に声を掛けるのが基本マナー。挨拶によって店員も客が来たことに気付いて元気に挨拶を返してくれます。
※入店時の挨拶のおかげでアイス屋の美女店員さんと仲良くなり、モリモリおまけしてもらいました。
スペインで流行の最新バル事情
日本ではさまざまなスタイルのバルが増えていますが、スペインではどんな飲食・バル文化が流行っているのでしょう?実は今、スペイン現地ではメルカド(市場)グルメが大盛況。
※観光地としても有名なマドリード中心地のサン・ミゲル市場(左)と、バルセロナ旧市街地にあるボケリア市場(右)
市場に来れば新鮮な定番料理から珍しい食材の料理まで楽しめるということで、観光客はもちろんのこと、現地の人々も訪れ終日賑わっている場所でもあります。
バルや立ち飲み用のテーブルが併設されている市場が多く、各専門店では食材の販売とは別に、その場で食べられるおつまみやお酒も販売しています。
※サン・ミゲル市場は、各専門店で売られているタパスやピンチョス、ドリンクを好きに購入し、設置されているテーブルで食事ができるフードコートスタイル。
日本で言う屋台村のスタイルに似ているかもしれません。
現在、他の国でもフードコート形式の飲食スタイルが流行していると聞きます。横丁や屋台村のブームが起きていることを考えると、こういった1カ所でいろんな料理を楽しめる形式の飲食スタイルは日本でもまだまだ増えていきそうですね。
※ボケリア市場(正式名称:サン・ジュゼップ市場)は、新鮮な野菜や魚介類、フルーツや肉の専門店が並ぶ昔ながらの活気のある市場。個性的なバルも併設されており、買い物がてらにはしご酒が楽しめる。
“バル”と名乗るからには大切にしたいこと
もう一つのバル発祥の地であるイタリアにはスペインとはまた違ったバル文化があります。スペインやイタリアで培われてきたこの文化が日本に渡り、日本ならではの独特のバル文化が出来あがっていることがよく分かりました。しかし、どの国のバルにも言えることは、気軽に立ち寄って人々が食事とコミュニケーションを楽しむ空間であること。
これはどの国でも人々がバルに求める大事なポイントなのかもしれません。
※サッカー試合のテレビ観戦も自宅ではなくもちろんバルで。全員がテレビに釘付けになって盛り上がっていました。
飲食店という場所が、料理だけではなく「場所や空気を提供する場」でもあることを改めて実感した旅でした。
次はぜひ、イタリアのバルにも突撃してみたいものです。。。