◇◆◇ 理性と社会性を育てる(2001.8.1) ◇◆◇

 
 この夏も、常軌を逸した暴力事件、幼児虐待が続き、滅入ってしまいました。そんな折、会議のため高速バスに乗って東京へ出掛けました。バスは混雑していました。後の方に進むと、オヘソ丸出し、見事な金髪、お目々びっくり、ギラギラ化粧のオネエさんが、横に化粧バックを置いて2人分を占領していました。しばらくすると、化粧品の沢山入った化粧バックを開け、堂々と化粧を始めました。私は通路を挟んだ窓側の席に座り、唖然としながらチラチラと横目で観察していました。化け物のような化粧を終えると、突然、スプレーを取り出し、両脇の下と胸めがけて「プシュー」とやり始めました。車内に白い煙が立ち込め、化粧品の臭いが充満しました。しかし、誰も何も言いませんでした。私は、隣に座っている人越しに、「君、車内でスプレーは迷惑だよ。化粧だって良い事ではないよ」と注意しました。すると彼女は何も言わず、険しい目つきで一瞬私を睨みつけ、フンといった仕草で、声を立てずに口を動かしたのです。口の動きからして、確かに言いました。「バカヤロー、クソジジイ」と。
 
 又、あるホテルの朝食バイキングでのことでした。隣席に座った若いカップルが、山盛りの食べ物を残して、席を立って行きました。お金さえ払えば、勿体無いことをしてもいい良いわけありません。加減して、必要な分量だけ取って、残さないようにするのがマナーであるし、社会のルールです。
これらは、前記の社会で起きている現象と同根の問題であると思います。
 
 先日読んだ本の中に、脳のことについての記述がありました。感情を適切に抑えて、相手の気持をくみ、社会の中で自分の置かれた状況を知る、つまり
社会性や理性をはぐくむ働きをするのが、前頭連合野という部分だそうです。その前頭連合野というのは、額の内側にある部分で、他の哺乳類ではほとんどないに等しいほど未発達です。人類と枝分かれしたチンパンジーの遺伝子は、我々と98%同じですが、チンパンジーでも前頭連合野はヒトの6分の1、約70gしかありません。ヒトの進化とは、前頭連合野の発達と言ってもいいのです。そしてこの前頭葉は、幼児期の仲間との"遊び"が不足すると、よく機能しなくなると言われます。サルの実験で、2歳位まで仲間から隔離して育てると、元の集団に戻そうとしても、喧嘩が絶えなかったり、逆に引きこもってしまったり、社会性に欠け集団生活ができなくなります。調べてみると、前頭連合野を活性化する脳内物質の分泌が、他のサルに比べ少ないそうです。サルの2歳までは、人間の幼児期に当たります。人間の場合も、前頭葉の働きを良くするには、色々な年齢の子が、集団で戸外でよく遊ぶ事が必要であると思います。カッとしてすぐに切れない子を育てるためには、また、自分を抑えて理性的、社会的な行動ができる子を育てるには、家の中で一人でテレビゲームばかりしていてはダメです。理性や社会性を育てるには、"集団の遊び"の中で、どうしたらうまく付き合えるか、実際に体験できる環境を保障してやらなければなりません。実際にケンカしてみなければ、相手への手加減や、仲良くするにはどうしたら良いかわかりません。私達は、ヒトが人間として成長、発達することはどういうことか、もっと考えなければなりません。

 
思考したり、想像したりすることこそ、知的活動の中心であると思います。暗記ばかりの知的教育に偏りすぎていたのではないでしょうか?


 

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遊びの効用3(2001.07.01)