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【私説・論説室から】

故滝井判事の文書に思う

 一九九五年に起きた大阪市東住吉区の住宅火災。シャッター付きの駐車場で火災が発生し、隣接する浴室で入浴中だった長女が焼死した−。この火災は保険金目的で母親と内縁の夫が放火、殺害したとされ、二〇〇六年に最高裁で無期懲役判決が確定した。

 この判決の約一カ月前に滝井繁男判事が定年退官している。実は滝井氏は冤罪(えんざい)だとの考えを持ち、一、二審の有罪判決を破棄すべきだと書き記した。共同通信が入手した文書がそれを伝えている。

 滝井氏は正確に物事を見ている。被告の家の家計が窮迫していたわけではないし、母親に浪費癖があるというのも、おかしい。むしろ家計簿をつけてきちょうめんだ。お年玉もきょうだい同額で、娘への愛情が薄いわけではない−。そして、こう綴(つづ)る。

 「自白が捜査官の誘導で生まれたのではないかとの疑問をぬぐえない」「動機の不自然さ、客観的な状況との不一致を考えると、私は自白内容にどうしても全面的な信頼を置くことができない」

 そもそも二人とも無罪主張だった。一二年に再審開始が決定、昨年、再審無罪が確定した。滝井氏は一五年に亡くなっている。最高裁内部で滝井氏の見方が広がり支持を得ていればと悔やまれる。ちなみに滝井氏の兄は中日新聞記者から弁護士に、そして推理作家となった和久峻三氏である。 (桐山桂一)

 

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