中国 全人代開幕 成長率の目標引き下げ 米政権をけん制か

中国 全人代開幕 成長率の目標引き下げ 米政権をけん制か
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中国の向こう1年の重要政策を話し合う全人代=全国人民代表大会が始まり、李克強首相は、ことしの経済成長率の目標を、去年より引き下げ6.5%前後とすると公表しました。一方、「脱グローバリズムや保護主義の傾向が強まっている」と指摘して、アメリカのトランプ政権を、暗にけん制しました。
全人代は、5日朝北京の人民大会堂で始まり、李克強首相が政府活動報告を行いました。焦点だったことしの経済成長率の目標は6.5%前後とし、6.5%から7%としていた去年の目標から引き下げることを公表しました。
引き続き成長の速度よりも質と効率性を重視し、構造改革を進める狙いで、政府として経済のさらなる減速を容認した形です。

ただ「実際の取り組みでは、目標よりよい結果を得るよう努める」とつけ加え、インフラ投資など財政政策を、さらに積極的に行うなど景気の安定にも十分配慮する姿勢を示しています。

また李首相は、貧困人口の削減や環境汚染対策など国民の生活の向上に取り組む決意も強調しました。

一方、李首相は「脱グローバリズムや保護主義の傾向が強まり、不安定な要素が明らかに増している」と指摘したうえで、「中国は、揺るぎなくグローバルな経済協力を推し進める。RCEP=東アジア地域包括的経済連携の交渉を早期に妥結させたい」と述べ、アメリカ第一主義を掲げるトランプ政権を暗にけん制しました。

さらに、「『香港独立』に活路は無い」と述べ、香港の一部にある独立の主張を容認しない姿勢を強調するとともに、「いかなる形式、名目であれ、台湾を祖国から切り離そうとする者は決して許さない」と述べ、「1つの中国」の原則を受け入れない台湾の蔡英文政権を強くけん制しました。

中国では、指導部の大幅な交代を伴うと見られる5年に一度の共産党大会が、ことし後半に開かれることになっていて、李首相の報告は、それに向けて経済や社会の安定を最優先したい指導部の姿勢が全体に強くにじみ出たものとなりました。

また、ことしの報告には、習近平国家主席を最高指導部の中で一段ぬきんでた存在である「核心」と位置づけた表現が6回用いられ、習主席の権威づけが図られています。

経済政策の要点は

李克強首相は全人代で行った政府活動報告で、ことしの経済運営について経済成長率の目標を6.5%前後と去年より引き下げ、「実際の取り組みでは、よりよい結果を得るよう努める」と付け加えました。
これは、企業のリストラなど痛みを伴う構造改革を続け、成長の量から効率性の伴う質を重視する経済への転換を目指しながらも、景気の安定にも配慮する姿勢を示したものです。

構造改革の具体的な政策として、過去の行きすぎた投資による過剰設備が課題となっている鉄鋼と石炭を挙げ、去年に続き生産能力の削減目標を定め、鉄鋼が5000万トン前後、石炭が1億5000万トン以上それぞれ削減するとしています。

また、長年、赤字を出しながら地方の当局や金融機関の支援を受けて経営を続けているいわゆる「ゾンビ企業」は合併や再編を通じて効果的に整理するとしています。

一方、大都市でバブルとも指摘されている不動産については、「住むためのものという住宅の本来の性質を堅持する」として、投機的な取り引きの広がりを抑える姿勢を示しました。そのうえで、価格が高騰している都市では開発や販売のルールを定めるとしたほか、今なお多くの在庫が残り景気の足かせとなっている小規模な都市では、住宅を買いたい人への支援策を続けるとして、その判断については、地方が責任を持って行うとしています。

金融政策では「不良資産やインターネット金融などの積み重なるリスクを厳重に警戒する」として、通貨供給量の伸び率の目標を去年より1ポイント引き下げて12%前後としました。
また、「金融の監督管理体制の改革を推進する」として、銀行や証券、それに保険などの業界の枠にとらわれず総合的に監督を行うための仕組みづくりを検討する方針です。

個人消費に関わる雇用や所得の面では、都市の新規就業者数の目標を1100万人以上と去年より100万人増やしました。
一方、住民所得の伸び率は「経済成長率とほぼ同じにする」としたほか、消費者物価指数の上昇率の目標は、去年と同じ3%前後に据え置きました。

財政面では「財政政策をさらに積極的にする」として、企業の税負担を減らす一方、道路と水運の整備に日本円で29兆円余り、鉄道建設におよそ13兆円をそれぞれ充てるなどインフラ建設を促します。
ただ、財政赤字のGDP=国内総生産に対する比率は3%と去年から据え置きました。

経済の活性化策としての新たなビジネスや中小企業の育成に向けては、零細企業の企業所得税を半減する優遇措置について対象範囲を広げるほか、中小企業がインターネットの専用回線に接続する際の料金を大幅に引き下げる方針です。

貿易・投資面では輸出と輸入の不振が続く中、貿易総額の数値目標は去年に続いて示さず「安定・好転させる」という表現にとどめ、外資を呼び込むため、サービス業や製造業で外国資本の参入条件をさらに緩和するなどとしています。
李克強首相が行った政府活動報告について、北京市内では、環境対策などに期待する声が聞かれた一方、政策の実行力を疑問視する声も聞かれました。

このうち、河北省出身の67歳の男性は、大気汚染などの環境問題について「国民が影響を受ける問題で、重視している。青い空と白い雲を見ることができる環境をつくってほしい」と話していました。一方で、遼寧省出身の36歳の女性は、「国のリーダーたちは国民の生活について関心を持ってくれてはいると思うが政策が立案されても実行されなければ意味が無い。中国にはこうした問題があるが、いち国民は口をはさむことはできない」と話していました。